お国が竜騎士を一斉解雇してきたので後輩たちと亡命、傭兵団を結成してゼロから成り上がるっ!

ナガワ ヒイロ

第1話 竜騎士、相談する





「竜を殺処分とはどういうことですか、国王陛下!!」



 俺は我を忘れて怒鳴り声を上げた。


 相手は三大列強に名を連ねるドラグレイア王国の国王、つまりは俺が仕えるべき君主である。


 普通の兵士なら不敬罪で問答無用の処刑だ。


 しかし、自分で言うのも何だが、俺は普通の兵士よりも遥かに権力がある。


 俺の名前はエルデウス・ドラウスカーレット。


 ドラグレイア王国でも由緒あるドラウスカーレット伯爵家の当主であり、王国が抱える六つの竜騎士団の一つを率いる立場だからな。


 大臣は無論、国王であっても俺の発言を無視することはできないはず。

 

 そう思っていたのだが、国王は俺の殺気とすら言っていい威圧など気にも留めない様子で淡々と返答した。



「そなたの言い分も理解しよう。第零竜騎士団団長、エルデウスよ。しかし、これは決定事項だ。竜が我が娘に怪我をさせたのだからな」


「ぐっ」



 あれは数日前の出来事だった。


 国王が溺愛する娘、第一王女殿下が何の前触れもなく竜騎士団の演習を視察しに来たのだ。


 そして、竜に触れようとして怪我をした。


 普段は温厚な性格の竜に王女殿下が触れようとした途端、暴れ始めたのだ。


 幸いにも尻餅をついた拍子に手を擦りむいたくらいで大きな怪我はなかったが、それを聞いた国王が激怒。


 竜を殺処分すると決定した。そう、全ての竜を。



「しかし、いくら何でも竜を全て殺処分にするなど無慈悲が過ぎます!!」


「竜は所詮道具であろう? 慈悲も何もない」


「っ、国王陛下!!」


「大きな声を上げずとも聞こえておるわ。そんなことより、そなたも竜より自分の心配をすべきであろう」


「……どういう意味です?」



 俺は思わず国王をぶん殴りたくなる気持ちを押さえて静かに問いかける。


 すると、国王は信じられないことを言った。



「竜は全て殺処分する。となれば、竜騎士もこの国には要らん。お前たち竜騎士も一斉に解雇だ。正式な命令は追って下す。竜の殺処分はそれからにしよう」


「なっ、竜と竜騎士は王国の国防を大きく担う存在ですよ!? それがなくなれば、国力が大きく低下してしまいます!!」


「そのようなこと、余も分かっておる」


「では何故!?」



 俺の問いに国王はニヤリと笑った。



「もうそなたら竜騎士は不要なのだ。何故なら我が王国は使用可能な状態で古代魔法帝国の遺物兵器を発掘することに成功したのだからな!!」


「……は?」



 古代魔法帝国。


 魔法によって発展した超文明であり、その圧倒的な軍事力を以って数多の国を征服したという古の国家だ。


 その遺跡を研究して発展する国は多い。


 古くから絵本やおとぎ話の題材として用いられることはあるが……。


 まさかそれのことを言っているのだろうか。



「遺物兵器を動かすには上質な魔石、それも上質なものが必要でな。ちょうどいいので殺処分した竜を使おうというわけだ」


「っ、つまり、国王陛下は今まで国を守ってきた竜たちを殺して昔話に登場するような国家が作った兵器の燃料にする、と?」


「昔話だと? 馬鹿なことを言うな。魔法帝国はたしかに存在したのだ!!」



 とてもではないが、俺には今の国王が正気とは思えなかった。



「ふん、やはり余の崇高な計画を理解できる者はおらぬようだな。古代魔法帝国の遺物兵器があれば、我が王国は他の列強の国力を大きく上回る!! 王国が世界を統べる日も遠くはない!!」


