第2話 竜騎士、竜を連れて脱走する





 ドラグレイア王国には六つの竜騎士団がある。


 各竜騎士団に大体100人ずつ、合計600人ほどの人数だ。


 そして、今日は国中の竜騎士たちがドラグレイアの王都近郊にある基地の広場に集まり、号令を待っていた。


 俺は壇上に上がって竜騎士たちを見下ろす。



「第零竜騎士団団長、エルデウス・ドラウスカーレットだ。国王陛下から下された命令を読み上げる」



 俺は官僚から渡された書類を読み上げた。


 本日をもって全ての竜騎士を解雇、竜はまとめて殺処分とする。


 簡単にまとめるとこういう内容だ。



「ま、まじかよ」


「竜騎士は解雇で、竜を殺処分するって話、本当だったのか?」


「お、おい、これからどうするんだよ?」


「どうにもならねーだろ。国に逆らえるわけがねーんだから」


「竜だけでも助ける方法は……」



 ざわめく竜騎士たち。


 竜は竜騎士にとって家族同然、あるいはそれ以上の存在と言っていい。

 国が竜を殺せと言ってきて動揺しないわけがないだろう。



「――総員、傾聴ッ!!!!」



 俺は腹から大きな声を出す。


 あまりの声量に騒いでいた竜騎士たちがビクッと身体を震わせて硬直した。


 そして、俺は竜騎士たちに本音を語る。



「こんな命令、クソ食らえだ!!」


「「「「「!?」」」」」



 俺は竜騎士たちの目の前で命令が書かれている紙を破り捨ててやった。

 ビリビリ破いて細かくした後、念入りに火魔法で燃やす。


 一連の出来事を眺めていた竜騎士たちは呆然としたまま動かない。


 当然だ。


 俺は大勢の前で国王の命令に逆らうと真っ向から表明したのだから。



「というわけで、俺は今から竜を連れて他の国に亡命する」


「「「「「!?」」」」」


「俺も自由にするんだ、お前たちも今後は自由にしろ。以上、解散。――これからはずっと夏休みだー!! ヒャッホゥ!!」



 俺はそのまま足早に竜たちが休む宿舎――竜舎へと向かう。

 一拍遅れて基地の広場にいた竜騎士たちが駆け出した。



「オ、オレたちも竜と一緒に逃げようぜ!!」


「ああ!! 竜を、家族をむざむざと殺されてたまるか!!」


「ふ、不安だけど、それしかねーよな」


「竜舎の鍵を持ってこい!! 全部の鍵だ!!」


「いや、時間が惜しい!! どうせ他国に逃げるんだ、ぶっ壊しちまえ!!」



 一斉に竜騎士たちが脱走の準備を始める。


 竜騎士たちを率いる立場の俺が、亡命を堂々と宣言したのだ。


 その効果は想定より大きかったらしい。



「いやあ、いい破り具合でしたね!! エルデウスさん!!」


「む、ランドルフか」



 俺に話しかけてきたのは第四竜騎士団を率いる青年、ランドルフだ。



「お前はどこの国に行くんだ?」


「自分は南の方の国に行こうかなと。褐色肌の美人とお付き合いしたいんで」


「そ、そうか。気の合う相手と出会えるといいな」


「ええ。前々からムカついてたんですよね、竜騎士は恋愛禁止とかいうルール。なのでこんな国出て行ってやることにしました」



 相変わらず思い切りのいい男だ。


 しかし、ランドルフには前々からルールを破って付き合っている恋人がいたはず。



「……ランドルフ。お前、恋人いなかったか?」


「三日前に振られましたよ。なんか国中に竜騎士が解雇されるって話が広まってるみたいでして。いきなり『無職になる男と付き合っても』みたいな理由でバッサリと」


「それは、災難だったな」


「その哀れむような目はやめてもらえます? オレたち竜騎士なんて誰も彼も頭のネジが外れてるんですし、似たようなもんでしょ」



 竜騎士は竜への愛情が強すぎて一癖も二癖もある奴が多い。


 アルティナ、マキナ、テレシアがいい例だ。


 俺も両親はすでに他界しており、姉と妹は遠方の国に嫁いでいる。

 親戚とはずっと疎遠だし、俺がいなくなって困る家族はいない。



「でもまあ、これからオレ以上の災難に見舞われるのはエルデウスさんだと思いますけどね?」


