翠葉の実態その1。(小学一年生の五月)
澄んだ青の空に、どこか懐かしい夏の涼しい風が吹く朝。
まだ新品のランドセルを背負い、母さんに見送られながら登校した。
住宅街の隙間を流れる用水路のそばを歩いたり、畦道を通り、学校の正門に辿り着く。
僕は緊張でどうにかなりそうな感情を振り払い、正門の中へと入っていった。
廊下を進む道中、いきなり一番会いたくない人物と目が合った。
「来れんじゃん。」
「あんな事言われたら…、来るしかないよ…。」
こないだ、僕の家に文句を言いに押しかけてきたピーマン女だ。
今日も緑色のワンピースを着ていて、見事に全身緑色の姿をしていた。
「席、わかんの?」
「どーだったっけな…。」
「私の前だから、ついてきて。」
ピーマン女は僕の手を取り、僕の席へ案内してくれた。
「げ。」
自分の机の下を見ると、言われた通りプリントで埋め尽くされていた。
「それ、持って帰れよ。全部。」
「うん。ありがとう。」
ランドセルを開け、プリントをひたすら詰める。
プリントはちゃんと綺麗に入れられていて、折り目もなかった。
毎日毎日、一枚一枚配られてきたプリントをわざわざこんな綺麗に入れてくれていたのかと考えると、確かに迷惑をかけていたんだなとしみじみ思った。
「今までごめん。えと、何だっけ名前?」
僕は席に着き、後ろを振り向いてピーマン女にそう聞いた。
「玉森翠葉。」
「…よろしく。」
「あんた、全然話せるじゃん。何で学校来なかったの?」
「…なんでだろ。」
この日を境に僕は、翠葉の前の席である限りはちゃんと登校としようと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます