第29話 寒中水泳
わしわしが作戦を考えてから十五分後、りんりんはビキニ姿で焚火に当たっていた。
「さ、寒い……。背中が寒すぎる……」
氷河フィールドの気温はマイナス二十度を下回っている。焚火に当たっているお腹側はまだ暖かいが、りんりんの背中は焚火の熱を受けられず、凍え切っていた。
「ピィー」
「待って!!あと三十秒だけ!!お願い!!」
「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」
「カウントダウンしないでよ……余計に憂鬱になる……」
「おがぁ……」
「大丈夫!!やるよ!!誰も良い方法を他に思いつかなかったからね!!」
心配そうに声をかける鬼型プロモンに、りんりんは空元気を出して答える。正直、今からでもこの作戦は中止したかった。だが、この鬼型プロモンを助ける為、りんりんは覚悟を決めたのであった。
「ううううう!!うおおおおー!!!!」
自分を鼓舞する様に雄たけびを上げて、りんりんはロープの端を掴む。
「わしわし!!」
「ピィ!」
わしわしがりんりんを掴んで飛び立つ。
「ぐううううううう!!!!」
空中を移動する事約三十メートル。時間にして三秒。風を切って移動した事で、たった三秒で、焚火に当たっていたりんりんのお腹側は冷えて、りんりんは全身が凍え切った。
「ピィ!!」
わしわしがりんりんを離し、海に落とす。場所は金棒のある場所の真上である。かめかめ達が目印になって、りんりんが寒い思いをする時間を限界まで減らせる様にサポートしていた。
「うぐうううううう!!!!」
プログラムに保護されている為、りんりんは絶対に死なないし、痛い思いもしない。だが、寒さは感じる。水温はほぼ零度で、海上の気温よりは二十度以上高いはずだが、りんりんの体感気温はむしろ下回っていた。
「うぎいいいいいい!!!!」
寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。全身が凍りそうな寒さに襲われながら、りんりんは真下に泳いだ。腕も足も寒さでおかしくなりそうだったが、がむしゃらに泳いだ。
「うううううううう!!!!」
金棒に近づき、ロープを素早く、しっかりと、丁寧に巻き付ける。一刻も早く結び付けを終わらせて焚火に当たって温まりたかったが、結びが甘くてやり直しになれば最悪である。ロープを二重に巻き付けてから、りんりんは真上に全力で泳いだ。
「ピィ!!」
りんりんが海上に上半身を出した瞬間、即座にわしわしはりんりんを掴んで、焚火へと運んだ。
「ああああああああ!!!!」
濡れた体でマイナス二十度を下回る気温の中、風を切って移動する。筆舌に尽くしがたい寒さをりんりんは感じた。
行きと同じく三秒で移動を終えて、わしわしは焚火のすぐ横にりんりんを降ろした。
「ああああ!!!!暖かいいいいいいい!!!!」
焚火の暖かさに感動を覚えながら、りんりんは震える指先でメニュー画面を開き、全身乾燥のボタンを押してから服装を変える操作を、可能な限り高速で行った。
「………………………………」
「ピィ?」
「………………………………」
「ピィ?」
「………………………………疲れた」
時間は五分もかからなかった。だが、りんりんは完全に疲れ切っていた。一歩も動く気力が出なかった。全身の海水は一滴残らず乾燥して消えているし、格好はビキニ姿から暖かい格好になっているし、焚火に当たっている。それでも、りんりんにはまだ寒さが残っている気がした。
「ワンワン」
「がるる」
「ヒヒン」
「ピィー」
「ありがとう、みんな」
りんりんの仲間のプロモン達が、りんりんの背中側に寄り添って温める。かめかめも焚火で海水を乾かしてから、りんりんを温めた。
「………………………………」
放心状態のまま五分程焚火に当たってから、りんりんはかめかめに尋ねた。
「……かめかめ。私、ちゃんと結べたよね?」
かめかめが頷いたのを見て、りんりんは心の底から安堵した。潜り直しが必要になれば、発狂する自信があった。それくらい、寒かった。二度とこの様な思いはしたくなかった。
それから更に五分程焚火に当たってから、りんりんはふらふらと立ち上がり、鬼型プロモンの元へと歩いた。
「待っていてくれたのね」
「おがぁ」
「ありがとう。しっかり見せて貰うよ」
「おがおがぁ」
「私は寒中水泳を頑張った!今度はキミが頑張る番!」
「おがぁ!」
「準備は良いかな!?」
「おがぁ!!!」
元気に鬼型プロモンが返事をした。その手には、金棒に結ばれたロープが握られていた。
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