「ん? どういう意味だ?」



 ランドルフがニヤニヤと楽しそうに笑って自分の竜に跨がる。



「あ、自覚とかないんすね。ま、すぐに分かりますよ!!」


「あ、ああ、そうか?」


「では、自分はこれにて失礼!!」



 よく分からなかったが、考えている暇はない。


 俺は足早に相棒の竜が寝泊まりしている竜舎の地下室までやってきた。



「テュファニール、ヒュバン、カムイ。起きているか?」


『『『んあ?』』』



 竜舎に足を踏み入れると、巨大な影が動いた。


 三つの首を持った、全長十数メートルはあろうかという巨体がへそ天で眠っていた。


 漆黒の鱗を持った竜だ。



『なんじゃ、エルデウスか』


「ははは、なんだとはなんだ」



 テュファニールは賢い竜だ。


 生まれてすぐに人間の言語を理解し、会話ができるようになった。


 俺の自慢の相棒である。


 ただまあ、テュファニールは面倒臭がりな性分の竜だった。


 俺を見てもごろんと地面に転がって、ちっとも動こうとしない。

 しかし、今はぐうたらしていても飛べば王国でも随一の速さを誇っている。



『妾は今お昼寝で忙しいのじゃ。仕事は後にするのじゃ』


『そーだそーだ!! テュファ姉は今おねむなんだ!! 静かにしろー!!』


『……ヒュバン。貴方が一番うるさいですよ』


「ははは、元気がいいな。でも今日は嫌でも動いてもらうぞ」



 俺はテュファニールたちを繋ぐ鎖を外した。


 しかし、最初の宣言通りにテュファニールは目を閉じていて動かない。


 この竜たちは三体で一つの身体を使っているが、肉体の主導権はテュファニールにある。

 彼女を説得しないと竜舎から連れ出すこともできないだろう。



「テュファニール」


『いーやーなーのーじゃー!! 妾はここでぐうたらして死ぬまで過ごすのじゃ!!』


「ならあと数日しか生きられないぞ。三日後には殺処分だし」


『……妾は何が何でも動か――ちょっと待ってほしいのじゃ。今なんと?』


「三日後には殺処分」


『殺処分? 誰が?』


「テュファニールが」


『『『……』』』



 テュファニールがヒュバンやカムイと顔を見合わせた、次の瞬間だった。


 テュファニールが勢いよく立ち上がる。



『何をしておる、エルデウス!! 妾と共に大空を羽ばたこうぞ!!』


『ひゅー!! 切り替えが早ぇー!! テュファ姉カッケぇー!!』


『……ヒュバン。声が大きいです』



 俺はテュファニールに鞍を取り付け、跨がった。


 そのままのっしのっしと地上に出て勢いよく羽ばたくテュファニール。



『で、どこに行くのじゃ?』



 大空を舞いながら、テュファニールが肩越しにこちらに振り向く。


 俺はしばらく唸ってから答えた。



「当てはないが、とにかくドラグレイアから離れた遠い国に行きたいな」


『行き当たりばったりじゃな……。む、誰かが追ってくるぞ、エルデウス』


「ん?」



 テュファニールに言われて肩越しに振り向くと、見覚えのある竜が三騎ほど近づいてきた。



「エルちゃんせんぱーい☆ 置いてくなんて酷いよー!!」


「ん。エル様は革命の同志。真なる平等な社会を築くためにマキナも一緒に行く」


「わ、私はどうすればいいのか分からないので取り敢えずエルデウス殿に付いて行きます!! ああ、でも王国に残っておけば劣情を抱えた兵士たちに――」


「な、何故お前たちが!?」



 アルティナ、マキナ、テレシアの三人は俺と一緒に来るようだった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「夏休み、ほしいな……」


エ「切実な願い」



「竜騎士一斉にやめやがった」「このヒロインたちに付いて来られても困る」「わいも夏休みがほしい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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