第21話 りゅりゅ

 プロモンのプロモを撮ろう!のイベント開始から十一日後、りんりんとミコは街中の広場のベンチに座って話をしていた。




「イベント、大盛り上がりだったね」


「運営が予想していたであろう形とは全然別の形ではあったけれども、盛り上がったわね」


「牛型プロモンと牛柄ビキニを着た女プレイヤーが写ったサムネイルの動画や、ラッコ型プロモンと貝殻ビキニを着た女プレイヤーが写ったサムネイルの動画も見かけたよ」


「一位の動画は五十万回以上再生されていたわね。たった十日しかイベント期間はなかったのに、凄い話よね」


「ナメクジ型プロモンの動画が優勝するなんて、イベントが始まる前は誰も予想していなかっただろうね」


「あの動画、ぬめぬめしていたわね」


「そうだね。ぬめぬめしていたね。あ、報酬がやっと届いた」




 二人は話を中断して、メニュー画面を開いて運営からのメールを確認した。参加賞のプロモンの卵を受け取り、実体化させる。




「おしゃべりは楽しかったけれども、予定時刻の一時間も前から待つのは楽しみにしすぎじゃないかしら?」


「だって!プロモンの卵だよ!可愛いプロモンの赤ちゃんが生まれてくるんだよ!」


「赤ちゃんって言うけれども、普通のプロモンと何も変わらないわよ?」


「え?私、哺乳瓶とか買って来たのだけれども」


「必要無いわよ。生まれた時から一匹の戦士として扱い、厳しく接して大丈夫よ」


「す、スパルタだね。生まれた時から戦士扱いするなんて」


「普通だと思うわよ。さて、どっちから孵化させる?」


「私からで良い?早く会いたい!」




 どうぞ、とミコが答えると、すぐにりんりんはメニュー画面を開き、卵を孵化する、というボタンを押した。すると、りんりんが手の上に乗せていた卵が光を放った。




「どんな子が生まれるかな?この卵、現実の鶏の卵くらいの大きさだから、やっぱりひよこぐらいの大きさかな?」




 卵が放つ光がどんどん眩しくなり、その眩しさに耐えきれずにりんりんは目を瞑った。その瞬間、りんりんは手に乗っている重さが変化するのを感じた。




 瞼越しに眩しさを感じなくなってから、りんりんは目を開けた。手の上に、一匹のドラゴン型プロモンが座っていた。




「がるー?」


「か、可愛い!!」




 ふわふわの金色の羽毛が、ひよこ程度の全身の大きさが、くりくりとした目が、大きな耳が、小さな四つの足が、どれもりんりんの心を奪った。とにかく可愛い。その一言に尽きた。




「がるーがるー」


「よーしよし!可愛いですねー!キミは龍だから、お名前はりゅりゅにするよー!」


「がるー!」


「元気なお返事!可愛い!そうだ!ミルクをあげるね!」




 りんりんはメニュー画面を開き、哺乳瓶とミルクのパックを実体化させた。素早くミルクを哺乳瓶の中に入れて蓋を閉めて、りゅりゅに手渡す。自分の体より大きな哺乳瓶を持ち上げて、りゅりゅはミルクを飲み始めた。




「可愛い!しかも自分より大きな哺乳瓶を持ち上げるなんて、力持ちなのね!可愛い!」


「ねぇ、りんりん」


「可愛い!ミルクが口から溢れて体がびちゃびちゃになってる!それが可愛い!」


「ねぇ、りんりん」


「可愛い!可愛い!最高に可愛い!」


「ねぇ!!りんりん!!」


「うわ!びっくりした!どうしたの?ミコちゃん」


「私にも見せて欲しいわ」


「あ、ごめん。ミコちゃんも見たいよね。」




 手の上に乗せたまま、りんりんはりゅりゅをミコに見せた。色と大きさが完全にひよこと同じね、とミコは感想を呟いた。




「いぬいぬ達にも見せてあげないとね」




 広場にはりんりんとミコの二人だけが元々居たわけでは無かった。じゃれ合うグシオンといぬいぬ、日光浴をするわしわしとかめかめ、いつも通りりんりんの髪を噛んでいるうまうま。五匹のプロモンが、りゅりゅを見つめていた。




