第5話 竜騎士、賊を殲滅する
「エルちゃん先輩、森の奥に賊が根城にしそうな洞窟を発見したしたよ☆ 痕跡もバッチリあるから間違いないと思う」
「ご苦労だった、テレシア」
俺は村を襲った賊を退治するため、情報を集めていた。
まず必要なのは賊がこの辺りで拠点としている場所の発見だ。
これに関しては上手く行った。
テレシアが愛騎の竜、ネロに乗って高空から偵察を行ったのだ。
その結果、賊の根城と思わしき洞窟を発見。
「事前に立てた作戦通りに行くぞ」
「ん。了解」
俺たちはできるだけ痕跡を残さないよう森の中を進み、少し離れた位置から洞窟を眺める。
「見張りは――三人か」
「ん。見張りが入れ替わったタイミングで襲撃するべき」
「同感だ」
見張りが一度入れ替われば、しばらく交代することはないだろう。
そのタイミングで襲撃すれば見張りの交代に出てきた賊が加勢してくる心配もない。
小一時間ほど待ち、賊が見張りを交代した。
「ん。右二人はマキナが仕留める。エル様は――」
「左の奴だな。了解した。ここからは――」
「ん。声は出さない。有り得ないとは思うけど、通信魔法は傍受される可能性もゼロではないからハンドサインのみ」
「そうだ。よし、やるぞ」
「ん」
まず最初に動いたのはマキナだった。
マキナの投げた投擲用のナイフが見張りの一人の喉元に突き刺さる。
「ぐぇ!?」
「ん?」
「おいおい、急に変な声出してどうし――え?」
まだ仲間の一人が攻撃されたとは気付いていない他の見張りたち。
俺たちはチャンスを逃さない。
茂みから飛び出して一気に距離を詰め、増援を呼ばれる前に仕留めにかかった。
相手は賊。
こちらが少数である以上、下手な手加減は不利に繋がりかねない。
なので容赦はしない。
「なっ、敵しゅ――」
俺は見張りの喉を掴み、そのまま押し倒して短剣を首に突き立てた。
賊がじたばた暴れる。
しばらくして賊は何が起こったか分からないと言った表情のまま絶命していた。
マキナの方も賊を仕留められたらしい。
物音を立てないように賊の死体を適当な森の茂みに放り込み、隠しておく。
俺はハンドサインで少し離れている茂みの向こう側に隠れているアルティナとテレシアに合図を送った。
「「「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!」」」
テュファニール、ヒュバン、カムイが同時に咆哮を上げた。
竜の咆哮に驚かない者はいない。
ましてや有事の際には報告に来るはずの見張りが来なかったのだ。
中にいた賊からしてみれば何が起こったのか分からず、困惑して思わず飛び出してくるのも無理はない。
「な、なんだ!?」
「ひいっ、な、なんでこんなところにドラゴンがいやがるんだ!?」
「見張りは何してやがったんだ!!」
外に出てきた賊がテュファニールに注目してる間に洞窟内部に侵入する。
俺たちにとって厄介なのは、人質を取られることだ。
賊の殲滅は後回しであり、最優先は拐われてしまった村人の保護。
俺とマキナは洞窟の中を索敵しながら進む。
万が一賊が戻ってきた時のために、道中で遭遇した賊は締め上げて寝かせておく。
血が残ってると不測の事態が起こっていると気付かれるからな。
え? 最初の見張りはいいのか、だって?
あれは状況からして竜に殺されたと考えるのが妥当だろう。
冷静に考えてみればおかしいことにも気付くかも知れないが、いきなり竜に遭遇して冷静になれる奴はいないと思う。
しばらく洞窟の中を歩いていると――
「あ、貴方たちは……?」
鉄格子の中に囚われている村人と思わしき女性たちを発見した。
子供も一緒である。
「村長からの依頼で救出に来た」
手短に話すと、女性たちが歓声を上げる。
子供たちも大人の安堵した様子からもう大丈夫だと察したのか笑顔を見せた。
マキナが口を開く。
「ん。この場に全員いる?」
「あ、あの、うちの娘が賊の頭目に連れて行かれてしまったんです!!」
「マキナ」
「ん。行ってくる」
マキナが鉄格子のある部屋から飛び出し、待つことしばらく。
『ん。子供を保護。頭目は始末した。ついでに食料も発見。防護魔法もかけた』
「了解、手間が省けたな。今から防護魔法をかける。全員その場から動かないでくれ。――アルティナ、テレシア。村人を保護した。防護魔法もかけている。やれ」
『『了解!!』』
その次の瞬間だった。
洞窟内に凄まじい熱量の炎が吹き荒れ、防護魔法を施したもの以外全てを焼き払う。
テュファニールが炎を吐いたのだ。
もし洞窟の中に賊がいたとしても炭と化しているはずだ。
任務完了。
目立った怪我をすることもなく、俺たちは無事に拐われた村人たちを救出することに成功した。
それから俺たちは村人を警護しながら、村へと戻ったのだが……。
「さあさあ、エルデウス様!! ご遠慮などなさらずに!!」
「あ、ああ、ありがたくいただこう」
俺は村長から熱烈な出迎えを受けた。
それはもう本当に、賊から奪い返してきた食料を満面の笑みで振る舞ってきたのだ。
その中には酒も混じっていて、村中の人々のテンションが高くて怖い。
特に村長が悪酔いしてしまったようで、裸で躍り狂っている。
いや、怖いのは村長だけではない。
俺は村人と一緒に盛り上がっているアルティナたちの方をちらっと見た。
「はあ♡ はあ♡ このまま酔い潰れた私をお持ち帰りしようとする不埒な村人が出てきてもおかしくはない!! いや、きっといる!! さあ、来い!! 私はお前たちの性欲には屈しないぞ!!」
「あははは、ティナちゃん!! 皆ドン引きしてるよ☆ あ、これ美味しい。十人前くらい持ってきてー!!」
「ん。貴方たちは邪悪な権力者に搾取されている。労働者は団結し、立ち向かう必要がある」
酒に酔って妄想を口から垂れ流しているアルティナと食料を一人で食べ尽くす勢いのテレシア、思想を振り撒くマキナ。
さて、どうやって収集を付けようか。
いっそ無視して森に隠れているテュファニールたちに食事を持っていくのもいいかも知れない。
などと考えていた、その時だった。
「これは、何の騒ぎなのだ?」
十数人の兵士を連れた騎士と思わしき女性が村に入ってきた。
国から派遣されてきた軍人だろうか。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「賊に容赦なくて草」
エ「油断したらやられちゃうから……」
「作戦えぐい笑」「汚物は消毒だー」「アルティナが草すぎる」と思った方は、感想、ブックマーク、☆評価、レビューをよろしくお願いします。
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