第四二章 回り廻る花弁の如く

 赤みがかった黒い髪に血の気を感じさせない白い肌、その体はビキニの水着を思わせるような形に真紅の鱗で覆われ、前腕や下肢といった手足の一部にも純白の鱗が生えている。

 よくよく見てみればサラに似ている――のだが、明らかにサイズが大きい。

 普通のヒトと同じくらいのサイズなのだ。

 それに、サラにはあった背中の翼や尻尾も見受けられない。


「ふっふっふ……さっそくワシの新たなる美貌に驚いておるようじゃのう」


 しかし、そう言いながら得意げに宣うその声は、間違いなくサラのものだった。


「見よ! この美しい鱗! 体は赤で手足は白! 翼と尻尾は出し入れ自在じゃ!」


 そう言った瞬間、いきなりバサッと音をたてて背中に翼が現れる。

 よく見たら尻尾も生えているようだ。す、すげえ……。

 ――って、やっぱりサラなのか?

 でも、なんだっていきなりそんな急成長を果たしてるワケ……?


「あの竜の王の核を取り込んだんだってさ」


 そう言いながら、リンドブルムの亡骸のほうから疲れた顔をしたアイシャがやってきた。

 その手には血に濡れた段平が握られており、装衣も血糊でドロドロになっている。

 竜の王の核——?

 魔族の心臓に形成されるという『魔王の血涙』のようなものが竜にもあるとか……?


「うむ。竜結晶じゃ。魔王の血涙と同様、竜の王の心臓に形勢される力の残滓じゃな!」


 言いながら、何故かドンッと自分の胸を叩いている。

 ふむ。どうにも状況が判然としないな。

 要するに、竜結晶とやらを取り込んだから急にデカくなったということなのか……?


「サラは竜の王の心臓を使って自分の体を再生成したんだよ」


 ラシェルの手から逃れたシエラが、俺のもとへと駆け寄ってきながら言う。

 竜の王の心臓とな。

 ひょっとして、その切り出し作業をさせられていたからアイシャは血みどろなのか……?


「そうだよ。ホント、疲れてるのにヒト使いが荒いんだからさー」

「ふん。誰のおかげで竜の王を倒せたと思っておるのじゃ」


 文句を言うアイシャをサラがギロリと半眼で睨みつけ、かと思えばコロッと妖艶な表情に変貌させながら、妙に嫋やかな足取りで俺のもとまで歩み寄ってくる。


「今やワシは老獪たる紅き竜王と若き白竜の王の力を併せ持つまさにハイブリッドなドラゴンリッチなるぞ。よもやヒトの僕に収まるような器ではないと思わぬか?」


 そう言いながら俺の傍らにしゃがみ、冷たい指先でそっと俺の顎先に触れてきた。


「主よ、もともとワシらの契約は事故のようなもの。今一度、真にどちらが上に立つべき者かハッキリさせるのも良いのではないかのう……?」


 蠱惑的な瞳で真っ直ぐに俺の顔を見つめながら、サラがぺろりと舌なめずりをする。

 こいつ、ひょっとしてリンドブルムの残滓を取り込んだことでちょっと好戦的になっているのではないだろうな……。

 ――と、俺がそんな不安に駆られていると、唐突に現れたラシェルが先ほどのシエラと同様にサラの首根っこを掴んで引きずっていった。


「はいはい、あんたもキョウスケを誘惑しようとしない。なんだってあんたたち従魔はそうやってすぐに盛ろうとするのよ……」

「ま、待てい! 聞き捨てならんぞ! すぐに盛るのはおぬしのほうじゃろうが! ワシはあくまで主と力比べをしようと提案しておるだけで……」

「なんの力比べをするつもりよ!? どうせエッチなこと考えてるくせに!」

「それはおぬしじゃろうが! 肉欲にまみれた煩悩エルフめ!」

「だ、誰が煩悩エルフよ! 言っておくけど、全部キョウスケが悪いんだからね!?」


 な、なんでっ!?


