第31話 おにおに
「綺麗だったなぁ」
時間にして僅か五分ではあったが、良い景色は量より質である。赤と緑の幻想的な光は、りんりんの記憶に強く残った。
もう、氷河フィールドに用事は無かった。金棒は回収出来たし、オーロラも見れた。りんりんは街に帰ろうと思った。
「もう金棒を落としちゃ駄目だよ」
「おが」
「でもあの場所だと、落とすと言うよりも、投げちゃったのかな?」
「おが」
「何でも良いか。さてと、私達は街に帰るね」
「お、おが……」
「バイバイ。元気でね!」
仲間のプロモン達を呼び寄せて、りんりんは街に帰り始める。その後ろ姿を鬼型プロモンは寂しそうに見ていた。
「キュー!」
鬼型プロモンにペンギン型プロモンが近寄り、声をかけた。
「キューキュー!」
鬼型プロモンの背中をペンギン型プロモンが押す。びくともしないが、それでも押した。
「おがぁ……」
「キューキュ!キュ!?」
鬼型プロモンがペンギン型プロモンを見ると、ペンギン型プロモンはりんりんの方を羽で指した。
「キュ!キュキュキュキュ!」
ペンギン型プロモンが頷く。アザラシ、ラッコ、シロクマ、トナカイ、キツネ型プロモンもその後ろで頷いた。
「キュ!」
「……おが!」
何かを決断した表情で、鬼型プロモンがりんりんの後を追って近づいた。
「おががー!!」
「あれ?キミ、どうしたの?」
ドスンドスンと音を立てて近づいた為、りんりんは鬼型プロモンの接近に直ぐに気づいて振り向いた。
「おがが!」
「もしかして、何か忘れ物しちゃったかな?」
「おが!」
「大変!みんな、一回戻るよ!」
そう言って鬼型プロモンが来た道を戻ろうとするりんりんを、鬼型プロモンが止めた。
「え?」
「おが!」
鬼型プロモンが自身を指差した。
「……なるほどね。キミが忘れ物なのね」
「おがぁ!」
鬼型プロモンが笑顔になるのを見て、りんりんも笑顔になり、鬼型プロモンにそっと手を向けた。
「【テイム】」
鬼型プロモンのテイムから三日後。りんりん達はいつものホテルの一室に居た。
「クゥーン」
「寂しいね、いぬいぬ」
りんりんは昨日までの三日間、ミコとプログラムモンスターのゲーム内で遊んでいない。当然、りんりんの仲間のいぬいぬとミコの仲間のグシオンも遊べていない。
「あと二時間くらい経ったら、ミコちゃんは用事が終わるらしいよ」
「ワン!」
「それまで私と遊ぼうよ、いぬいぬ」
「ワン!……ワン?」
元気良く返事をしたいぬいぬが、突然苦しそうに震え出した。
「いぬいぬ……?」
「ク、クゥーン……」
「だ、大丈夫!?いぬい……ぬ……?」
りんりんはこの時、苦しそうに震え出したのはいぬいぬだけでは無い事に気づいた。うまうまも、わしわしも、かめかめも、りゅりゅも、新しく仲間になった鬼型プロモンのおにおにも、りんりんの仲間の六匹全員が苦しそうに震え出した。
「え!?え!?みんな、大丈夫!?」
何が起きているのか全く分からないが、異常事態である事はりんりんにも理解出来た。
「と、とりあえず、運営のホームページを開いて報告を……え!?アクセスが集中していて開けない!?」
「ク、クゥーン……」
「ちょ、ちょっと待って!みんな、もう少し耐えて!」
何度もホームページを開こうとするが、全く開かない。焦りと苛立ちと不安の感情で、りんりんはパニックを起こしそうであった。
「ど、どうしよう!!ええと、ええと、うまうま!【活命の祈り】!りゅりゅ!【プラズマセラピー】!」
二匹が苦しそうにしながらスキルを発動する。
「ああああ!!やっぱり効いていない!!ヒットポイントも減っていないし、【プラズマセラピー】で治る状態異常のアイコンはみんなに出ていなかったから当たり前だけれども!!」
「ブルル……」
「がる……」
「どうしよう!!どうしよう!!どうしよう!!どうしよう!!」
原因不明。解決方法も不明。運営への報告はアクセスが集中して不可能。
「あ、運営からメールが来た!ええと、ログアウトをして待てば良いのね!」
運営からのログアウトを勧めるメールに従い、りんりんがログアウトをしようとしたその時、部屋のドアが激しく叩かれた。
「え!?誰!?」
ミコは鍵を持っている。つまり、ドアを叩いて、部屋の中のりんりんにドアを開けて貰う必要が無い。誰がドアを叩いたのか、りんりんが確認しようとドアに近づき、チェーンをかけてからドアを開くと、見知った人物がそこに居た。
「お久しぶりです。りんりんさん」
服装は旅人の様な衣服に革のマントとベレー帽で、以前会った時と全く異なるが、その極めて整った顔はりんりんには見覚えがあった。
「ビットさん……?」
「ええ。ビットです。りんりんさん、助けて下さい。全プロモンの危機なのです」
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