壹幕:序。
第七話 新生活スタート。
「学校!!?」
「当たり前です。ワタシ小学生ですよ?」
ルゥダちゃんはピカピカに光る緑色の可愛いランドセルを背負い、小さな体にピッタリな比較的新しい制服に丸い黒帽子を被り、腕を組みながら僕の顔をジト目で見上げる。
「あの世にも学校なんてあるの!?」
「あの世じゃないです。モモバースです。」
ルゥダちゃんは玄関に向かい、小さい靴を履いて学校に行く支度をした。
「僕…、何しといたらいいかな…?」
「セツ兄、もう二十六歳なんでしょ?」
「うん…。」
「なら、働かなきゃですね。」
「え…働く…?」
「七歳のワタシでも朝から学校行くんだから。」
「…ごもっとも…。」
「じゃ、いってきます!」
ルゥダちゃんはニンマリと笑いながら手を振り、ドアを開けた。
僕もドアが閉まるまで手を振り返した。
「え…、僕、マジでどうしたらいいんだ…。」
ルゥダちゃんを見送った後、何も思いつかない僕はとりあえずスパスパと履いているスリッパを鳴らしながら、やけに広いリビングを抜け、タバコを吸う為にバルコニーに向かった。
カーテンを開け、窓を開けた瞬間だった。
「うわっ!!!」
足がすくみ、思わず尻餅をつく。
前日ヘキザさんからもらったタバコを握り締め、ガクガクと体が震える。
「何じゃここーー!!」
窓の外から見えるのは、地上百メートル以上はあるんじゃないかと思う程の高さからの眺望。
遠くには海が見え、その内側は超高層ビルが立ち並ぶ大都市が一望できる。
高所恐怖症の僕にとってこの眺望は、視界が霞んでいくような感覚に襲われるくらいの恐怖モノだった。
「ひえ…。」
今いる場所が地上から高すぎる位置にいるとわかった瞬間、手足を広げ、地面にへばりつくように寝た。
「う…。助けてくれ…。」
仕事やタバコどころじゃなくなってしまった。
ルゥダちゃんは真面目に元気に学校へ向かったというのに…、僕は朝から地面にへばりついて何してんだろう…。
途端に賢者モードになり、情けなくなった。
「一人で何やってんだ僕…。」
僕は起き上がり、壁を伝って玄関まで行き、外へ出た。
「ぎやああああーーー!!!」
玄関を出た先の内廊下は、ぐるっと一周できる形になっていて、その中心は吹き抜けになっていた。
吹き抜けを覗くと、いくつもの階層が永遠と思えるほど下までズラッと続いていた。
「ルゥダちゃんなんてとこ住んでんだよおーー!!」
まるで石のようになった足を引きずりながら、匍匐前進をしながら内廊下を進んでいくと、エレベーターを二基見つけた。
「マジか…。」
エレベーターのボタンの上に書かれていたのは、四十三階と書かれたマークだった。
「あれ…?もしかしてセッちゃん?」
すると後方から聴き慣れた声が聞こえたもんだから、ゆっくり振り返ってみた。
そこには、水色のパンツがギリギリ見えてしまっているミニスカートの制服を着た女子高生が体育座りで座っていた。
少し肉つきのある太ももから、スーッと視線を上げると、青空のように綺麗な水色のショートヘアに、パチクリとした大きな瞳、特徴的な八重歯が見える。
「シャパメロさん…?」
「シャパメロ!?久しぶりに呼ばれたよその名前。みんなメロちゃんって呼んでくれてるから、メロちゃんって呼んで!」
「…メロちゃん。」
「どーしたの?もしかして誰かに命狙われてる??」
「あ、いや…。」
マンションの内廊下を匍匐前進している自分を改めて客観的に見ると、誰だって心配するのは当然だ…。
僕はすぐに立ち上がり、服についた汚れを手で払い、コホンと咳払いする。
「ちょっと、親衛隊に入る為に練習してた。」
「ここで練習!?しかも匍匐前進!?ははっ!セッちゃん面白いね!」
キャッキャと笑うメロちゃんは、見た目通りの今時の女子高生だった。
制服姿を見る限り、メロちゃんも高校へ行くところだろうか…。
やはり、モモバースは学校もあるし、働き口もある。
本当に死んでも人生やる事変わらないじゃん…。
「メロちゃんはどうしてこんなとこに…?」
「だってうち、そこだもん。」
メロちゃんが指を差す先は、さっき僕が出てきた部屋の左隣の部屋だった。
「え…、隣?」
「うん。ここメブ親衛隊の寮だもん。まあルゥダちゃんだけはニア先輩の部屋借りてるんだけどね。」
「あ、そうなのか…。」
「え?今隣って言った?もしかして…、まさかだけどルゥダちゃんの部屋に住んでんの!?ウケる!」
またメロちゃんはキャッキャしながら笑う。
「セッちゃん、一歩間違えれば犯罪だよ??」
「うるせっ。」
僕はメロちゃんに背を向け、エレベーターの下ボタンを押し、エレベーターが来るのを待った。
「んで、どこ行くの?」
「どこへ行ったらいいのか、僕もわからないんだ。」
「はは!何それウケる!」
「ルゥダちゃんは働いた方がいいんじゃない?みたいな事言ってたから、まあ働こうとは思ってるんだけど…。」
「うーん。じゃあうちの実家で働いてみる!?」
「え!?メロちゃんの実家!?」
「私のとこ、親が離婚してママが一人で店切り盛りしてるんだよねぇ。」
チーン。というベルの音が、エレベーターが今いる階に到着した事を告げる。
「…何の店?」
僕は一応気になったので、恐る恐る訊いてみた。
メロちゃんの口から出た答えはシンプルだった。
「中華料理屋!!」
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