第7話 竜騎士、レイドスの首都に向かう




「こ、これが、ドラグレイア王国の、竜ですか!?」


「ええ、そうです」



 レイドスの首都へ向かうため、俺は竜を村に連れてきた。


 村人にはあらかじめ説明しておいたのでパニックに陥ることはないが、それでも実物を見て腰を抜かしていた。


 あ、村長は「カッコイイのう!!」と楽しそうにはしゃいでいた。

 あの人、ドラグレイアにいたら竜騎士になってそうだな。



「あ、あの、この竜は大丈夫なのでしょうか?」


『ああん? なんじゃこやつ、妾たちが見境なく人を襲う獣とでも言いたいのかぇ?』


『そーだそーだ!! テュファ姉は不味そうな人間は食べないぞ!!』


『……美味しそうでも食べないでくださいね』


「ひっ」


「おい、テュファニール。ヒュバンも怖がらせるな」



 テュファニールがヘカテリーナさんにフンスと鼻息をかけて威圧した。

 楽しそうなのでからかっているのだろうが、流石にヘカテリーナさんが可哀想だ。



「で、ではその、行きましょうか。我々に付いてきてください」


「分かりました」



 それから俺たちは一週間かけ、レイドスの首都を目指して移動した。


 竜に乗れば一日足らずの距離だが、ヘカテリーナさんたちは馬での移動だからな。

 速度を合わせないと俺たちだけ先に首都へ到着してしまう。


 テュファニールたちは歩くのがストレスみたいだが、最近ちょっと肥えてきたし、いい運動になるだう。


 そう思っていたのだが。



『くっくっくっ、遂にこの時が来たのじゃ!!』


「ん? 急に笑い始めてどうした?」


『のぅ、エルデウスよ。今日の妾は一味違うぞ!!』



 どうしよう、俺にはテュファニールが昨日と今日で何が違うのか分からない。


 いや、待て。



「……なんか、魔力の流れが変じゃないか?」



 分かりにくいが、魔力の流れが竜のものとは少し違う。


 まるでそう、人間みたいな……。


 という俺の推測は正しかったようで、テュファニールが眩しく輝いた。



「な、何事ですか!?」


「わ、分からない!! ヘカテリーナさん、下がってくれ!!」



 テュファニールとは付き合いが長いが、これは俺にも何が起こったのか分からない。



「くっくっくっ、成功なのじゃ!!」


「テュファ姉スッゲー!! 本当に人間の身体になっちまった!!」


「……人間の身体は動かしづらいですね」



 それは聞き慣れたテュファニール、ヒュバン、カムイの声だった。


 しかし、脳内に直接響く声ではない。


 耳で直接聞き取ることができる、いわゆる肉声だった。


 光が収まる。


 するとそこには、三人の同じ顔立ちの少女たちが立っていた。

 非常に整った顔立ちをしており、異なるのは髪の色くらいだろうか。


 いずれも華奢で小柄な体躯をしているだが、色気を感じる艶やかな肢体だった。


 俺はその少女たちに声をかける。



「テュファニール、か?」


「うむ!! いかにも妾である!!」



 そう答えたのは、髪の色がセンターで白と黒に分かれている少女だった。


 ……まじか。


 あのぐうたらな竜のテュファニールが、こんな美少女だと!?



「じゃあ、そっちの黒髪は……」


「ヒュバンだぜ!!」


「なら白髪の方は……」


「……カムイです」



 いや、どうなってんだ!?


 なんでテュファニールが三人に、というか人間になったんだ!?



「前々から練習しておったのじゃ。お主は魔力の流れが竜に近いせいで竜の声が聞こえておるじゃろ?」


「あ、ああ、そうだな。……まさか……」


「うむ!! 逆もイケるのでは? そう思ってやってみたのじゃ!!」



 つまり、テュファニールは人間の魔力の流れを模倣したのだ。


 その結果、人間に変身した。



「……意味が分からん。俺は幻覚を見ているのか? すまん、誰か俺の頬を引っ張ってくれ」


「はーい☆ じゃああたしがやるね」


「ひぎゃあ!? い、痛い、頬の肉が持ってかれる!?」



 テレシアの怪力による激痛は本物だった。


 

「……現実なのか」


「そう言うておるじゃろ。ほれ、さっさと行くのじゃ!!」



 こうして今度こそ俺たちはレイドスの首都を目指して出立した。


 何も問題はない。


 強いて言うなら、カムイがやたらとくっ付いてきたことか。


 食事の際に膝の上に座ってきたり、身体を急にすりすりしてきて可愛かった。

 テュファニールの話によると、竜なりの求愛行動だとか。


 優しく頭を撫でたり、喉をわしゃわしゃすると可愛い声を出すので道中は退屈しなかった。


 そして、道中で魔物に襲われたり、ヘカテリーナ率いる兵士たちの食料をテュファニールが食べ尽くしてしまったりと、色々ありながら首都へ到着するのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「人化は反対派が多いけど、個人的には素晴らしい文化だと思ってる」


エ「そ、そうか?」



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