第2話 廃炉王


 日本という国は3度も被ばくしている。2つは先の大戦。



 もうひとつは原子力発電所事故。



 ソ連(チェルノブイリ)もアメリカ(スリーマイルアイランド事故)という大国でも被曝は1度だけなのだ。



 ヒロシマ


 ナガサキ



 そしてフクシマ。



 その双葉町の津波被害も原発事故から24年も経過し、瓦礫は片付けられている。なので、敷地にささった・・・・原子力潜水艦は大震災の津波のせいではなかった。




 元・福島原子力発電所は原子力潜水艦を奪っていた。その数6。




 SSN―702号 ロサンゼルス級原子力潜水艦『フェニックス』


 米国のものだけではない。



 ロシアのヤーセン型原子力潜水艦。


 

 中国の長征6号級。



 イギリスのトラファルガー級原子力潜水艦。




 それらは波に打ち上げられたものではなく、人為的・・・に運ばれたものであった。




 しかもひとりの男の手によって。




 6隻の原子力潜水艦が囲うのが彼らの王宮だった。その玉座はエメラルドグリーン色に輝いている。


 王の前には白い除染服を来た軍団が整然と並んでいた。皮肉にも『安全第一』と書かれたヘルメットを全員が被り、ガスマスクを着用していた。

 王もまたガスマスクを被っているが、彼だけは除染服を着ていなかった。


 その必要がないからだ。むしろ、彼が除染の源を発している。


 仲間への被害を抑えるために彼は銀色のマントを羽織っていた。




――廃炉王 Aトミック




 最も放射線を被曝した彼は、最も強い力を持っていた。



 ここにいる全員が被害者であり、被爆者であった。



「親愛なる同志たちよ!! 聞けぃ!」


 Aトミックが拳を振り上げる。背後にあったエメラルドグリーンの明かりが強くなったのは気のせいではない。


「卑劣な政府は京都に逃げ、東京も未だ我らXXの手に入っておらん、なぜか!」


 呼びかけに、20世紀の軍勢は熱狂的に応える。地震よりも強く廃炉が揺れる。それだけ相手に辛酸をなめさせられていたのだ。


「そうだ! あのレーワの小僧どもだ!」


 廃炉王は拳を振り下ろした。机があったのなら叩き割っていたかもしれない。


「しかし彼奴きやつは人形に過ぎん!東京電力から新京電力なぞと名前を変えた、姑息な昭和の亡霊どもの!!」


 歓声に比例するかのようにエメラルドグリーンが強くなり最も輝いた。それは彼らの、彼の怒りがピークに達したためであった。


「この国を汚した政府を許すな! 役人共を罰せ! 官僚どもを引きずり出すのだ! まずは邪魔な東京を蹂躙じゆうりんしろ! 徹底的に滅するのだ!」


「廃炉王様!」


 最前列のうちの、ひとりが進み出でて跪いた。

王の目に直接まみえる最前列の彼らは特に強い不死化能を持っていた。

 王から直に名をたまわっている。


「オレにやらせてください」


 進み出たのはカウントダウンだった。


「CDか。うむ……」


「オレではムリですか? そう思ってるんですかい?」



 CDは長い金色の髪を後ろに払った。CDその名のとおり、顔は古あせているが目は現役に輝いていた。レコードからテープへ、テープからCD、そしてデジタルへ音源は移動してもCDはまだ現役のつもりなのだ。


「なんならオレひとりで京都まで行ける」


「いや私は仲間を失いたくないだけなのだ。ビッチバイカーを同行させろ」


「でもあいつはほらいつもの通り」


 CDは小指と親指をたてて回転させてみせた。アロハ、と陽気に挨拶のジェスチャをしてみせた。


「ビッチバイカーは放浪してて今は四国らしいですよ」


「クククク、あいつらしいなぁ」


 Aトミックは笑いを堪えきれなかった。とがめるつもりなぞまったくない。四国といえば敵地である。しかし、彼女のにとってそんなことは関係ない。Aトミックはそれが愉快であったのだ。


「ではCDよ。同志100人ほど連れてゆけ」


 その数にCDは驚いた。もちろん全員が不死化能を持ったトゥーマである。首都機能を喪った東京には過剰であった。むろん、自分のことを心配してくれているのもわかる。


「いえ、10人で充分」


「決して死んではならぬぞ」


「オレたちは不死身ですぜ」


 Aトミックは首をふった。


「それがおごりなのだ。L-7には我々を殺せるヤツがいる」


 Aトミックは奥歯をかみしめた。奴らがいなければ自分ひとりでも東京なぞ戦略核でおとしめる。

 廃炉王は放射線を発している。それは東京に近づけばすぐにガイガーカウンターにひっかかってしまうのだ。


かつて戦い、負けぬまでも攻略できなかった彼奴らのことを思い出し、気道をふさがれた思いであった。


(次は容赦せぬ)


 廃炉王は固く決意していた。

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