第二四章 爆破系魔法戦士

 す、すごい! 思った以上に強力な魔術だ! ――と、驚いている俺の視界の端に、不意に奇妙な表示が浮かび上がった。


 エクスプロッシブ 4/5 CT残:180


 どうやら【エクスプロッシブ】は最大五回まで連続使用が可能で、一回あたり180秒のチャージタイムが必要になるということらしい。

 何やら不思議な感覚で見た瞬間に理解できてしまった。

 俺が知るかぎり一般的な魔術や法術は本人の魔力量によって強さや使用回数が決まるものという認識だったが、【絆】スキルによって獲得したものは仕様が異なるらしい。


「す、すごいじゃない!」


 フィーたちを退避させて戻ってきたラシェルが、驚いたように俺の背中を叩いてきた。

 もっとも、見た目の派手さに反して一撃で致命傷を与えられるほどの威力はないらしく、盗賊も魔術師もそれぞれに吹き飛ばされた先でのそりと身を起こしはじめている。

 どうせならこのまま逃げ帰ってくれても良いのだが、生かしておいて変に遺恨を残しても面倒だし、やはりとどめはきっちりと刺しておくべきか。


「あっちの魔術師はあたしがやるわ。キョウスケはクロスボウのほうをお願い!」


 そう告げながら、ラシェルがウーツ鋼の短剣を抜いて魔術師に飛びかかっていく。

 ラシェルのメイン武器はあくまで弓矢だが、短剣を使った近接戦闘においてもその強さを色褪せない。

 彼女がやると言うのなら、あちらは任せておいて問題ないだろう。

 俺は盗賊のほうに向き直ると、どうせならと今度は別の魔術を試してみることにした。


「【ライトクレイモア】!」


 瞬間、盗賊の足許に魔法陣のようなものが現れ、その上に小さな光球がふわりと浮かぶ。

 しかし、それ以上の反応はなく、盗賊は警戒するように光球から距離をとったあと、取るに足らないものと判断したのか気にせずクロスボウを放ってきた。

 ど、どういう魔術なんだ——?

 俺は慌てて飛来するボルトを盾で弾きながら、ひとまず盗賊との距離を詰める。


 ——と、そのとき、またしても視界の端に新たな文字列が増えていることに気がついた。

 それに加えて、頭の中にいつもの音声が響いてくる。


 ライトクレイモア【設置済み】 1/1

 ライトクレイモア 2/3 CT残:300


《【ライトクレイモア】は設置型スキルです。方向指定、および起爆のタイミングは調整可能ですが、設置後にキャンセルした場合でも使用回数は戻りませんのでご注意ください》


 おお、久々の脳内音声さんによる解説!

 そういえば【ライトクレイモア】は【絆・地雷】を覚えた流れで習得した魔術だし、要は地雷系の魔術ということか……?

 ——そうか! てっきり刀剣の名称か何かだと思っていたが、指向性地雷のほうか!