「……そうですか」



 これ以上は話しても無駄だろう。


 わざわざ戦争のない平和な時代を破壊してまで世界を統一するなど、馬鹿みたいな話だ。


 王は、乱心している。


 俺はこれからどう立ち回るべきか考えながら、竜騎士団の宿舎に向かった。









 その途中で顔見知りの女と遭遇する。



「む。テレシアか」


「あ、エルちゃん先輩!!」



 仮にも第零竜騎士団の団長である俺をちゃん付けで呼ぶ女は王国に一人しかいない。


 ピンクブロンドの長い髪と黄金の瞳の美女。


 胸元が大きく開いた純白のドレスをまとっており、スリットが深い。


 ちらりと覗く色白な太ももと、それを包むニーハイソックスとガーターベルトに思わず視線を吸い寄せられる。


 その抜群のプロポーションと美貌に見惚れる男は少なくないだろう。


 彼女の名前はテレシア。


 王都防衛を担う第一竜騎士団の団長であり、単純な戦闘力では俺を上回る女だ。


 俺は思わず苦笑する。



「ちゃん付けはやめろ」


「えー、あたしにとってはエルちゃん先輩はエルちゃん先輩だしぃ。無理かな☆」


「そうか」


「で、何かあったの? 顔色が悪いけど」


「……ここでは話せないな。団長室に行こう」



 俺はテレシアを連れて団長室に向かった。


 各竜騎士団の団長のみが立ち入れる、防音設備も完備した部屋だ。



「あれ? もう誰かいるじゃん」



 団長室に入ると、誰かが寝袋を床に敷いて寝息を立てていた。


 丁寧にアイマスクもしている。


 俺は見覚えのあるその人物の肩を軽く揺すり、起こした。



「ほら、起きろ。マキナ、団長室で寝るな」


「……革命の時は来た……立ち上がれ労働者よ……醜く肥え太った権益者どもに正義の鉄槌を……むにゃむにゃ……」


「どんな夢を見てんだ」


「んがっ、ん……。エル様? おはよう」



 口からよだれを垂らして目を覚ましたのは、青みがかった銀髪を短く切り揃えた、空色の瞳の少女だった。


 その少女の名前はマキナ。


 表情に乏しいが、顔立ちが非常に整っており、人形のように可愛らしい少女である。


 華奢で小柄なせいか、第三竜騎士団の団長でありながら部下や民衆からマスコットのような扱いを受けている。


 思想は少し偏っているが……。


 まあ、根っからの悪い子ではないので俺も可愛がっている。



「ん。いい夢だった。やっぱり睡眠は団長室でするに限る」


「……そうか」


「ん。エル様はここで何してるの?」


「あー、まあ、なんだ。テレシアに少し相談があってな」


「ん。脳筋の体毛ピンクゴリラに相談してもいいことはない。マキナがエル様の相談に乗る。マキナは全ての労働者の味方」


「あれ? もしかしてマキナちゃん、あたしに喧嘩売ってる? 買うよ☆ 殴るよ☆」


「……喧嘩するな……」



 何故かバチバチに火花を散らし合うテレシアとマキナ。


 と、俺が二人を宥めていたその時。


 慌てていたのか、誰かが凄まじい勢いで団長室の扉を開けて入ってきたのだ。



「エルデウス殿!!」


「お、おお、アルティナか」



 団長室に入ってきたのは金色の長い髪をポニーテールに束ねた翡翠色の瞳の美女だった。


 彼女の名前はアルティナ。


 テレシアとマキナに匹敵する美貌の持ち主で、抜群のスタイルを誇る二人を遥かに上回る凄まじいプロポーション。


 豊満な胸と細くしまった腰、ムチムチの太ももと安産型の大きなお尻。


 その身体を包み込む鎧は今にもはち切れそうなほどで、男ならば誰であっても視線を釘付けにされてしまうだろう。


 俺も思わずガン見してしまった。しかし、今はセクハラとかうるさい世の中だ。


 慌てて視線を逸らす。



「そんなに慌ててどうしたんだ?」


「どうしたもこうしたもありません!!」



 アルティナは国境の警備を担う第三竜騎士団の団長だ。

 彼女が慌てているということは、何かあったのかも知れない。



「エルデウス殿が如何にも破廉恥そうな女性を団長室に連れ込んだと聞いて来たのです!!」


「人聞きが悪すぎる!!」


「ねぇ、ティナちゃん。その如何にも破廉恥そうな女性ってあたしのことかな? かなかな?」


「ん。髪も頭もピンクだから仕方ない」