「キミの仲間だよー。仲良くしてねー」




 体に付いたミルクを拭いてから、広場の芝生の上にりんりんはりゅりゅをそっと降ろした。いぬいぬとグシオンがすぐに近づき、りゅりゅと話を始めた。他の三匹は少し離れた場所から様子を伺っていた。




「さて、今度はミコちゃんの番だね」


「そうね。どんな子が生まれてくるかしら?」




 そっと広場の芝生に卵を置き、ミコもメニュー画面を開き、卵を孵化する、というボタンを押した。




 卵が光を放ち、どんどん眩しくなる。りゅりゅの時と同じように、直視出来ない程の眩しさになり、そして光が落ち着いた。




「「え?」」




 卵が置かれていた場所には、カエル型プロモンが居た。りんりんよりもミコよりも大きい、巨大なカエル型プロモンだった。




「オタマジャクシじゃなくてカエルが生まれた!?」


「それも気になるけれども、大きさも気になるわね。私が乗れそうな大きさだわ」


「忍者みたいな事が出来るね!」


「興味無いわ。お!?おお!?」


「どうしたの?ミコちゃん?」


「今、軽く強さを見てみたのだけれども、この子強いわ!」


「そうなの?」




 ステータスを見せて、と言いながらりんりんがミコの開いたメニュー画面を見ようとしたその時、事件は起きた。




「がるー!!!!」




 りゅりゅの叫び声があがり、直後に雷が鳴る音がした。




「「な、何!?」」




 二人は大きな音に驚き、音の聞こえた方を向いた。




 そこには、うろたえている五匹のプロモンと、泣いているりゅりゅがいた。




「よしよし、落ち着いて。いい子いい子」




 りんりんがりゅりゅを抱き抱えて落ち着かせる。心配そうに近づいて来たいぬいぬとグシオンとかめかめに、もう大丈夫、と伝えてから、りんりんは尋ねた。




「りゅりゅ、どうしたの?」


「がるー」


「雷が鳴った音がしたのだけれども、あれはりゅりゅの仕業だよね?どうしたの?」


「が、がるー」




 りゅりゅが怯えた目でうまうまを見た。まるで、原因はうまうまにある、と言う様な顔をしていた。




「うまうま、何かりゅりゅに泣かせる様な事をしたの?意地悪するのは良くないよ。仲良くしてね」


「ブルル」


「何?違うの?うまうま、りゅりゅに何をしたの?」




 りんりんがうまうまに尋ねると、うまうまがりんりんに近づこうとした。




「がるー!!」




 しかし、りんりんに抱かれていたりゅりゅが放電をして、うまうまに攻撃した。近づくな!と怒っている様であった。




「りゅりゅ、落ち着いて。ええと、うまうま、代わりにいぬいぬに何をしたか再現出来るかな?」


「ヒヒン」


「ワン」




 いぬいぬがうまうまに近づいた。すぐ傍まで来たいぬいぬの頭を、うまうまは優しく噛んだ。




「あー、そういう事か」




 りんりんはうまうまの行動を見て、何が起きたのか理解した。




 まず、うまうまは馬型プロモンであり、現実の馬と同じ習性がある。その習性の一つに、愛情表現として相手を噛む、という行動があった。りんりんの髪を噛むのもこの習性に基づいており、他の仲間のプロモンも噛んだ事があった。




 今日、うまうまはりゅりゅを噛んだのだろう。普段からりんりんの髪を噛み、いぬいぬ達を噛む事もあったのだ。それらと同じ様に、うまうまはりゅりゅを噛んだ。しかし、それが良くなかった。噛む行為はうまうまにとっては愛情表現だったのだが、りゅりゅにとってはそうではなかった。




 ひよこ程度の大きさしかないりゅりゅにとって、うまうまは大きすぎた。その口に噛まれて、うまうまに食べられてしまうと誤解したりゅりゅが放電した。




「ねぇ、りゅりゅ」




 誤解を解いて、仲間として二人には仲良くして欲しい。りんりんはそう思い、りゅりゅに話しかけた。




「うまうまがキミを噛んだのは、キミを仲間として認めたからなのだよ」


「がるー?」


「怖い思いをしたかもしれないけれども、うまうまは意地悪しようとしたわけじゃないの。許してあげて」


「ブルル」




 ぺこりとうまうまがりゅりゅの方を向いてお辞儀をした。だが――




「がるっ!!」




 許さない!!と言う様に、りゅりゅはそっぽを向いた。


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