第16話 何が違うの?
「カメ、だよね?スッポン型プロモンが出るのは池フィールドだったはずだし」
カメ型プロモンを片手で持ちながら、りんりんはカメとスッポンの違いについて検索をかけた。検索結果には、甲羅が硬いのがカメ、柔らかいのがスッポンと出てきた。
「やっぱりカメか。わしわしー!」
食いしん坊キャラのわしわしの事であるから、高級食材とされているスッポンがいるといぬいぬから聞いて、自分を大急ぎで運んだのだろう。そう考えて、りんりんは振り返ってわしわしに声をかけた。
「ピィー!?」
「この子、カメだよ!スッポンを食べたかったのだろうけれども、この子はカメだよ!」
「ピィ!ピィ!ピィ!ピィ!」
「何?違うの?えー?」
わしわしが首を振ってきたので、改めてりんりんは手元のプロモンを見る。甲羅は固く、模様は六角形。そして淡水の環境ではなく海にいる。そもそも海フィールドにカメ型プロモンは出てくるが、スッポン型プロモンは出てこない。
「やっぱりカメだよこの子!ほら!触ってごらん!」
浅瀬から砂浜に上がり、りんりんはわしわしの前にカメ型プロモンを置いた。困惑した表情を浮かべながら、わしわしはカメ型プロモンの甲羅を軽くつついた。その後、いぬいぬとうまうまが、心配そうに甲羅を舐め始めた。
「ね?カメでしょ?」
「ピィー」
「スッポンは高級食材だし、食べてみたいのは分かるけど、残念ながらこの子はカメだよ。それに、この子はプロモンだから食材アイテムとは違って食べられないよ」
「ピィ!ピィ!ピィ!ピィ!」
「何?何が違うの?」
わしわしは高級食材であるスッポンを食べたくてりんりんをここまで連れてきた。りんりんはそう考えていた。その為、これはカメであるし、そもそもプロモンだから食べられないのだと説明したが、何故かわしわしは首を振ってきた。
「わしわしがどうして首を振っているのかは分からないけれども、仮にスッポンでもカメでも何でも、やることは同じだよね」
「ピィ?」
「逃がしてあげよう」
そう言ってりんりんは、いぬいぬとうまうまに舐められていたカメ型プロモンを持ち上げて、浅瀬に向かって歩き出した。
「驚かせちゃったよねー。なんだかぐったりした顔をしているけれども、もう大丈夫だよー」
「ワン!ワンワン!ワン!」
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
「ピィー!ピィー!」
「何?みんな急に騒ぎ始めてどうしたの?」
りんりんが浅瀬に踏み入れた瞬間、三匹が騒ぎ始めた。りんりんは、何か危ない野生のプロモンでも近づいて来ているのかな、と考えて周囲を見渡したが、それらしい姿は見当たらなかった。
「ワン!ワンワン!ワン!」
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
「ピィー!ピィー!」
「大丈夫だよ!もう!みんな随分騒ぐなあ。さて、バイバイ。元気でね」
りんりんがそっとカメ型プロモンを海に沈めると、より一層三匹は騒ぎ出した。
「何?本当にどうしたの?」
「ワオーン!!」
「いぬいぬ!?急にこっちに走ってきてどうしたの?」
「ワオーン!!」
いぬいぬが焦った様子で、水しぶきをあげているカメ型プロモンを咥えて海から引き揚げて、すぐに砂浜へと走っていった。りんりんもいぬいぬを追って砂浜に歩いて行った。
「どうしたのさ。いぬいぬが引き揚げた途端に、みんな急に大人しくなるし」
「ピィー」
「わしわし、もう一回聞くけれども、これはカメ型プロモンだよね?」
「ピィ」
「あれ?今度は頷いた。どういう事だろう?」
りんりんは砂浜に置かれたカメ型プロモンをじっくりと見てみたが、特におかしなところは無さそうであった。強いて言えば、ぐったりとした顔をしているのが目についたくらいであった。
「どうしてこんな顔をしているのだろう?」
「ブルル」
「とりあえず、うまうま。【活命の祈り】でこの子を回復させてあげられる?」
「ブル?」
「この子のヒットポイントが減っているのかなって思ったのだけれども」
「ブルル」
「違うの?えー?本当にどういう事なの?」
改めて、りんりんはカメ型プロモンを更に見た。ぐったりとした顔をしており、いぬいぬとうまうまがしきりに甲羅を舐めていた。
「ううむ。よく分からないけれども」
「ピィ」
「元気がなさそうだから、海に戻してあげようよ」
「ワン!ワンワン!ワン!」
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
「ピィー!ピィー!」
「もう!またみんなで騒ぎ出して!どうしてそんなに騒ぐのさ!」
そう言いながらりんりんは再度カメ型プロモンを持ち上げて、浅瀬に運んで行った。
「ワン!ワンワン!ワン!」
「ヒヒーン!ヒヒーン!」
「ピィー!ピィー!」
「もう、うるさいなあ。この子はぐったりした顔をしているのだし、海で休ませてあげようよ」