「まあ、確かにキョウスケくんが悪いかな……」


 手巾で段平についた血糊を拭いながら、何故かアイシャも同意している。

 そして、言い争いを続けるラシェルとサラを横目にスススッと俺のそばまで歩み寄ってくると、折り目正しく膝を折ってその場に座りながら、俺の耳許に顔を寄せて言った。


「サラも急に大きくなっちゃったし、今夜の宴会がますます楽しみだね……」


     ※


 その後、俺たちは今後のことを相談しつつ岩山を下山した。

 ひとまずレッサードラゴンやリンドブルムの亡骸についてはノティラスの業者に頼んで直接現地まで引き取りに来てもらうことになりそうだ。

 通常の魔物と違って竜の素材は有用な部分が非常に多く、とくにリンドブルムの素材ともなるとその希少性も高くなってくる。

 雑に解体して残りの部位を腐らせてしまうよりは、多少利率が下がっても余すことなく業者に回収してもらったほうが結果的に儲けは増えるだろうとの判断だった。

 俺たちに必要な部位についてはすでにサラの新たな肉体として頂戴したわけだし、あとはグスタフが欲しがりそうな素材だけでも確保しておけばいい。


 事後処理を片づけたあと、俺たちはフィーやシンシアにも声をかけて予定どおり我が家で宴会をすることになった。

 こんな毎夜ごとに騒ぎ立てては近所迷惑になりやしないかと少し心配になったが、思えばご近所と言える距離にあるのはフィーの雑貨屋くらいだし、そこまで気にする必要はないのかもしれない。

 俺たちはフィーの喚び出した家事妖精の作る美味しい料理に舌鼓を打ちながら、シンシアの持ち込んだいろんな地方の銘酒を浴びるように飲みながら夜を過ごしていった。


     ※


 ――明かりの落ちた室内で、ベッドの軋む音が響いている。


「あ、あッ……ウソじゃ……こんな……本物が、こんなに良いなんて……んンッ……!」

「あんた、いっつも偉そうなのは口先だけよね……」

「ねえ、フィー……ンんっ……シエラのココ、触って……」

「ええっ……? ま、まあ、別に良いけど……」

「い、いかん! いかんぞ、シエラ、おぬしの感覚が……んあアッ!」

「な、なんかサラちゃん、どんどんすごいことになってるけど……」

「んン……キョウスケぇ……んむ……ちゅっ……」

「ちょっとシンシアさん、そろそろ変わってって言ってるでしょ」

「ほら……こういうのがいいんだろう……?」

「す、すごいよ、フィー……んンッ! シエラもおかしくなっちゃう……っ!」

「み、みんなズルいよ! ねぇ、キョウスケくん、手だけで良いからアタシも……」


 ――宴は続いている。


    ※


 ——明方、薄明かりのついた部屋の中から女性の話し声が聞こえてくる。


「お先ー。シャワー浴びたい人がいたら勝手に使ってくれていいわよ」

「それじゃ、借りようかな。どうせ帰ったらすぐに店を開けなきゃいけないだろうし」

「アタシも浴びてっていい?」

「良いけど、狭いから一人ずつじゃないと無理よ」

「先に浴びるかい?」

「ううん、フィーが先でいいよ。アタシは別に急いで帰らないといけないわけでもないし」

「そう。それじゃ先に浴びさせてもらうよ」

「……んっ……キョウスケぇ……ちゅっ……んむ……」

「……シンシアさん、まだやってるの?」

「ずーっとあんな感じだよ」

「ねえ、みんな見て、マスター、寝てるのに大っきくなってる」

「もう、やめてあげなさいよ。これ以上無理させて枯れ果てちゃったらどうするの?」

「えー? 大丈夫だよ。マスター元気だもん。あむ……ん、ん、んっ……」

「なんかちょっとかわいそうになってきたかも……」

「サラは? サラもまだ寝てるの?」

「うん、ずっと寝てるよ。なんかたまにビクッてなってるけど」

「エラそうなこと言うわりに、大したことないわよねぇ」

「でも、アタシたちの倍くらい気持ち良いんでしょ? 想像しただけでもヤバいよね……」

「まあ、それは確かに……でも、それならなんでシエラは大丈夫なのかしら」

「うーん……魔族だから?」

「あー、そういうのも関係あるのかしらね?」

「んぶっ……! ん、ちゅるっ……えへへ……マスター、まだいっぱい出るね……」

「ちょっ……やめなさいって! ホントにキョウスケが干からびたらどうすんのよ!」

「……なんかまたムズムズしてきちゃった。キョウスケくん、早く起きないかな……」


 ——宴はまだ続いている……。


    ※


《スキル派生条件を達成しました。【絆・契り(輪華)】を獲得しました》

《スキル派生条件を達成しました。【絆・契り(絶)】を獲得しました》

《スキル派生条件を達成しました。【絆・契り(冒涜)】を獲得しました》

《【絆・契り】の派生条件を達成しました。【絆・契り(燕返)】を獲得しました》


:絆・契り(輪華) 【輪回る輪回る……その姿はまるで華の如きです(特技【ラウンドフォース】を獲得)】

:絆・契り(絶) 【絶倫にして絶技。床の上であなたに勝てる者はもはやいないでしょう(自身のVITに1.5倍補正。技能ランクを一段階補正(なお、本スキルによる補正は限界値を超えて適応されます))】

:絆・契り(冒涜) 【不死者と交わるだなんて……!(特性【穢れ】を獲得)】

:絆・契り(燕返) 【返すのは何も刀だけとはかぎりませんね(特技【スワローテイル】を獲得】

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