第28話 丸太

 一度街に戻り、金棒に代用出来そうな物を買ってから、りんりんは鬼型プロモンの元に戻った。




「ただいま!」


「おがぁ!」


「キュー!」


「随分プロモンが増えたね。みんな、キミに協力してくれるプロモンかな?」


「おがぁ」




 頷く鬼型プロモンの周りには、ペンギン型プロモンの他にアザラシ、ラッコ、シロクマ、トナカイ、キツネ型プロモンが集まっていた。




「とりあえずプロモンも増えたから、もう一回潜って動かせないか試してみようか。いぬいぬ、【力の咆哮】」




 いぬいぬが吠えて、かめかめとペンギン、アザラシ、ラッコ、シロクマ型プロモンが海に潜る。数分後に五匹は戻って来たが、やはり金棒は見当たらなかった。




「おかえり。どうだった?相変わらず、びくともしなかった?」




 りんりんが尋ねると、かめかめは頷いた。




「……」


「おがぁ?」


「もしかしたら、私が買った物では重さが足りないかもしれない」




 そう言いながら、りんりんは一本の丸太を実体化させた。直径一メートル、長さ四メートルの巨大な丸太である。持ちやすくする為に端は少し削られて細くなっているが、その重さは一トンを超えていた。




 三百キロ程度ならば力を強くしていないかめかめでも振り回せる。その事から考えると、力を強くしたかめかめが、同じく力を強くしたペンギン型プロモンと協力してもびくともしなかった金棒の重さはどう考えても一トンは下らないだろう。そう考えて丸太を買ったりんりんであった。




「普通の軽自動車が九百キロ程度らしいから、それ以上の重さだけれども……」


「おがぁ」




 鬼型プロモンは丸太を片手で持ち上げて、軽々と何度も投げ上げては受け止めた。




「おがぁ……」


「やっぱり、足りないよね。この三倍以上は欲しいかな?」


「おがぁ」


「金棒は四トンぐらいの重さだったのかな?もっと大きな丸太を買うとしても、今度は大きさが問題だよね。」


「おがぁ」


「困った。丁度良い物が思いつかない」




 四トンは荷物をいっぱいに積んだ小型トラック並みの重さである。それ程の重さで、身長二百五十センチ程度のこの鬼型プロモンが片手で持つ武器として丁度良い大きさの代用品はりんりんには思いつかなかった。少なくとも、売られていない。このゲームには武器屋や鍛冶屋は無いので、金棒を作り直す事も出来ない。




「やっぱり、金棒を回収するしかなさそうだね。でも、どうしよう?キミ、泳げないよね?」


「おがぁ」


「そうだよね。もしもキミが泳げたら、もう海に潜って回収しているよね。でも、キミ以外は金棒を動かせない」


「おがぁ……」


「一応、これを買ってみたのだけれども……」




 そう言いながら、りんりんは一本のとても長いロープを実体化させた。




「このロープを金棒に結んで、キミが引っ張る作戦を考えたの」


「おがぁ!!」


「良い作戦だと思うよね?でも、みんな、金棒にロープを結べる?」




 泳げるプロモン達にりんりんが尋ねたが、五匹全員が首を横に振った。




「おがぁ……」


「やっぱりね。ロープを結ぶ事は難しいのではないかと思っていたけれども、悪い意味で予想通りだよ」




 プロモンは賢いが、それは現実の一般的な動物と比べた時の話であり、その賢さはおおよそ人間の三歳児程度である。これは、プロモンがプレイヤーの指示を理解出来て、且つ動物らしさを失わない程度の賢さになるように開発の段階で調整された結果である。人間の三歳児程度の知能で、ロープを結ぶ事は困難を極めた。




「どうしよう……」


「おがぁ……」




 りんりんやおにおには勿論、その場の全員の表情が暗く沈んだ。代用品は無い。鬼型プロモンは泳げない。金棒にロープは結べない。どうしようもなかった。




「ロープの先に磁石を……でも金棒を動かす時に外れない程の磁力は厳しいよね……」


「おがぁ……」


「ロープの先に輪を作って引っ掛ける……でも引っ掛ける程度では金棒を動かそうとしたら、外れるよね……」


「おがぁ……」




 推定四トンの金棒。それとロープが外れない為には、しっかりと結ぶ以外に良い方法がりんりんには思いつかなかった。




「ロープはプログラムの関係で絶対に壊れないけれども……」


「ピィー!!」


「うわっ!びっくりした!」




 突然、わしわしが鳴いて、りんりんは驚いた。




「ピィ!ピィピィ!ピィピピ!!」


「ど、どうしたの?わしわし?」


「ピィ!」




 わしわしが、ロープの端を咥えて、りんりんの手に押し付ける。




「ロープがどうかしたの?」


「ピィ!ピィ!」


「ロープを金棒に結べないから、どうしようも……」




 この時、りんりんは理解した。理解してしまった。何故、わしわしが”りんりんにロープを押し付ける”のか。




「も、もしかして、”私”が金棒にロープを結べば良いって考えたの?」




 わしわしが頷いた。頷いてしまった。




 プロモンと違って寒さを感じるりんりんが、氷河フィールドの海に潜る。想像するだけで寒くなる残酷な作戦を、わしわしは考えたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る