 かつて俺がいた世界にそんな名前の兵装があったような気がするのだ。

 神が与えた力に文句を言うつもりはないが、なんというニッチなチョイスか……。

 いや、まあいい。幸いにも盗賊は完全に油断している。

 うまくあの光球の近くに誘導できれば、下手に距離を詰めなくとも倒せるかもしれない。


 俺は敢えて盗賊の懐に飛び込むのはやめ、互いの位置関係を確認する。

 向かって正面に盗賊がいて、そこから少し右に離れた位置に【ライトクレイモア】の光球が浮かんでいる状態だ。

 今の位置関係で起爆してもある程度のダメージは与えられるかもしれないが、どうせならもっと接近したところでお見舞いしてやりたい。


 ——そこで、俺は妙案を思いついた。


「【エクスプロッシブ】!」


 俺は再び叫び、向かってやや左前方――盗賊と光球の反対側に狙いを定めて魔術を放つ。

 先ほどすでに同じ魔術を見ている盗賊は、光の粒子が収束していく様を見るなりすぐさま距離を取るように跳躍した——光球の浮かぶほうへ。

 俺は【ライトクレイモア】を意識しながら、頭の中でスイッチを押すように念じた。

 すると、それまで音もなく宙に浮かんでいた光球が突如として光の刃を飛ばしながら炸裂し、飛び込んできた盗賊の胴体に一瞬にして無数の穴を穿つ。

 さらにその衝撃で押し戻された体を【エクスプロッシブ】の衝撃が襲い、盗賊は錐揉み回転をしながら血飛沫をまき散らして地面に叩きつけられた。

 即死かどうかは分からないが、まあ致命傷には違いないだろう。


 ラシェルのほうはどうなっただろう——と、そう思いながら見やると、どうやらそちらのほうもすでに片がついているようだった。

 地に伏して動かなくなった魔術師の傍らに座り込み、そのローブで短剣についた血糊を拭っているラシェルの姿が見える。

 俺もあやからせてもらおうかな……。


「あんた、どんどん戦いかたがムチャクチャになってくるわね……」


 ラシェルが歩み寄っていく俺を見上げてきながら、呆れたようにそう言った。

 まあ、使えるものはなんでも使うのが俺の戦法ですよ。


「アリオスたちといるときは、もうちょっと地味な戦いかたしてたじゃない。あんまし攻撃に参加してるイメージなかったし」


 まあ、あのパーティでの俺の役目は壁として敵の攻撃を引き受けることだったからな。

 攻撃はアリオスやラシェルに任せておけば問題ないし、後衛職としては【大魔導師】のイルヴァもいたから、余計なことをするよりも壁役に専念することが俺の務めだと思っていたのだ。


「……今さらだけど、それが良くなかったのかもね。あんた、亀になったらダメなタイプよ。グスタフさんとの稽古でも盾の使いかたなんて教えてもらってないでしょ?」


 むう、鋭いな……。

 確かに盾の扱いについては実戦で学んで行ったことがほとんどだし、なんなら俺にとって盾は打撃武器や投擲武器というイメージすらある。


「考えてみれば、最初にちょこっとだけ二人旅してたときはどんどん前に出て斬りかかっていくタイプだったもんね。きっとそれがあんたの本来のスタイルなんだわ」


 そうか。アリオスたちといたころは俺が攻撃に参加しても足手まといになるだろうとひたすら壁役に徹していたが、そもそもそういった戦いかたに適正がなかった可能性はあるな。

 優秀なアタッカー揃いであったが故に遠慮してしまっていたが、むしろ俺もどんどん前に出て戦線を掻き乱すくらいでよかったのかもしれない。

 まあ、今さら気づいても遅くはあるが……。


「遅くなんてないわよ。いつかまたあんたが自分の実力に自信がついたときに再出発すればいいだけなんだから」


 ラシェルがニカッと笑いながら背中を叩いてきた。

 うう……良い子だなァ。

 こんな子が俺のお嫁さんに名乗りをあげてくれたなんて、なんという果報であろうか。

 いろいろとなし崩しになってしまっているが、いつか落ち着いたタイミングでちゃんと祝言をあげるべきかな……。


「まだ全部が片づいたわけじゃないんだし、こんなところでイチャイチャしないでもらえるかな……」


 ぬあっ!? 殺気——!?

 その気配にギョッとして振り返ると、いつの間にか背後に闇のオーラを纏いながらすごい目つきでこちらを睨みつけるフィーが立っていた。


「べ、別にイチャイチャなんかしてないわよ!」

「いいや、していたね。ボクがいなければ、きっとキミたちは今ごろすぐそばに死体が転がってるにも関わらず乳繰り合っていたに決まっているよ」


 いやいや、そんな破廉恥な……。

 確かに俺たちは良い雰囲気になったらすぐふしだらな行いに興じてしまうところがあるのは事実だが、さすがにこんな場所でいたしてしまうほど恥知らずでは……ねえ?


「あ、当たり前でしょ!? そ、そこまでエッチなオンナじゃないわよ!」


 そう答えるラシェルの声は妙に上擦っており、薄闇の中でも分かるレベルで耳の先まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。おいおい……。

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