第19話 vsダイオウイカ型プロモン

「どうして!?どうしてこんな酷い事をするの!?」




 首だけを動かしてりんりんはダイオウイカ型プロモンの方を見る。ダイオウイカ型プロモンは笑いながらかめかめに攻撃を続けていた。かめかめも動き回って逃げ切ろうとするが、泳ぎのスピードが違いすぎた。




 長い触手と触腕がかめかめを叩き続けた。まだまだ泳ぎがぎこちないかめかめは、その攻撃を全く避けられなかった。




「お願い!かめかめを叩くのはもう止めて!」




 りんりんが叫んだその時、ピタリとダイオウイカ型プロモンが動きを止めた。




「良かった!話を聞いてくれ……え?」




 りんりんがほっとしたのもつかの間の事だった。何のスキルなのかはりんりんには見当がつかなかったが、ダイオウイカ型プロモンの顔の前に、真っ黒な球体が発生していた。少しづつ大きくなっているその球体を見て、りんりんは確信した。ダイオウイカ型プロモンが大技を発動させようとしている、と。




「や、止めて!かめかめに酷い事をしないで!もう止めて!お願い!」




 球体は大きくなっていき、スイカほどの大きさになった。りんりんの叫びを無視して、ダイオウイカ型プロモンはかめかめに球体を向けた。




「ぐ、うぐぐぐぐ!!」




 りんりんはもがいた。かめかめを助けたかった。守りたかった。殆どヒットポイントが残って無いであろうかめかめに、見るからに強そうで、溜めもある攻撃が直撃したらどうなるか。想像したくない結末が予想できた。かめかめの泳ぐ速さでは躱すことは難しいだろう。何とかしたかった。代わりに受けたかった。だが、りんりんの体は四本の触手に絡みつかれていて、全く動かなかった。




「あ、ああああ……」




 絶望の声をりんりんが漏らした。触手による猛攻が止んだ後、必死でかめかめは泳いでダイオウイカ型プロモンから距離を取ろうとしたが、取れた距離は十メートルも無かった。




 球体は大きくなっていき、バランスボールほどの大きさになった。その直後、球体が一瞬黒く光った。同時に、黒いビームが球体からかめかめに向けて真っ直ぐ放たれた。




「かめかめー!!!!」




 りんりんが叫ぶ。避けて欲しい。ただその一心で叫んだ。だが、りんりんの願いは虚しく、ビームは間違いなくかめかめを包み込んだ。




 球体が小さくなっていって消えると同時にビームも消えた。かめかめがいた場所には何も残っていなかった。




「かめかめ……そんな……」




 文字通り、跡形も無い。その事実に、りんりんは茫然とした。ダイオウイカ型プロモンは大笑いをしていた。どちらも、かめかめが先程までいた場所だけを見ていて、それ以外の周りの様子など気にしていなかった。




 だから、どちらもその攻撃に気づけなかった。水で出来た大きなハンマーが、ダイオウイカ型プロモンの腹を背後から叩いた。




「……え?」




 触手に引っ張られて大きく体を揺らされながら、りんりんは見た。二回り程大きくなったかめかめがダイオウイカ型プロモンを見つめていた。




「かめかめ!」




 りんりんが呼ぶと、かめかめがりんりんの方を向いて笑い、またダイオウイカ型プロモンの方を向いた。




 強力な一撃を喰らったダイオウイカ型プロモンは素早く体勢を立て直していた。そしてかめかめに近づき、反撃に【触手連打】を放った。だが――




「す、凄い!全部躱している!」




 ぎこちなさを全く感じさせない動きでかめかめはすいすいと泳ぎ、その攻撃を全て躱していた。あっという間にダイオウイカ型プロモンの顔の前に接近して、【シェルバレット】で攻撃する。




 顔面への攻撃に怯んだのか、ダイオウイカ型プロモンがりんりんに絡みつかせていた触手を緩めた。その隙を逃さず、りんりんは脱出する。




 全力のクロールでりんりんはダイオウイカ型プロモンから距離を取った。充分に距離を取った後、すぐ傍に寄ってきたかめかめに、もう大丈夫、と伝えて、りんりんはダイオウイカ型プロモンの方を向いた。




 ダイオウイカ型プロモンはかめかめを鋭い目つきで睨んでいた。だが、かめかめは全く怯んでいなかった。




 りんりんが解放された事で自由になった全ての触手と触腕で、ダイオウイカ型プロモンがかめかめに襲い掛かった。だが、かめかめはその全てをすいすいと躱して再度ダイオウイカ型プロモンの顔の前に近づき、【シェルバレット】で攻撃した。




 ダイオウイカ型プロモンが怯んだ隙にかめかめは今度は腹に嚙みついた。その次の瞬間、ダイオウイカ型プロモンは海底に叩きつけられていた。




「す、凄い……」




 体格差が二十倍以上ある相手をかめかめは振り回したのだ。興奮や感動よりも、驚きが勝った。




 にゅるにゅると動いていたあの触手が、笑顔で恐怖を与えてきたあの顔が、光となって消えていった。ダイオウイカ型プロモンは完全に消滅した。残されたのはりんりんとかめかめだけであった。






「ワン!ワン!ワンワン!」


「ヒヒーン!ヒヒーン!」


「ピィー!」


「ただいま!みんな!遅くなってごめんね!」




 ダイオウイカ型プロモンとの戦いの後、即座にりんりんとかめかめは砂浜に戻った。いぬいぬとうまうまは戻ってきたりんりんに即座にじゃれつき、わしわしは羽を広げた日光浴の姿勢を崩さずに顔だけをりんりんに向けて一声だけ鳴いた。




「ワン?」


「気づいた?実はね、かめかめも急成長したんだよ!もう私よりも泳ぐのが上手かったよ!」




 かめかめが二回り程大きくなった事に気づいたいぬいぬに、りんりんがかめかめの変化について伝えた。すると、おめでとう、と祝う様にいぬいぬとうまうまがかめかめを舐め始めた。




「良かったね、かめかめ」




 砂浜にしゃがんで、くすぐったそうにしているかめかめをりんりんは眺めた。




「……」




 ふと、りんりんはここ五日間のかめかめとの出来事を思い出した。




 泳げない事に気づかずに海に二回沈めた事。




 平泳ぎを見せて、真似をさせて泳ぐ練習をさせた事。




 ダイオウイカ型プロモンから救ってもらった事。




 他にも色々な思い出が浮かんだ。お弁当を一緒に食べた事。水の中で目を開けられる様に頑張った事。色々な思い出がりんりんの心に浮かんだ。




「ねえ、かめかめ。私達の仲間にならない?」




 別れるのが寂しい。切ない。かめかめが愛おしい。その思いがりんりんにこの提案をさせた。




 かめかめがゆっくりと頷いた。

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