第8話 竜騎士、嫌な想像をする
「これは中々、壮観ですね」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです」
レイドスの首都にやってきた俺たちは、目を瞬かせていた。
というのも、その首都は列強国であるドラグレイアと比較しても負けず劣らず荘厳な町並みだったからだ。
ドラグレイアは竜の力を最大限活用して大きな建物を建築してきたが……。
レイドスは竜の力もなしにそれと同等規模の建物を作り上げている。
決して田舎だからと見下していたわけではないが、驚きは隠せなかった。
「我が国は古くから、滑車や水力を用いた技術で成り立っているのです。標高の高い山や川が多い立地故ですね」
「なるほど、環境故の技術力か」
建築技術に関してはほぼドラグレイアと同等。
しかし、それはレイドスで生きてきた人々の努力の結晶らしい。
素人目で見ても凄いな。
「では、こちらでしばらくお待ちください」
俺たちはそのまま首都の中心部にある城まで案内され、その一室で待たされることになった。
テュファニールやヒュバン、テレシアたちの竜は城の中庭で遊んでいる。
一応、暴れたりしないか心配なのでテレシアも一緒だ。
ちなみにカムイは俺にぴったりと付いてきて大人しくしている。
人化したことでテュファニールが分裂し、自分だけの肉体が手に入ったことが余程嬉しかったのだろうか。
それとも元々そういう性格だったのか、俺にべったり甘えてきて可愛い。
しばらく待っていると、ヘカテリーナが戻ってきた。
「こちらへ。ある御方がエルデウス殿とお話したいと」
「む、ある御方?」
ヘカテリーナは立ち振舞いから高位の貴族出身だと思われる。
そのヘカテリーナがある御方と呼ぶ相手……。
レイドスの中でも最上位クラスの人物が相手だろうし、失礼のないようにしないと。
そんなことを考えながらヘカテリーナの後ろに付いて歩く。
「陛下、件の竜騎士殿をお連れしました!! ……陛下?」
ヘカテリーナが荘厳さを感じさせる大きな扉の前で立ち止まって叫ぶ。
しかし、中から返事はない。
というか今、陛下って言ったのか? まさか俺に会いたがっているのって……。
と、その時だった。
扉の脇に立っていた兵士がとても申し訳なさそうに声をかけてくる。
「も、申し訳ありません、ヘカテリーナ様。陛下は中庭に竜がいると知って飛び出して行ってしまい……」
「な、なんだと?」
俺とヘカテリーナはそのまま中庭に移動した。
「ふぉおおおお!! これが噂に聞くドラグレイアの竜ですの!?」
『な、なんじゃこいつ!? いきなり妾に触れるでないわ!!』
「この艶のある鱗!! 雄々しさを感じさせる巨大な体躯!! 生で見る竜はカッコイイですわ!!」
「あはは!! この子、顔やば☆ ティナちゃん並みじゃん!!」
中庭にはテュファニールの身体をペタペタと触りまくってよだれを垂らしている変態がいた。
見た目は美少女だ。
金色の長い髪を結い上げた派手なドレスをまとっている。
スタイルで言えばマキナといい勝負か。
しかし、その顔は妄想中のアルティナに匹敵する閲覧注意っぷりだった。
「陛下!!」
「あら、ヘカテリーナ。おかえりなさい」
「おかえりではありません!! 何をしているのですか!!」
「それはもちろん、竜の身体をお触りしているのですわ!! このゴツゴツとした肌触り……うへへ、溜まりませんわ」
なんだろう。
レイドスの人間ってドラグレイアと同じくらい竜が好きなのだろうか。
「あら? そちらの男性がこの竜の主ですの?」
「主というより、友人です。俺はエルデウスともうします。家名は捨てましたので、そこはご容赦を」
「まあ!! 竜の友!! 素敵な響きですわ!!」
「……陛下」
「っと、そうですわね、ヘカテリーナ。エルデウス、わたくしはレイドスの女王、超絶美少女系為政者のエリナですわ!!」
「超絶美少女系為政者」
たしかに美少女だが、自称するのは凄いな。
「ヘカテリーナから聞いた時は驚きましたわ!! まさかドラグレイアの竜を連れた方が我が国にいらっしゃるとは!!」
