第10話 竜騎士、総攻撃する







「むぅ」


「……テレシア、そろそろ機嫌を直せ」


「分かってるけどさぁ。あたし、あのベントレーの指揮官嫌い!!」



 そこはドラグレイアとベントレーが衝突している戦地の最前線。

 出撃前の準備をしながら、テレシアが悪態を吐いていた。


 しかし、どちらの気持ちも分からなくはない。


 エリナ女王に傭兵として雇われ、援軍に同行した俺たち竜騎士を待っていたのはベントレーの兵士の冷たい眼差しだった。


 援軍が来たと思ったら敵国の主戦力が混じっていたのだ。


 向こうとしても穏やかな気分ではないのだろう。


 だからこそ、俺はベントレーの総指揮官に向かって言ってやった。



――行動で示す、と。



 俺たちが何を言ったところでドラグレイアへの不信は拭えないだろう。


 だから言葉ではなく、行動で示す。


 そのための準備をしたし、それが実を結ぼうとしている。



『あー、あー、こちらランドルフ。竜騎士十五騎を伴って推参。どうぞー』


「こちらエルデウス。ランドルフ、感謝する」


『感謝なんて要らないっすよ。国のやらかしたことを尻拭いしようってんだ。少なからず関係あるし、仲間が戦うなら一緒に肩を並べるのが竜騎士でしょうよ』


「……本当に、感謝する」



 今、世界中に散って行った竜騎士たちが再び集っている。


 全ては暴走した王を止めるため。


 半日足らずで三百騎の竜騎士が到着し、隊列を組みながら整然と並んでいた。



「ん。エル様、偵察から戻った」



 しばらくして、偵察部隊を率いていたマキナが戻ってきた。


 その顔色はあまりよくない。



「ん。地上を進むゴーレムが五千、空を飛ぶゴーレムが三千。どちらもスピードは大したことないけど、近づくと鉄の玉を飛ばしてくる」


「……事前情報通りだな」


「ん。でも問題はそこじゃない。今もなお王都からゴーレムが無尽蔵に湧き出ていること」



 俺は思わず溜め息を吐いた。



「つまり、国王の言っていた遺物兵器は魔力から無尽蔵にゴーレムを生み出すものってことか」


「ならやっぱり本体を叩かないとだね☆」


「ああ、そうなるな」


「ん。でもそれらしいものは見つからなかった。レイドスの密偵の話を信じるなら、地下にある」



 そう、そこが厄介なのだ。


 地上ごと攻撃することでゴーレム製造兵器を破壊できるなら楽だった。


 しかし、地下にあるなら話が変わる。


 少数精鋭で突入しても無尽蔵に沸いてくるゴーレムの前では無力だろう。


 ……仕方ない。



「作戦を考えた。――総攻撃を仕掛ける」



 俺は集まった竜騎士たちに指示を出した。


 実を言うと、地下への攻撃手段が全くないわけではない。


 ただ隙が多いのだ。


 そのためには地上と空中にいるゴーレムを全て破壊せねばならない。

 ならば集まった竜騎士全騎でゴーレムを片っ端から破壊し、決戦に望む必要がある。


 俺は竜騎士たちと作戦を共有し、即座に実行へと移した。


 宙を舞い、王都を目指して出撃する。



『敵飛行ゴーレム部隊、正面から来ます!!』



 竜騎士を迎え討とうと飛来したのは、羽ばたかない翼を持った鋼のゴーレムだった。


 各方面からの魔法通信が聞こえてくる。



『ベイン騎被弾!! 竜が出血してるぞ!!』


『ザック小隊、カバーに回れ!!』


『敵は遅い!! 上を取れ!! スピードで撹乱しながら複数騎の火炎魔法で一体ずつ確実に破壊しろ!!』


『くそっ、こいつらの飛ばしてくる鉄の玉、竜はともかく乗り手に当たったら死ぬぞ!!』


『敵さん急な方向転換はできないようだ!! 直線的な動きは避けろ!! 頭さえ守っときゃ死にはせん!!』



 敵ゴーレムの方が数は遥かに多い。


 しかし、個々のスピードは竜よりも遅く、また連携という点では竜騎士に分がある。


 俺はタイミングを見計らってテレシアに指示を出した。



「テレシア!! 竜撃を使え!! 全力でだ!!」


『はーい☆』



 よく竜騎士に聞かれることがある。


 わざわざ竜の上に人が乗らずとも飼い慣らした竜だけで十分な驚異になるのではないか、と。


 否定はしない。


 竜は竜騎士がおらずとも炎を吐き、敵を焼き尽くす強大な魔物だからな。

 しかし、竜騎士の駆る竜と野生の竜では戦闘力に大きな差が出る。


 竜は竜騎士の操舵で単体では不可能な変則的な機動が取れるし、炎を吐く際に消費する魔力を節約できる。


 そういった理由の中でも特に大きいのが、乗り手に魔力を委ねられる点だろう。


 要は竜騎士が竜の魔力を扱えるようになる。


 そして、普通なら竜が使わないような複雑怪奇な魔法も放てるようになるのだ。


 それこそが竜撃魔法。


 ドラグレイアが長い歴史の中で培ってきた竜騎士の奥義であり、その威力は小さな街なら一撃で滅ぼしてしまう。


 まあ、そんな規模で竜撃魔法を扱えるのはテレシアくらいなのだが。



「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」



 テレシアの駆る竜が雄叫びを上げ、口から極太の熱線を放つ。


 直線上を飛行していたゴーレムは次々に爆散し、破片が地上を行進していたゴーレムたちに降り注いだ。



「各部隊、討ち漏らしを潰せ!! テレシアは魔力が尽きるまで竜撃魔法!! マキナ、アルティナはそのサポートだ!!」


『『『了解!!』』』


『して、妾たちはどうするのかの?』


「……俺たちはトドメを刺すために魔法の詠唱に入る」



 俺とテュファニールは少々、いや、かなり普通の竜とは違った魔法が扱える。


 それはシンプルで、だからこそ強力な魔法。



「――巨大化」



 ドクンッ!!


 と、心臓が一際大きく鼓動した瞬間、テュファニールはその身体がみるみるうちに大きくなった。


 全長およそ100メートル。


 その姿には空飛ぶ要塞という言葉が何より相応しいだろう。



「――絨毯爆撃だ」



 テュファニール、ヒュバン、カムイが次々と口から炎の玉を吐き出した。

 それは着弾と同時に爆発し、一発一発が地面を抉る威力がある。


 今、王都に人はいない。


 王都の地下にあるであろう遺物兵器の燃料にされてしまったから。


 だから躊躇する必要はなかった。


 数十、あるいは数百発は落ちたであろう炎の玉はみるみるうちに地面を削り取り、その下に隠れていた怪物を暴き出す。



「あ、あれが遺物兵器か!?」



 一言で表すなら、出てきたのは巨大な亀だった。


 黒光りする装甲に覆われている、如何にも頑丈そうな見た目だ。



「あれを破壊すれば勝ちだ!! 全騎、突撃しろ!!」



 竜騎士たちが亀に向かって行く。


 しかし、その装甲は破壊することができず、夜が来てしまった。


 竜に夜間飛行する能力はない。


 遺物兵器と思わしき亀を目の前にして、俺たちは撤退を強いられるのであった。


 





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「次で最終話」


エル「え?」



「竜騎士つよい」「絨毯爆撃とか怖い」「もう終わり!?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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