「ワオーン!!」
「ダメ!いぬいぬ、来ないでね。うまうまとわしわしもこっちに来たらダメだよ」
走って駆け寄ろうとしてきたいぬいぬを止めて、りんりんはカメ型プロモンを海に再度そっと沈めた。
「ワオーン!!ワオーン!!」
「ヒヒーン!!ヒヒーン!!」
「ピィーー!!ピィーー!!」
「もう!更にうるさくなってどうしたのさ!ほら!私も無事だし、この子も元気に水しぶきをあげているし大丈夫だよ!って、あれ?水しぶき?」
現実のカメが泳ぐ時、ここまで水しぶきは上がらなかったはずである。それなのに、カメ型プロモンは水しぶきをあげていた。そこに違和感に覚えて、りんりんは考えた。
何故、食事中だったわしわしが大急ぎで自分を運んだのか。何故、カメ型プロモンがぐったりとした顔をしていたのか。何故、カメ型プロモンは水しぶきをあげているのか。
「ま、まさか!」
一つの可能性に辿り着き、りんりんは急いでカメ型プロモンを水しぶきの中から引き揚げた。ぐったりとした顔を自分の方に向けて、りんりんはカメ型プロモンに尋ねた。
「もしかして、キミ、泳げないの?」
ぐったりとした顔のまま、カメ型プロモンは力なく頷いた。
「ごめんね!本当にごめんね!泳げないとは知らなかったの!許してくれる?」
必死に謝るりんりんの方を向いて、カメ型プロモンがゆっくりと頷いた。
「ありがとう!本当にごめんね!溺れていたってもっと早く気づいてあげられなくてごめんね!許してくれる?」
必死に謝るりんりんの方を向いて、カメ型プロモンがゆっくりと頷いた。
「ありがとう!あのさ、三人とも」
「ワン」
「ヒヒン」
「ピィ」
「いぬいぬとうまうまはこの子が溺れていたって事が見えていて、でも私の傍から離れられないから私を連れて行こうとした」
「ワン」
「ヒヒン」
「置いていったら私から離れる事になってしまうわしわしも連れて行かないといけないから、わしわしにこの子が溺れているって伝えたら、この子を早く助ける為にわしわしは私を掴んで大急ぎで運んだ」
「ピィ」
「わしわしが首を振ったのはこの子がカメじゃないって言いたかったのではなく、食べるつもりが無かったからだけれども、それらを分からなかった私は、スッポンじゃないとか食べられないとか、的外れな事を言いながら、泳げないこの子を二回海に沈めた、って事だよね?」
「ワン」
「ヒヒン」
「ピィ」
「本当にごめんなさい!!三人も、理解してあげられなくてごめん!!許してくれる?」
必死に謝るりんりんの方を向いて、カメ型プロモンがゆっくりと頷いた。りんりんの仲間の三匹も、りんりんの方を向いて頷いた。
「ありがとう!三人も、ありがとう!そうだ!キミ!お詫びと言ってはなんだけれども、一緒にお弁当を食べない?好きな物を食べて良いからね!」
カメ型プロモンがゆっくりと頷いた。
カメ型プロモンが泳げない事を知った直後、りんりんはすぐにカメ型プロモンと共に砂浜に戻り、ひたすらに謝った。知らなかったとは言えど、泳げないカメ型プロモンを二回も海に沈めたのだ。ひたすら謝るしかなかった。
「ピィー」
「そうだよね。わしわしは早く戻ってお弁当をまた食べたいよね。向こうまで歩くけれども、キミも良いよね?」
カメ型プロモンがゆっくりと頷き、お弁当がある方向へ向かって歩き出した。
「良かった。それにしても、どうしてキミは泳げないのかな?」
りんりんがそう言った瞬間、ピタッとカメ型プロモンの歩みが止まった。よく見ると、その目からは涙がぽろぽろとこぼれていた。
「あ!ああああ!ごめん!違うの!キミを責めたわけじゃないの!ただ疑問に思っただけで!ああああ!泣かないで!ごめん!ごめんよ!」
声こそあげていないが、カメ型プロモンは泣いていた。カメ型プロモンなのに泳げない。それがきっと悔しくてコンプレックスなのであり、そこにグサリと刺さる言葉を言ってしまったのだろうと考えて、りんりんは自分の発言を猛省した。
その後、一人と三匹で必死で宥めた事で落ち着いたものの、カメ型プロモンは甲羅に籠ってしまった。
「ど、どうしよう。完全に引きこもっちゃった」
「クゥーン」
「ブルル」
「ピィー」
甲羅に籠ってしまったカメ型プロモンを見て、りんりんは思った。とても酷いことをこの子にしてしまったな、と。
りんりんには悪気は全く無かった。しかし、りんりんはこのカメ型プロモンが泳げないにも関わらず二回も海に沈めて、更には何故泳げないのかと言って泣かせてしまった。
「ううむ」
もう一度自分が謝り続ければ、この子は許してくれるだろう。甲羅からもきっと出てきてくれるだろう。しかし、それではこの子が抱えている本質的な問題は何も解決しない。また同じように溺れて、また同じように泳げない自分に苦しむだろう。そこまで考えて、りんりんは決断した。
「よし、決めた!私がこの子を泳げるようにしてあげる!」
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