♣︎玉森翠葉の現況レポートその1。
「面会は十分間です。」
警察官の一人が、とある男の弁護士にそう言うと、
「やけに短いんだねえ。」
と、やさぐれた口調で警察官の一人に返すが、何も返答がないまま、面会室の重たいドアは閉められた。
「君が…玉森翠葉さん…?」
弁護士の先にある透明な仕切り板の隔たり。
その向こうには、翠緑色の髪をした若い女性が両目に包帯をぐるぐると巻かれた状態で、姿勢良くパイプ椅子に座っていた。
「驚いたな…。こんな若い人だったとは。」
弁護士は額に少し出た冷や汗をハンカチで拭い、パイプ椅子へと腰掛けた。
「知ってると思うが、今回の事件であなたの弁護士を務める柳田です。」
弁護士の言葉に、静かにコクッと少し頷く玉森翠葉。
「面会が十分だけなので、手短にいきます。」
また、静かにコクッと少し頷く。
「今回死亡した白嶺刹李さんなんですが…、」
「私は殺してないっ!!」
ダン!!とパイプ椅子を倒す勢いで立ち上がった玉森翠葉を見て、ビクッと柳田は震えた。
「だ、大丈夫です!その為に私達弁護士はいます!あなたの無罪を主張できるように、情報を欲しいんです!」
「私が殺すはずだったのに!!私が殺さないと意味がなかった!!だけど…、誰!?誰が刹李君を殺したのよ!!」
ドン!ドン!と拳を机に叩きつけ、額を仕切り版に押し当て、物凄い喧騒で弁護士を睨みながら叫ぶ玉森翠葉を、弁護士は何とか落ち着かせようとする。
「落ち着いてください!刹李さんの死体現場には目玉が二つ落ちていました!一つは刹李さん本人のもの!もう一つは踏み潰されていて身元が特定できない状態です。そしてあなたの右目は刹李さんの右目に移植されていました…。しかし、あなたのもう一つの目玉がまだ見つかっていません。ということは、あなたの今無い左目は現場に踏み潰されていた目玉ですか?それとも別の第三者の目玉ですか?」
「別の誰かが私がするはずだった事を全部やったの!泥棒猫!!私の目玉も奪っていったわ!!許さない!!絶対地獄に落としてやる!!いい!?私は死神なの!!私はいくらでも人の命なんて刈り取る事はできるのよ!!早くあの泥棒猫を捕まえて私に差し出して!!私の刹李君を返して!!死刑確定!!確定ぇぇぇーーー!!!」
凄まじい玉森翠葉の発狂ぶりに、圧倒された弁護士は、後退り、思わず腰を抜かす。
「こ、これじゃ無罪の主張どころか…、責任問題の話になってくるよ…。」
そうして玉森翠葉は、白嶺刹李という単語を皮切りに、面会十分間の間、発狂し続けた。
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