第4話 デイドリーム・ストリーマー



 その部屋はひとことでいうなら異様だった。



 壁も床も天井も緑色に染められ、さらに100以上のモニターがすべての壁を覆っていた。各モニターには人が映っている。しかも全員が男性だった。



「あられはねェ」



 部屋の中央では女子がひとりしゃべっている。



「ちょいポチャだからがんばんなきゃって思ってンチャ。きょうも何もたべてなくってェ、オナカ減りすぎでもう寝るつもりンチャ」



 声は鼻がつまったかのように甘ったるく、不明瞭。だが、視聴者からすればそれが良いらしい。



「そうそう、ごめんねェ。ンじゃあ、みんなおやすみんンチャ!」



 手があがるとモニターが一斉に消えた。女の子はFUUと息を吐くと、






「なあああにがンチャンチャじゃあああ!」



 ヘッドセットを緑の床に叩きつけた。さらには足裏でそれを踏みつけ砕いた。



「キィィィィ! くそブタどもめぇえ、今日も今日とて調子にのりやがって、人の気も知らないでぇぇええ!」


「な? 表裏すごいんだ」


 サンライトは隣りに立つレーセンに説明した。


 鶏山とりやまあられ


 フォロワー数が10万を越える超超人気VT

ubeストリーマーである。



 そしてL-7のメンバーだった。

 コードネームLレデイ.ドローン。



「あられが実は本名で、気軽にマジックの動画アップしたら人気出てしまって、手品が本当は本人の念動力サイキツクだったとは今更言えない秘密を持った女の子だ」


「私は子じゃなく女性な」


「ネット上ではぽっちゃり系女子高生なんだ」


 サンライトはそう言ったが、レーセンの目には真逆に見えた。身長が高くて腰が細い。端正な顔立ちはかわいいというよりは美人。黒いモーションキャプチャースーツで覆われた身体は女性そのものだった。

 


「あ、あのあのわ、わたし西畑、いえ、レーセンです。と、鶏山さん」


「あられでいいッチャよ。あ、ごめん。癖ついちゃうんだ。話は聞いているよ。ずっとひとりで大変だったね。私のことは姉だと思って何でも言ってね、レーちゃん」


「は、はい!」


 L.ドローンがにっこりとほほ笑むともうレーセンは簡単に心をうばわれてしまった。


 ここへ来て一週間が経つ。


その間にも女性には会ったが皆がみな、仲間というよりは職員という感じだった。サンライトは優しいが、同じ女性が仲良くしてくれるのが嬉しい。


「レーちゃんの不死化能は出てるの?」


 L.ドローンが尋ねた。それはレーセンへ訊いた言葉のようで、実質サンライトへ向けられたものだった。

 それら特質なことは彼女は教科書を読んだ程度にしか理解できていない。


「顕現していない。今は」


「す、すいません」


「「謝ることじゃない」」


 2人そろって言った。


「大きな代償が大きなちからを連れてきてくれる」


「エイジ、わたしはそんなに大きな代償を払ったおぼえがない」


「17年間も人と会わずに生きてきたことが? 学校も行かず友達もいないことが?」


「サンライト、そういう言い方はやめな。ほんとデリカシーがねえ大佐カーネルにそっくりだぜ」


「わ、わたしは大丈夫。お母さんがいたから」



「な!」L.ドローンは絶句した。

「ああああああんって良い子なのぉおおお!」



 驚く間もなくレーセンは抱き寄せられた。スーツのせいで温もりはなかったが、女性らしいやわらかさを感じ、レーセンは泣きそうになってしまった。


「きれいな白い髪だね」


 頭をなでなでされた。


「レーちゃんはきっと強くなる。誰よりもきっと。やさしい強い子になって」


「あ、あられさんもつよいんでしょう?」


 質問したのは何か口にしなければ嗚咽がこぼれてしまいそうだったからだ。


「私はそんなに強くないよ。単純な戦闘力で言えば又鬼マタギのおっさんが一番強い。私が得意なのは情報収集なんだ。あと移送かな」


 L.ドローンはレーセンを抱きしめたままクルっと振り向いた。三面の壁に天井。それぞれにビッシリとモニターが敷き詰められている。


「彼らが私の指示でドローンを飛ばしてくれる。情報を集めて、無人機で仲間を運び、時には攻撃してくれる」


「その力を借りに来たんだ」


「東京だな」


 L.ドローンが指をふるとセンサーが反応して、ひとつの画面が目覚めた。日本地図が映し出され、そのうちの旧東京・六本木が赤く染まっていた。


「行くか」

 言い忘れてたようにL.ドローンは付け足した。


「ンチャ」


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