第4話 竜騎士、村に立ち寄る
『エルちゃんせんぱーい☆ 南方面に村っぽいのが見えるよー』
「む」
頭の中にテレシアの声が聞こえてきた。
竜騎士に必須とされる魔法であり、ある程度離れていても会話できる魔法だ。
実は歴史が深く、竜同士が対話する際に使う特殊な魔力の流れを研究して開発された魔法だったりする。
俺はテレシアの声に応じた。
「そろそろ持ち出してきた食料もなくなってきたし、竜たちを休ませたい。その村に――いや、少し離れた場所に降りよう」
『ん。村人がパニックになるから?』
「そうだ」
竜はドラグレイア王国の人間にとって、隣人も同然の存在だ。
だから王国の人間が竜を見ても驚かないだろう。
しかし、他の国では竜は危険な魔物であり、村の中心に降りたら間違いなく村人たちがパニックに陥る。
不要な混乱は避けるべきだ。
幸い発見した村の近くに広大な森があったので、俺たちはそこに着地することにした。
「俺とテレシアとマキナで村に行く。アルティナは竜たちを見ていてくれ」
「了解しました!!」
実にいい笑顔で敬礼するアルティナ。
しかし、俺の指示に不満を抱いた連中がブーイングを飛ばしてきた。
カムイを除く竜たちである。
『妾たちを放っておけばどこかに行ってしまう犬っころとでも思っておるのかの? 失礼千万じゃ』
『『『『そーだそーだ』』』』
『……皆さん、あまりエルデウスを困らせないでください』
「お前ら一斉に喋らないでくれ。頭が痛い」
普通、人間には竜の言葉が分からない。
通信魔法の応用で竜騎士には大まかに竜が考えていることは分かる。
しかし、ハッキリ言語として聞き取れるのはドラグレイアで俺くらいだった。
俺が竜騎士として大成した理由と言っても過言ではないだろう。
正確な原因は不明だがな。
知り合いの医者の話では身体を巡る魔力の流れが竜のものと酷似しており、竜たちの思考が混線しているとか何とか。
要は体質である。
「ん。竜たちが何か喋ってる?」
「面倒を見てもらうのが不満らしい。気にせず行くぞ」
俺は竜たちのデモを無視して村に向かう。
ドラグレイアから持ってきた装備を売ればそれなりにお金になるはず。
場合によっては物々交換も視野に入れよう。
そう思っていたのだが、どうも立ち寄った村は様子がおかしかった。
「ん。この村、何か変」
「……たしかに妙だな」
「えー? 何が?」
テレシアは気付いていないようだったが、俺とマキナは村の異常を感じ取っていた。
「村人から異様な警戒心を感じる」
「ん。これは、虐げられている労働者たちの気配」
虐げられている労働者の気配は分からないが、この村で何かあったのだろうか。
と、その時だった。
鍬や鎌を持った何人かの村人たちを連れて、初老の男性が声をかけてきた。
「この村に何用ですかな?」
おそらくはこの村の長だろう。
返答を間違えたら襲いかかってきそうな剣呑な雰囲気だった。
俺は一歩前に出る。
「誤解が生じる前に話しておくが、俺たちは偶然立ち寄っただけの旅人だ」
「そのような出で立ちで?」
「わけあって他国から逃げてきた身でな。警戒させたのは申し訳ない。俺たちの鎧と引き換えに食料を分けてもらいたいのだが、可能だろうか?」
「……少々、お時間をもらいます」
そう言って村長は他の村人たちと何かを話し、こちらに向き直る。
そこに最初の剣呑な雰囲気はなく、どこか申し訳なさそうな面持ちだった。
「失礼ながら、我々も今は食料が少なくて困窮しているのです。適正な取り引きができるとは……」
「む。何か事情があるのか?」
「……あまり旅人の方に聞かせるような話ではありませんが……」
村長は淡々と話し始めた。
「半月前の出来事です。村が賊に襲われまして。食料は無論、女子供まで拐われてしまい、途方に暮れているのです」
「なんだと? 国は何をしている?」
「ここはレイドス公国の中でも辺境ですから。国に助けを求めても軍が派遣されるまで時間がかかるのです。軍が来た頃には……」
「……なるほど」
軍がやってきた頃には賊などとっくに別の場所へ移っているだろう。
拐われた女は賊どもの慰み者にされ、子供もまとめて奴隷商人にでも売られてしまっているかも知れない。
……ふむ。
「分かった。では村長……村長、で合っているよな?」
「ああ、申し訳ありません。如何にも儂がこの村の村長ですじゃ」
「そうか。ならば村長、俺たちと取り引きしないか?」
「先ほども言いましたが、今の我々では適正な取り引きが――」
「いや、そうではなくて」
俺は村長にある提案をする。
「その賊を退治しよう。その代わり、食料をいくらか無償で分けてほしい」
「!? そ、それは、ありがたい申し出ですが、できるのですか?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
「し、しかし、こう言ってはなんですが。奴らは手強いですぞ。つい三日前、討伐にやってきた冒険者たちも返り討ちに遭ってしまったほどです」
不安そうに俺たちを見つめる村長。
冒険者か。たしか依頼を受けて報酬を受け取る日雇い労働者のようなものだったな。
「賊の規模は分からんが、百人程度の規模でも殲滅できる自信はある」
「ほ、本当に?」
「ああ。拐われた女人々を人質を取られないよう立ち回る必要はあるが、何とかなるはずだ」
腐っても俺たちは竜騎士。
賊との戦闘には慣れているし、荒事は得意だと我ながら思う。
「……よろしく、お願いします」
村長が深々と頭を下げた。
こうして俺たちは、村を襲った賊の退治をすることなったのだ。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「賊退治はなろう系の定番」
エ「そ、そうか」
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