第10話 わしわし
バーベキュー開始から四時間、ゲストが増えてから二時間半が経過した。山ほど用意した食材は全て無くなり、後は片付けをして街に帰るのみだった。
「たくさん食べたねぇ」
「そうねぇ。始めは、あんなに食べきれないでしょって思っていたけど、食べきっちゃたわね」
「この子が凄くたくさん食べてたからね」
「ピィー」
二時間半しかバーベキューに参加していなかったが、ワシ型プロモンが食べた量は他の二人と四匹よりも多かった。他の誰よりも、ではない。他の全員が食べた合計量よりも、である。
「予想を超える食いしん坊キャラだったわね」
「そうだねぇ。美味しかった?」
「ピィ!!」
「そうだよねー。いっぱい食べてたものねー」
よしよし、とりんりんはワシ型プロモンを撫でる。たっぷりふわふわの羽毛が気持ちいい。
「ワン?」
「そうだねぇ。そろそろ帰ろうか」
右手でワシ型プロモンを撫でながら、左手でいぬいぬを撫でる。こちらも負けないくらいふわふわだった。
「ピィ?」
「えっとね、バーベキューは終わりなの」
「ピィ?」
「私達、街に帰ってログアウトしなきゃいけないの」
ポカンとした顔をワシ型プロモンはしていた。分からなかったのかな?と思いりんりんが更に話そうとした時、りんりんの体が宙に浮いた。
「え?」
「ピィーー!!」
なんと、ワシ型プロモンがりんりんを捕まえて飛び上がっていた。
「う、うわあああ!!!た、たすけてえええ!!!」
「りんりん!!!」
「ワン!!!」
「ヒヒーン!!!」
ミコ達が気づいた時には、ワシ型プロモンはもう飛び去っていた。あっという間の出来事であった。
「うまうま、私とトゥムを乗せて!」
「ヒヒーン!」
「みんな!追うわよ!」
もはや後片付けどころではない。残されたミコ達はワシ型プロモンが飛んで行った先へと大急ぎで向かった。
「いた。身体が大きいからここからでも見えるわね」
「ワン」
「ブルル」
追いかけ始めてから数分。ワシ型プロモンはすぐに見つかった。木の上にある大きな巣の上にその姿が見える。りんりんも巣の中にいるのだろう。五十メートルほど離れた場所から、ミコ達は様子を伺っていた。
「一応、追いかけている間に方法は考えたけど、滅茶苦茶怒られるだろうしなぁ」
武力行使でどうにかなるとは思っていなかった。相手は草原フィールドのヌシである。プロモン避けの杭を使えば何か方法があったかもしれなかったが、急いで追いかけてきたためバーベキュー会場に置いてきてしまった。のこのこ出ていっても鎧袖一触にやられる未来が見えている。だが、この場合はそれでいいのではないかとミコは思っていた。
何故なら、”フィールドにいる間は仲間のプロモンを連れていなければならない”というルールがあるからである。あえていぬいぬとうまうまを倒させることでりんりんにそのルールを破らせ、街に転送させる。そうすればりんりんを巣から救出できる。
完璧な作戦である。問題は、いぬいぬとうまうまを一度倒させる必要があることだ。こんな作戦、提案しただけでもりんりんに怒られるだろう。
先にメッセージを送って謝っておくか?いや、何も言わなければばれないかもしれない。でももしばれたら滅茶苦茶怒られる。うーむどうしようか。
何か別の方法を、と思ったその時、ワシ型プロモンが動いた。大きな羽を広げて羽ばたき、ミコ達のすぐ近くまで飛んできて地面に降りた。
「うわっ!こっちに飛んできた!」
「ピィー!!」
「ええーい!こうなりゃ作戦通りいくわよ!って、あれ?りんりん?」
いぬいぬとうまうまに指示を出す直前、ワシ型プロモンがりんりんを掴んで連れてきたことにミコは気づいた。
「ただいま。近くに見えたからわしわしに運んでもらったの」
わしわし。たった四文字のその言葉が、ミコは強烈に引っかかった。
「ねぇ、わしわしってもしかして」
震える声でミコが尋ねる。答えは予想できている。だがその予想は信じ難いものであった。ゆえに真実を知りたい好奇心に駆られ、それを受け止める心の準備をするより先に、ミコは尋ねてしまった。
「この子だよ。さっきテイムして仲間になったの」
あっけらかんとりんりんは答えた。ミコはあまりの衝撃に絶叫にも近い奇声をあげた。
「落ち着いて。落ち着いて、ミコちゃん」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ!あなた何したか分かってるの!?」
「何って、テイムしただけだけど」
「そうだけど違う!重要な情報が抜けてる!」
ミコのテンションはおかしくなっていた。草原フィールドのヌシがテイムされてりんりんの仲間になった。草原フィールドのヌシが、である。その情報が彼女を狂わせていた。
「あのね!?わしわしって滅茶苦茶テイムが大変なプロモンなの!!」
「そうなの?」
「そう!!で!!それなのにあなたはテイムに成功した!!しかもダメージを与えてないのにテイムに成功したんでしょ!?」
「そうだね」
「本当信じられない!!何やったの!?ていうかあのあと何があったの!?」
「えっとねー、まず、巣に連れていかれたの」
「うん!それで!?」
「それで、どうしたの?って聞いたの」
「そうしたらどうなったの!?」
「わしわしがピィって鳴いて、私と一緒に持って行ったコンロを突っついたの」
「え?」
コンロ?え?コンロって言った?わしわし、コンロもあの時巣に持ち帰ろうとしたの?
突然の情報に混乱したが、今はその先を聞くべきだ。冷静にそう判断して、ミコはりんりんに続きを促した。
「ええっと、で、その後どうしたの?」
「それで私分かったの。わしわしはもっとご飯を食べたいんだなって!」
「は?」
「でも、私はもう食材を全部バーベキューに使っちゃったから、街で買って来ないとご飯食べられないよーって言ったの」
「そ、そう。それで?」
「早く買ってこい、って目で見られたね」
「う、うん。そっか。うん。それで?」
「でも、仲間ではないわしわしのお願いを聞く必要もないよね?」
「え?別に仲間のプロモンでもお願いを聞く必要ないわよね?」
「え?」
「え?」
一瞬、沈黙が場を支配したが、すぐに話は再開した。
「と、とにかく、そこで私は言ったの!今後もご飯が欲しいなら、私の仲間になること!って!」
「え、まさか」
「そしたらわしわしが頭下げて、早くテイムしろって感じになって」
「テイムしたら成功した?ってこと」
「うん。一回で成功した」
ミコは膝から崩れ落ちた。なんだかめまいと頭痛もした。
「ミコちゃん?大丈夫?」
「大丈夫。ところで、りんりん、最後に一つ聞いていい?」
「う、うん」
「この子、バーベキューであれだけ食べたのにまだ食べるつもりだったってこと?」
「そうみたい」
もう、ミコは笑うしかなかった。全てが信じられなかった。ヌシが仲間になったことも、そのヌシを弱らせずに一回でテイム出来たことも、その原因がヌシの底なしの食欲にあるというりんりんの考えも、どれも信じられなかった。
「ピィ」
わしわしは、笑い転げているミコを冷たく見下ろしていた。早くバーベキューの後片付けをして街に行こうぜ。そう言いたげな顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます