第3話 竜騎士、尻尾で叩かれる




「で、どうして俺に付いてきたんだ?」



 ドラグレイアから離れ、休息がてら上空から発見した湖の畔に降り立った。

 そこで追いかけてきたアルティナたちと対面する。


 俺の問いに対し、アルティナたちは――



「私は今まで第三竜騎士団の団長に相応しい振る舞いをしてきました」


「……本当にそうか?」


「え?」


「え?」



 アルティナは自分の言動に自覚がないのだろうか。



「たしかに王国に残っていれば、逃げた竜騎士たちの責任を取らされていたかも知れません。それこそ私の望むようなハードなプレイを強いられていた可能性もあります」


「そういうところだと思うよ☆」


「ん。マゾヒストの考えていることは分からない」



 マキナもテレシアもアルティナの言い分にジト目を向ける。


 いや、君らも大概のような気が……。



「しかし!! この際なのでハッキリ言いますが、私はエルデウス殿をお慕いしております!! なので付いてきた次第です!!」



 色々とハッキリしすぎている。


 ん? いや、ちょっと待て。アルティナ、今なんて言った?



「し、慕っている? 俺を?」


「はい!!」


「そ、そうか。えーと、どう反応すればいいのか分からんな」



 俺は恋愛面での経験がない。


 律儀に竜騎士が恋愛禁止というルールを守っていたわけではないが……。


 俺自身あまり女にモテるタチではない。


 性欲は夜の店で解消していたし、正面から好意を向けられるというのは反応に困るものだった。



「や、やはりご迷惑でしたか?」


「ああ、いや、嬉しくないわけでは――」



 と、そこまで口にしてから言葉を詰まらせる。


 アルティナは何というか、見た目は絶世の美女でも言動がアレだ。


 たしかに嬉しいが、手放しで喜べない。



「まあ、なんだ。俺も頑張ろう」


「!? そ、それはどういう意味ですか!?」



 俺は次にマキナへ視線を向けた。



「ん。マキナはエル様の力がほしい」


「力?」


「ん。エル様は労働者の志を持っている。ともに邪悪な権力を振りかざす者どもを粛清して真に平等な社会を築く。そのために行動をともにする」


「そんな志を持った覚えはないんだが。というか俺は貴族だから、お前の言う権力者になるんだが」


「ん。労働者の志を持っている者は同志」


「そんな志を持った覚えはないんだが!?」



 勝手に仲間認定するのはやめてもらいたい。


 すると、マキナは途端に真面目な顔になって話し始めた。



「ん。でも実際、エル様は国王の命令に真っ向から反発してみせた」


「ぐっ」


「革命の心を持っている。エル様とならどこでも革命を起こせそう」



 たしかに俺は国王の命令に堂々と刃向かった。


 そういう意味ではマキナの言う革命の心を俺も持っているのだろうか。


 ダメだ、自分が分からなくなってきた。


 俺が最後にテレシアを見ると、彼女は楽しそうな笑顔を浮かべて言う。



「エルちゃん先輩と一緒にいた方が面白いことありそうだもん☆」


「面白いことって、お前な……。言っておくが、俺は何も考えずに王国から脱走したんだぞ?」



 そう、俺は何も考えていない。


 そもそも物事を深く考えるのが苦手なタチだし、今回の亡命だって半ば思い付きの行動だ。


 俺と一緒でも何も面白いことはないだろうに。



「あはは、それがもう面白いじゃん☆ ちょっとティナちゃんに先越されちゃったけど、あたしはエルちゃん先輩のそういうところに惚れてるんだよ?」


「……は?」



 俺はアルティナに続く突然の告白に思考が停止してしまった。


 テレシアまで俺のことを好き、だと?


 一瞬こちらをからかっているのかと疑うが、テレシアの眼差しは真剣だった。


 ……なるほど。



「これが噂に聞くモテ期、か」


『真剣な顔でアホなこと言うでないわ。お主に育てられた妾たちまで馬鹿だと思われるのじゃ』


「痛っ」



 テュファニールが尻尾でべしっと叩いてくる。


 しかし、いつだったか忘れたが、ランドルフが言っていたのだ。


 男には女の子からモテモテになる時期が人生で何度かあると。

 その機会を逃がせば一生涯独り身が確定してしまうとも。


 今まで荒唐無稽な話だと思っていたが、意外とそうではないのかも知れない。



「なっ、テレシア殿もエルデウス殿を!?」


「そうだよ☆ これからはライバルだね、ティナちゃん」



 互いに火花を散らし合うアルティナとテレシア。



「ぐぬぬぬ、私がテレシア殿に勝る点は身体付きくらい。女子力では敵わない!!」


「わお、すっごい自信」


「ん。どちらもマキナにとってはデカ乳。モゲロ。むしろもぐ。乳を出せ」



 アルティナが悶え、テレシアが笑い、マキナが二人に襲いかかる。


 ……これ、どうしよう?



「このままではテレシア殿にエルデウス殿を寝取られてしまう!! ――んん゛っ♡ それも有りなのでは!? 二人が激しく求め合う様を見せつけられながら、私は一人寂しく自らを慰める……。最後には二人の情欲彩るスパイスとして徹底的に管理されて飼われるペットに調教されて!! ああ、ダメだ、脳が破壊される!!」


「……ティナちゃんって無敵だよね☆」


「ん。デカ乳は権益者と同じ。貧しい者を顧みない邪悪そのもの。マキナが全貧民を代表して粛清する!!」



 俺は三人の様子を眺めながら、一言。



「取り敢えず、今日はもう寝るか」


『そういえばお主、面倒なことを後回しにするタイプじゃったな……』



 明日のことは明日の俺が何とかする。


 ならついでに今日のことも明日の俺に何とかしてもらおう。


 せっかく責任ある団長という立場から解放されたのだ。

 今日一日くらい無責任でも神様は許してくれるはずだよ、きっと。








 そうこうあった翌日。


 俺たちはドラグレイア王国からかなり離れた国の辺境に降り立った。


 食料が尽きたため、どこかの村で調達しようと思ったのだ。

 それがまさか大きな騒動に発展するとは、この時の俺たちは知る由もなかった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「Mは極めるとこうなる」


エ「なんか、うん、何も言わないでおく」



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