「そ、そうですか」
興奮冷めやらぬといった様子で女王が言う。
正直、思っていた人物とはかなり違っていてこちらが困惑する。
エリナはそのテンションのまま本題に入った。
「して、世界に宣戦布告したドラグレイア人がいかなる理由で我が国に?」
一瞬で空気が変わる。
竜たちを見て無邪気にはしゃいでいた少女と同一人物とは思えないくらいだ。
俺はその場でドラグレイア式のお辞儀をした。
これは相手をただの変態だと思って油断してはならない。
「我々はドラグレイアから逃げてきたのです」
「……逃げてきた?」
「はい。ドラグレイアの王は、古代魔法帝国の遺物兵器を発掘し、竜を殺処分してその魔石を燃料にすると宣ったのです」
俺の言葉にエリナは首を傾げる。
「つまり、貴方は国としての利益よりも竜を優先したと」
「……はい。竜は俺――失礼、我ら竜騎士にとっては大切な友です。それを殺して炉にくべようとする王など、くそ食らえと思いまして」
「ふふ、うふふふふ!! いいですわね、貴方!! 気に入りましたわ!!」
エリナが高笑いする。
最初にテュファニールを触りまくっていた時と同じ雰囲気だ。
「何か困ったことがあったらわたくしに相談なさい!!」
「え?」
「我が国は貴方たちを受け入れますわ!! 今日から貴方もわたくしの愛するレイドスの民ですわ!!」
「っ、あ、ありがとうございます」
よく分からんが、俺は気に入られたらしい。
それは喜ばしいことだが、今は確認すべきことがある。
「エリナ女王陛下、一つお聞きしたいことがあるのですが」
「なんですの?」
「ドラグレイアが世界に宣戦布告したというのは本当なのでしょうか?」
「……ええ、本当ですわ」
ドラグレイアの王は、果たしてここまで愚かだったろうか。
優秀とは言えないが、考えなしで行動するほどの馬鹿ではなかったはずなのに。
「これはまだ確定していない情報ですが」
「……なんでしょう?」
「ドラグレイア王は遺物兵器を使用するに当たって禁忌に手を染めた可能性がありますわ」
「禁忌……?」
「我が国の密偵が、情報収集がてらドラグレイアの王都に潜入しましたわ。そして、ある情報を持ち帰ってきましたの」
俺は生唾を飲み込む。
あの王は、俺たちが国を出てから一体何をしでかしたのか。
「ドラグレイアの王都には、国民が一人もいませんでしたの」
「……なんですって?」
「あり得ないですわよね。ドラグレイアの首都は列強の数ある中でも特に発展した都市。その住民がたった数日で失踪するなど有り得ませんわ」
俺はエリナの考えに同意する。
「そこで、我が国の密偵は七日に渡って潜伏調査をしていましたの。その時、別の街から人々が連行されている様を目撃したそうですわ」
「その人々は、どうなったのです?」
「城に連れて行かれ、そのまま戻って来なかったそうですわ。兵士もおらず、代わりに見たこともないゴーレムが街中を徘徊していたようですの」
ゴーレム。
自律して動く魔法の人形だが、ドラグレイアはその分野に置いて大きく遅れている国だった。
ほぼ間違いなく魔法帝国の遺物兵器関連だろう。
いや、それよりも城に連れ去られたまま帰ってこなかった連中の方が気になる。
まさかとは思うが。
「人間を燃料にしてる……?」
最悪な予想だった。
しかし、あり得ない話ではない。竜の魔石で動くということは、大量の魔力があれば動かせるということになるからな。
人間を殺しても魔石は手に入らないが、魔力を持った生物だ。
人を生きたまま燃料にする。
想像したくないが、絶対に無いとは断言できなかった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「最近はよだれ垂らしてる美少女を見ても興奮する」
エ「末期だ……」
「また濃いの出てきた笑」「王様ガチ悪党で草」「ガチで末期じゃん」と思った方は、感想、ブックマーク、☆評価、レビューをよろしくお願いします。
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