第12話 一人ぼっち

 ミコとの練習試合の後、りんりんは仲間の三匹のプロモンと共に荒野フィールドに来ていた。




「わしわし、ちゃんとついてきてね」




 りんりんがわしわしに声をかけるが、わしわしは、フン、と鼻を鳴らして羽を広げて、日光浴を始めた。




「置いて行っちゃうよ。一人ぼっちになっちゃうよ」




 更にりんりんが声をかけるが、わしわしはやはり聞く耳を持たなかった。




「いつも通りだけど困るなあ。どうしよう」




 おやつを使えば動いてくれるだろう。だが、移動の対価としておやつを与えるようなことは、りんりんにとっては甘やかしに思えて許容しがたかった。




 また、おやつを与えて言うことを聞かせる関係というのは、裏を返せばおやつを与えなければ言うことを聞いて貰えない関係でもある。自分達がそのようなドライな関係になる事を受容出来ない気持ちが、おやつを与えることを躊躇わせていた。




「プロモンカードが使えたら、って思ったけど、仮に使えたとしても本質的な問題はそのままか」




 プロモンカードとは、仲間のプロモンをしまうことが出来るアイテムであり、街中でわしわしを移動させる時にはりんりんはこれを使っていた。




 しかし、フィールドではプロモンカードは使えなかった。プログラムモンスターには、一度にフィールドに連れていける仲間のプロモンは六匹までというルールがある。




 もしもフィールドでプロモンカードを使えたならば、仲間のプロモンが一匹倒されるごとに新しい仲間のプロモンを出すことで、このルールを実質的に無意味化することが出来る。それを防ぐためにフィールドではプロモンカードは使えないのだ。




 尤も、仮にプロモンカードがフィールドで使えたとしても、りんりんの悩みは根本的には変わらなかっただろう。




 わしわしが普通についてくる。それが理想であった。おやつを与えたり、プロモンカードに入れたりして移動するのではなく、ただ普通についてきて移動する。それが理想であった。




「仕方ない。置いていこう」




 こうなれば根比べである。わしわしがついてくるまで待つ。おやつにも何にも頼らない。りんりんが移動した先に来るのをひたすら待つのだ。




「行こう。いぬいぬ、うまうま」


「ワン」


「ブルル」




 幸いにもわしわしは元草原フィールドのヌシであるため、とても強い。仮にこの草原に出てくるプロモン達に襲われても、倒れる事はないだろう。その為、安心して置いて行ける。




「わしわし!私達はあっちの方に行くからね!」




 これも聞いていないとは思うが、一応伝えておく。伝えておかないと、わしわしがりんりん達に追いつこうとした時に迷ってしまう。




 日光浴をするわしわしを置いて、りんりんはいぬいぬとうまうまを連れて歩き出した。






「どうすればいいのだろうねえ」


「ワオーン」


「ブルル」




 りんりん達はわしわしから離れた場所で寝転がり、空を眺めていた。バーベキューで使用したプロモン避けの杭をすぐ傍に打っている為、野生のプロモンに襲われる心配はなかった。




「バーベキューをしたあの日が一番大人しかったような気がするよ」


「ブルル」


「でもあの日も、もっとご飯を食べたいという理由だけで私とコンロを巣に連れて帰ったんだよねぇ」


「クゥーン」


「なんとかもっと仲良くなって、言うことを聞いて欲しいなぁ」




 ごろりと寝返りをうってから、ふと、わしわしを置いてきてからどれくらい時間が経ったのかが気になり、りんりんはメニュー画面を開いた。




「意外ともう十分も経っているのか。あと一時間くらい待ってもわしわしが来なかったら、今日は諦めて街に帰ろうかな。って、あれ?」




 メニュー画面に映っている、わしわしのヒットポイントが少しづつ減っていた。




「お、ヒットポイントが九割を切った。でも、わしわしはこのくらいだとまだ、戦いをしないんだよね。羽繕いをしたり、日光浴をしたりしていて、戦闘なんて面倒くさいって顔をするの」




 わしわしのヒットポイントはまだまだ少しづつ減っていた。




「あ、ヒットポイントが七割を切った。多分そろそろわしわしが怒り出して反撃を始めるかな。ちょっかいを出してきたプロモンには申し訳ないけど、先に仕掛けたのはそっちだから倒しちゃっても許してね」




 わしわしのヒットポイントはまだまだ少しづつ減っていた。




「あれ?五割を切ったぞ?あ、そうか!この荒野フィールドのヌシに襲われているのか!普通の野生のプロモンの事しか考えていなかったよ!」




 わしわしのヒットポイントはまだまだ少しづつ減っていた。




「いや待て、それにしてはおかしい。ヒットポイントの減り方があまりにも小刻みすぎる。じゃあ何でこんなにヒットポイントが減っていっているんだ?」




 わしわしのヒットポイントはまだまだ少しづつ減っていた。




「あれ?というか、もしかして、わしわしが倒れちゃう?」




 わしわしのヒットポイントはまだまだ少しづつ減っていた。




「ちょ、ちょっと待って!何が起きているのか分からないけれどもちょっと待って!二人とも!起きて!うまうま、私を乗せて!わしわしの所に戻るよ!」


「ヒヒーン!」




 元気よく返事をするうまうまの背中にりんりんは飛び乗り、大急ぎでわしわしの元へと向かった。






「そろそろわしわしを置いていった場所につくけど、って、ええ!?」




 うまうまを全速力で走らせて、元の場所に戻ってきたりんりんは、目の前の予想外の光景に目を白黒させた。




 そこでは、わしわしが大きな網にからめとられていて、三人のプレイヤーと六匹のプロモンに囲まれて、攻撃をされていた。




「あら?戻ってきちゃったのね」


「仕方ないでやんすね。作戦変更でやんす」


「むしろ、あの時の借りを返せるから、ラッキーでごわす」




 三人のプレイヤーが振り返ってりんりんの方を向く。一人は初めて見る女性だったが、他の二人の男達の顔はりんりんは覚えていた。




「ボロドウ団!?」




 まだ野生だった頃のうまうまを狙って、りんりんといぬいぬに戦いを挑んできた二人がそこにいた。

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