第9話 竜騎士、傭兵として雇われる






 俺の予想は最悪の形で的中した。


 レイドスの密偵は相当腕がいいのか、ドラグレイアの城内部まで侵入し、情報を持ち帰ってきたのだ。


 その結果、ドラグレイア王は民を遺物兵器の炉にくべて動かしていることが判明。



「……俺のせい、だろうか」



 罪悪感で潰れそうになる。


 たしかにあのままではテュファニールたちが燃料にされていた。


 自分のやったことに後悔はない。


 しかし、俺が国から逃げ出さなければドラグレイアの人間が燃料にされることもなかったのではないか。



「すぅー、はぁー。……よし」



 夜、俺は中庭に出てテュファニールたちに会いに向かった。


 テレシアたちに声はかけない。



『なんじゃ、エルデウス』


「俺とお前で遺物兵器を破壊したいって言ったらどうする?」


『……別にどうもせんのじゃ。お主が決めたなら手伝ってやらんこともないがの』


「テュファニール……」


『ぬお!? い、いきなりどこを触るんじゃ、エルデウス!! ふぉおおお……!!』



 俺はテュファニールの逆鱗を優しく撫でた。


 ここは竜にとっての弱点だが、撫でるとふにゃふにゃになって可愛いのだ。


 さて、そうと決まれば――



「んー。それはちょっと薄情じゃない?」


「!?」



 俺は急に背後から声をかけられてビクッと身体を震わせる。


 振り向くと、そこにはテレシアの姿があった。


 否、テレシアだけではない。アルティナとマキナの姿もあった。



「お、お前たち……」


「ん。革命の時来たれり。今こそ労働に勤しむ民衆たちを害する邪悪な王を討ち取る時」


「……危ないんだぞ」


「覚悟の上です!! 私が竜騎士になったのは憧れだけではありません!! 無力な民を守るためです!!」



 何だろう、凄くいい台詞なのにアルティナが言うとあんまり信用できないな。



「そして、私は守ってきた民たちに――」


「はーい☆ ティナちゃんは黙ろうね★」


「むが!?」



 アルティナの口をテレシアが押さえる。



「……分かった。ありがとう。正直、心強い」


「ん。大船に乗ったつもりで任せるといい」


「あたしたちが乗るのは竜だけどね☆」



 テレシアとマキナの言葉に頬が綻ぶ。


 こいつらとなら、相手が遺物兵器でも魔法帝国が相手でも勝てるような気がしてきた。


 と、その時。


 中庭のどこからかは分からないが、甲高い声が響いた。



「嗚呼っ!! なんと素晴らしい友情!! いえ、竜騎士の絆でしょうか!?」


「「「「!?」」」」



 間違いなくエリナの声だった。


 しかし、辺りを見回しても彼女と思わしき人影はない。


 気のせいかと思った、その刹那だった。


 ぬっとテュファニールのお腹の下からエリナが出てきたのだ。



『な、なんじゃあ!? いつの間に妾の腹の下に!?』


「竜の身体、ひんやりしていて気持ちよかったですわぁ!!」


『ひぇっ、気持ち悪いのじゃ!!』



 あのテュファニールがよだれを垂らして言うエリナを恐れ、俺の背後に隠れる。


 いや、本当にキモい。


 見た目はテレシアたちにも負けない美少女なのに行動が気持ち悪すぎる。


 俺はドン引きしながらエリナに話しかけた。



「な、何やってんですか、エリナ女王陛下」


「ちょっとテュファニールちゃんのお尻の穴の匂いを嗅ぎたくて庭でこっそり様子を窺っていましたの。そうしたら何やら面白そうな話をしているではありませんか」



 エリナが気持ち悪い笑みから一転、真面目な面持ちになる。



「であればエルデウス様、ちょうどいい提案がございますわ!!」


「ちょうどいい提案?」


「実は三日後、我が国から対ドラグレイアのための援軍が出撃することになっていますの」


「!?」


「そこで、もしよろしければわたくしに傭兵として雇われませんこと?」


「傭兵……」



 その提案は渡りに船だった。


 竜騎士四人よりもできることが多く、おまけに報酬も得られる。



「……分かりました。是非、よろしくお願いします」


「即断即決!! そういうところも素敵ですわね!! では、三日後までに準備を終えてくださいまし!!」


「はい」



 たった三日だ。


 そんな短い時間でできることなど限られているだろう。


 しかし、できることはしておく。


 俺はテレシアたちにお願いし、手分けして出撃の準備を整えるのであった。










 三日後。


 俺たちはドラグレイアと隣接しているベントレー王国を目指して出立。


 そこから一週間かけて到着したベントレー王国とドラグレイアの国境にある砦では、俺たち竜騎士を白い目で見る兵士が多かった。


 無理もない。


 いきなり宣戦布告して戦争を仕掛けてきた国の出身者が歓迎されるわけがない。


 だから、行動で示す。


 ドラグレイアのやらかしたことを、ドラグレイアの竜騎士だから全力で止める。


 俺たちは覚悟を決めるのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「犬とか猫のお尻って妙に芳しいのよな」


エル「えぇ……」



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