第14話 天下無双

「わしわしが、急成長した……」


「ピィーー!!」




 何故今わしわしが急成長したのか、りんりんには分からなかったが、それはどうでも良かった。メニュー画面を開いて確認したわけではないが、もしもいぬいぬとうまうまの身に起きたものと同じ変化がわしわしの身にも起きたのであれば、わしわしは強くなっているはずである。強くなっているのであれば、網を破れるかもしれない。そこまで考えて、りんりんはわしわしに尋ねた。




「わしわし、網を破れる!?」


「ピィ!」




 その元気の良い返事に、その場にいた四人は驚いた。ボロドウ団の三人は、網を破られるという事に。りんりんは、返事を返してくれた事に。




「ピィーー!!」




 ブチリと音を立てて網が破れて穴が開き、それを広げて中からわしわしが抜けだした。




「ホタル―ジュ!【目潰しの光】!」




 ボロンジョが指示を飛ばして、わしわしを無力化させようとする。だが――




「わしわし!目を閉じて躱して!」


「ピィ!」




 素早く目を閉じて、りんりんとわしわしは目を守った。




「いいよ!そのままあのホタル型プロモンに【天空の爪】!」


「ピィーー!!」




 わしわしが爪で素早くホタル―ジュを切り裂く。一撃。たった一撃でホタル―ジュは光となって消えていった。




「あなた達!何をぼさっとしているんですの!早く攻撃しなさい!!」


「は、はいでごわす!スモウトリ、【乱れくちばし】でごわす!」


「は、はいでやんす!ガリガリス、【テールハンマー】でやんす!」




 スモウトリとガリガリスがわしわしに攻撃するために飛びかかる。だが、その攻撃はわしわしに届かなかった。




「わしわし!【ガルーダウイング】!」




 りんりんの指示を受けて、わしわしが翼で素早く攻撃をする。目にも止まらぬ早業で、一瞬のうちに二匹が光となって消えていった。




「ピィーー!!」




 わしわしはばさりと飛び立ち、りんりんの前に降り立った。




「ピィーー!!」




 りんりんの視界の端に、わしわしが新しいスキルを覚えました、と表示された。さっきまではマウスリムに見張られて何も出来なかったが、わしわしが間に降り立ってくれた今ならばそれを確認できる。そのスキルを見て、りんりんは確信した。わしわしは最強のプロモンだ、と。




「こ、これはまずいのではないでごわすか?」


「ボ、ボス、どうするでやんす?}


「どうするもこうするもないですわ!あの子のヒットポイントはほぼないはず!もうテイムは諦めて倒しますわよ!ドレスズムシ!【食いちぎる】!」


「カモメタボ!【乱れくちばし】でごわす!」


「マウスリム!【テールハンマー】でやんす!




 ボロドウ団の三人の指示を受けて三匹のプロモンがわしわしに襲いかかる。だが、りんりんの心は全く焦っていなかった。




「わしわし!!」


「ピィ!!」


「【天下無双】!!!」


「ピィーーー!!!」




 わしわしの嘴が、爪が、翼がボロドウ団の三匹のプロモンに襲いかかる。誰よりも力強く、何よりも速い連撃。わしわしが新しく覚えたそのスキルによって、三匹のプロモンが光となって消えた。




「そ、そんな!ありえないですわ!」


「あそこから逆転敗北でごわすか!?」


「ここまで上手くやったでやんすのに!?」




 フィールドに連れているプロモンがいなくなった為、ボロドウ団の三人が街に転送されて消えていく。




「ピィーー!!ピィーー!!」




 辺りにわしわしの勝利の雄たけびが響き渡った。いぬいぬとうまうまも網に絡まったままではあったが、そこにいた。守りきったのだ。りんりんはボロドウ団から三匹を守りきることに成功したのであった。






