第8話 バーベキュー
「この辺で良いかな?」
「良いんじゃないかしら。他のプレイヤーもいないみたいだし」
「よーし、ここに杭を打つよー」
買い出しから帰ってから十分後。りんりんは草原フィールドの端でバーベキューの準備を始めた。野生のプロモンが入れなくなるバリアを周囲十メートルに張る、プロモン避けの杭を打ち、メニュー画面を開いた。
「コンロ出して、網出して、炭出して、食器出して、お肉出して、お野菜出して、海鮮系出して、お菓子出して、ジュース出してー」
ここはゲーム内。バーベキューで使う道具も食材も、メニュー内のインベントリに入れればほぼ無限に持ち運ぶことが出来る。購入してきたそれらをりんりんは片っ端から実体化させていた。
「随分買ったわね。いくら使ったの?」
「七十万ゴールドくらい?イベントで百万ゴールド手に入ったからパーッと使っちゃった」
「七十万!?あ、コンロとか高かったのね」
「コンロとか網は合わせて五万ゴールドくらいだったかな。食べ物も同じくらい」
「六十万どこに使ったのよ」
「これ」
そういってりんりんが六本のガラス瓶を実体化させる。桃色の液体が入ったその瓶を見て、ミコは驚いた。
「こ、これ、ソフトネクタルじゃない!?超絶美味しいって噂の!」
「そう!一本十万ゴールドの超高級ドリンク!これに六十万使ったの!」
「おおー!ソフトネクタルが六本も!って、ちょっと待って?」
ミコが周囲を見渡す。自分とりんりんで二人。いぬいぬ、グシオン、うまうま、トゥムで四匹。二足す四は六。
「ねぇ、あなたもしかしてプロモン達にも飲ませるつもり?」
「うん」
「私達二人だけで飲まない?」
「駄目だよ!いぬいぬ達も頑張ったんだから皆で飲まないと!」
勿体ない!とは思ったがミコはそれを口には出さなかった。プロモンに超高級品を飲ませる行為はゴールドをドブに捨てるようなものだと考えているし、超高級品でなくてもプロモンに食べ物を与えるのはプレイヤーの自己満足でしかないと考えているが、今回のバーベキューはりんりんに一任している。ならばりんりんに従ってバーベキューを楽しもう。どうせ私の財布は痛まないし。そう考えてミコはりんりんから瓶を受け取り、蓋を開けてグシオンとトゥムに一本ずつ手渡した。いぬいぬとうまうまの分はりんりんが飲み皿を二つ用意してそこに注がれていた。
「これ、スピーチ的なことってやった方が良い?」
「いらないから早く始めましょ」
「だよね。それじゃ」
「「乾杯!!」
軽く瓶を当てて、二人はソフトネクタルを飲み始める。プロモン達も待ってましたとばかりにぐびぐびと自分の分を飲み始めた。
「「美味しー!!」
コーラとフルーツジュースと乳酸菌飲料のいいとこどりをしたような味に、二人は舌鼓を打つ。これは十万ゴールドの価値はあるねー、と話しながらコンロで食材を焼き始めた。
開始から一時間。りんりん達はまだまだバーベキューを楽しんでいた。
「エビ焼けたよー」
りんりんの声に反応してトゥムが皿を持って近づいていく。はい、とりんりんが皿の上に焼きあがったばかりのエビを三つ乗せると、にゅるにゅると動いてプロモン達の輪に戻っていった。
「そういえば、トゥムってタコなのに陸上にずっといて大丈夫なの?干からびたりしない?」
「平気よ。本物のタコじゃなくてプロモンだから」
「良かった。するめになることはなさそうだね」
「それはイカでしょ」
「あっ、確かに」
アハハハハ!!と二人で笑う。焼かれた肉や野菜等を食べながら、たわいもない話を二人は楽しんでいた。プロモン達も何を伝えあっているのかは分からないが、輪になって楽しんでいた。
「するめイカはあるのに何でするめタコは無いんだろうね」
「美味しくないのかしらね?」
「さっき色々混ぜて作った、ソフトネクタルもどきみたいに?」
「あれは酷かったわね。本物が恋しいわ」
「もう一度飲みたいよねー。いぬいぬ達は一気飲みしてたけど、それも分かる美味しさだったものね」
「私達もあっという間に飲み干しちゃったからねー」
本当に美味しかったよねー、と二人が頷いたその時だった。
ドオォォォォン!!!
「「な、何!?」」
頭上から聞こえてきた轟音に驚き、二人は上を向く。そこには大きな鳥が旋回していた。
「あれ何?タカ?ワシ?」
「ワシよ。でもただのワシじゃない。草原フィールドのヌシよ」
「ピィー!!」
ワシ型プロモンがこちらを見下ろしながら空中で旋回を続けていた。どうやら先ほどの轟音はこのプロモンが、プロモン避けの杭のバリアに体当たりをして発生したらしい。
「ワン!!ワン!!」
「ウキー!!」
「ピィー!!」
いぬいぬとグシオンがワシ型プロモンと威嚇しあっていた。うまうまは怯えて震えていた。
「あわわ、どうしようこれ」
「どうしようって言われても、今の私達じゃ戦っても勝てないくらい強いし、杭の効果範囲内でおとなしくしていればそのうちどこかに去っていくと思うから、無視するしかないと思うわよ」
「今のトゥムみたいに?」
「そうね。トゥムみたいに。って、あの子よくこの状況でエビ食べてるわね」
他の三匹が威嚇したり怯えたりしている中、トゥムは我関せずといった動きでエビを食べていた。
「とにかく、グシオン。あれは放っておいて大丈夫だから落ち着いて」
「いぬいぬとうまうまも落ち着いてね」
二人が呼びかけると三匹は落ち着き、トゥムと共にまた元通りの輪になった。りんりんとミコも落ち着きを取り戻し、また元のように食べて話してのバーベキューに戻っていった。
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