 しかし、示し合わせたわけではないが、同じ日に竜騎士団の団長の過半数が揃った。


 相談には打ってつけのタイミングだろう。



「実はな――」



 俺は全ての竜を殺処分、それに伴う竜騎士の一斉解雇を国王が決定した旨を告げる。


 古代魔法帝国の遺物兵器が見つかったこと、それからその遺物兵器に殺処分した竜の魔石を使うことも話した。


 まだ正式な命令として下されたわけではないので他言はしてはならないのだが……。


 俺一人で考えるには重すぎた。


 話を聞いたアルティナ、マキナ、テレシアは各々の反応を見せる。



「なんと横暴な!! 竜を、竜騎士を蔑ろにするなど!! 竜はドラグレイアの歴史を紡いできた存在だと言うのに!!」


「……ん。権力者の暴走は許してはならない」


「というか遺物兵器って何千年も前の兵器なんだよね? 動くのかなー」



 俺は三人に問う。



「三人の意見を聞きたい。どうすれば、竜を殺さずに済むか」


「ん。解決策はある」



 真っ先に手を挙げたのはマキナだった。


 普段から偏った思想を広めようとしているが、それでも第二竜騎士団の団長だ。


 やはり頼りになる。



「ん。まずは沢山の人を集める。数が多ければ多いほどいい」


「ふむ、それで?」


「次に城を襲撃して占拠する」


「……ん?」



 ちょっと待て。



「あとは国王の首を取り、王女の首を取り、その亡骸を十字架に掲げる。横暴な権力者を粛清し、労働者が、人民が平等に暮らせる社会を作る。そうすれば竜も殺さなくて済む」


「クーデターじゃねぇかッ!!」


「ん。クーデターじゃない。これは革命。労働者による労働者のための反撃の狼煙」



 無表情で淡々と言うマキナが怖い。


 すると、ここで正義感の強いアルティナがマキナに真っ向から反対した。



「反対です!! そのようなことをすれば苦しむのは他ならぬ民たち!! それに、もし失敗したらどうなるか考えたのですか!? はあ♡ はあ♡」


「ん?」


「失敗したらきっと私は劣情を抱えた兵士たちになぶられてしまう……っ♡」


「「「……」」」


「抵抗すら叶わず、屈強な男たちに組み敷かれて暴力を振るわれ、『気持ちよくしてほしかったら媚びろメスブタ』と罵られながら――はぅんっ♡」


「エルちゃん先輩、ティナちゃんがまた発作起こしてるんだけど」


「……放っておけ」



 アルティナにはたまにこういう時があるのだ。


 マキナもアルティナも駄目、最後に頼れるのは一人しかいない。


 俺はテレシアの意見を訊ねた。



「テレシアは、どう思う?」


「んー、あたしは難しいこと分かんないからなぁ。取り敢えず遺物兵器をぶっ壊す、かな☆」



 そうだった、テレシアは脳筋だった。


 案の一つとしてはありかも知れないが、そもそも遺物兵器がどこにあるのかが分からない。


 探してるうちに竜が処分されてしまうだろう。



「ん。やはりここは革命。権力者を粛清して真に平等な社会を――」


「そうして私は兵士たちの慰み者となってしまうのです!! しかし、身体が堕ちても心までは決して屈しません!! 何故なら私には心に決めた人が――」


「全部ぶっ壊したら解決だよ☆」


「……はあ、どうしたもんか……。いっそ竜を連れて遠くに逃げてしまいたい」



 俺は溜め息とともに呟いた。


 一拍遅れて、俺は自分の放った言葉を改めて繰り返す。



「いっそ、竜を連れて逃げる……?」



 その瞬間、俺はバッと立ち上がった。


 アルティナたちの視線が一身に注がれるが、今は気にしない。


 そうだ、その手があったのだ。


 俺は思わぬ解決手段が見つかって、早速アルティナたちと話をした。










 それから数日後。


 全ての竜騎士を解雇し、竜を殺処分する旨の王命が下った。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「ヒロインたちがおもしれー女すぎる」


エ「困る……」



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2024年11月6日 07:03 毎日 07:03

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