 翌日、いつものホテルの一室で、いつも通りりんりんはミコと話していた。




「本当に危なかったよ。わしわしが急成長しなかったら、今頃三人ともボロドウ団にテイムされていただろうね」


「あのわしわしが急成長したって、今はどれだけ強いのかしら」


「ええっと、これくらい」




 りんりんがメニュー画面を開き、ミコにわしわしのステータスを見せる。




「な、何これ?強すぎない?」


「そんなに強いの?」


「一対一で同レベルなら、わしわしに勝てるプロモンは一匹もいないと思うわ」


「そうなの!?わしわし!強いって褒められたよ!やったね!」


「ピィー」




 部屋の隅で羽繕いをしていたわしわしが、興味無さそうに返事を返した。




「ふふふ。わしわしにはこの後、海フィールドで食べる予定のお弁当の方が大事かな?」


「ピィ!」


「あら、海フィールドに行くの?」


「うん。凄く綺麗らしいから、前から行ってみたかったんだよね」


「そう。今ならイベントも終わって、タコ型プロモンをテイムしようとするプレイヤーもいないだろうから、のんびりできると思うわよ」


「お弁当食べて、泳いで、沢山遊ぶつもり!」


「ピィ!ピィ!」




 早く行こうよ!早く!と言うように、わしわしがりんりんの方を向いて二回鳴いた。




「早く行きたいよね。でももうちょっと待っててね」


「ピィー」




 りんりんの言葉を聞いて、わしわしはしょんぼりとした顔をして羽繕いを再開した。




「あれ?わしわしが大人しいわね。いつもだったら突っついてくるのに」


「そう!急成長してからわしわしが暴走しなくなったし、私の言うことも聞いてくれるようになったの!」


「そうなの!?凄いじゃない!」


「でしょ!私の思いがわしわしに通じたんだよ!」


「そ、そうなのかしら?」


「そうだよ!大切な仲間だからって叫んだら、急成長したんだから!」


「そう。うーん?」


「どうしたの?」


「どうしてわしわしは急成長したのだろうなって思ったのよ」




 何故りんりんのプロモンは急成長したのか。急成長のきっかけは何なのか。仲間のプロモンを強くする為、ミコはそれを知りたかった。




「決まっているよ!いぬいぬとうまうまの時と同じ!私がわしわしの事を強く思って、それにわしわしが応えてくれた!そうに違いないよ!」


「完全に感情論ね。でももしそうならば、私がグシオンに願って、グシオンもそれに応えればグシオンも急成長するのかしら?」


「そうだと思う」


「ふむ。よし、試してみましょう。グシオン、こっちに来て」


「ウキッ」




 いぬいぬと遊んでいたグシオンをミコが呼ぶ。近づいて来たグシオンの方を向いて、ミコは念を送った。




「強くなれー強くなれー」


「何をしているの?」


「私が強くなれと願って、グシオンがそれに応えれば急成長するんでしょ?」


「そのはず」


「だからこうして念を送っているのよ。グシオンも、強くなろうと思いなさい」


「なるほど!よし!私も一緒に願ってあげる!」


「「強くなれー強くなれー」」




 ミコとりんりんの二人で念を送った。だが、グシオンは急成長しなかった。途中から、遊び相手がいなくなって暇になったいぬいぬや、りんりんの髪をいつも通り噛んでいたうまうまにも手伝って貰って一緒に念を送ったが、やはり急成長しなかった。最終的に、わしわしにも念を送る事を手伝って貰ったが、それでも急成長しなかった。




「グシオン。あなた、ちゃんと強くなろうって願っているのかしら?」


「ウキー」


「怒るのは止めてあげようよ、ミコちゃん。もしかしたら、原因が他にあるのかもしれないし」


「それもそうね。はぁ。本当、どうやったら急成長するのかしら」


「ネットに何か書かれていないかな?」


「多分高速レベリングの記事しか出ないだろうけれども、検索してみるわ」




 プロモン、急成長、と入力して検索をかける。どうせプロモンの高速レベリングの記事だけが出てくるだけだとミコは予想していたが、良い意味でその予想は裏切られた。




「え?幾つか急成長に関する記事や動画があるわ!」


「本当!?」




 りんりんも検索結果を覗き込んだ。そこには、何匹かのプロモンが急成長した話についての記事や動画があった。




「あ、ミコちゃん!これ!猿型プロモンが急成長したって書いてあるよ!」


「おおおお!!最高!!とりあえずそれを真似してみるわ!!って、え?」




 その動画を見て、ミコは固まった。




「え?ダンスをしていたら急成長したの?え?このダンス、私とグシオンも踊らなきゃダメ?」




 そこには、幼稚園児が躍るような、良く言えば可愛らしく、悪く言えば子供っぽいダンスが流れていた。




「嘘でしょ?あ、でもサビでちゃんと急成長している……」


「ミコちゃん。ちゃんと見てあげるから踊ってみてよ」


「勘弁してよ。キレがあって格好良いダンスならばまだしも、こんな子供っぽいダンス、恥ずかしくて出来ないわ」


「えー?可愛いよ!そうだ!一緒に踊ってあげようか?」


「大丈夫よ。踊らないから。ほら、あなた達は海フィールドに行ってきなさい」


「絶対可愛いと思うのだけどなあ。気が変わったら教えてね!みんな、海フィールドに行くよー!」




 部屋からりんりん達が出ていったのを見てから、ミコは動画を初めからにして、一時停止する。




「……これで、左右反転させて壁に映せば、鏡の様に動くだけで再現できるわよね?よし。グシオン、りんりん達がいない今のうちにやるわよ!」


「ウキッ!」




 その後しばらくの間、そのホテルの一室では、のんびりとしたリズムの可愛らしい曲が流れていた。


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