第7話 大きく、強く

「いぬいぬ、と、うまうま、だよね?」


「ワン!」


「ヒヒーン!」




 元気に二匹が答える。角や翼が生えたりしたわけではない。いぬいぬは柴犬ぐらいの大きさからゴールデンレトリバーぐらいの大きさになり、うまうまも同じくらいの比率で大きくなっただけであった。それでも、りんりんには衝撃的だった。




「ウゴゴゴゴゴ」




 はっとしてりんりんは音のした方を見る。ゴーレムが二匹の方を見ていた。




「ワン!ワンワン!」


「ブルル!」




 視界の端に、いぬいぬが新しいスキルを覚えました、うまうまが新しいスキルを覚えました、と表示される。素早くそのスキルを確認して、二人の方を向いた。




 大きくなり、より勇ましくなったいぬいぬと、より美しくなったうまうまがこちらをちらりと見る。




 りんりんは二匹に頷くと、指示を出した。




「いぬいぬ、【オルトロスファング】!うまうま、【一万馬力】!」


「ワオーン!」


「ブルルル!」




 いぬいぬが素早くゴーレムの右腕に二回噛みつき、うまうまが胴体に強力な一撃を与える。




「き、効いてる!やった!攻撃が効いてる!!」




 どうやら二匹とも、大きくなったことで攻撃力が上がっていたらしい。更には新スキルの威力が高かったのだろう。ゴーレムに大ダメージを与えられていた。




「ウゴゴゴゴゴ」




 ゴーレムの目が赤く光る。初めて見る行動だが、りんりんは怖くなかった。




「二人とも、背中側に回り込んで!」


「ワン!」


「ヒヒーン!」




 素早く二匹がゴーレムの背後に回り込むと同時に、つい先ほどまで二匹がいた場所にゴーレムの目からビームが発射される。




 初見の攻撃ではあったが、りんりんの的確な指示により二匹とも回避に成功した。




「そのまま後ろからいぬいぬは【火炎の術】!うまうまは【突撃】!」




 二匹の攻撃がゴーレムの背中に当たる。ゴーレムは体勢を崩して地面に倒れた。




「トドメだ!いぬいぬ!【オルトロスファング】!うまうま!【一万馬力】!」


「ワオーン!!」


「ヒヒーン!!」




 大きく二匹が鳴いて、ゴーレムへと飛び込んでいく。体勢を崩していたゴーレムは避けることも防御することも出来ずに、二匹の攻撃をまともに喰らってしまう。




「ウゴゴゴゴゴ!!」




 それがゴーレムの断末魔だった。他のプロモンと同じく、ゴーレムも光となって消えていった。




「た、倒した、の?」


「ワン!」


「ヒヒーン!」


「や、やった!倒したんだ!それに二人とも生きてる!やったぁぁ!!」




 りんりんは二匹を呼んで撫でまわした。ミコとの競争を考えるとさっさとゴールすべきだが、それは後でもう一回やり直せばいいだけだ。今は何よりも、大きくなってゴーレムを倒した二人を褒めてあげたかった。何故あの時倒されずに大きくなったのか、全く想像はつかないが、どうでも良かった。




「ワンワン!」


「ヒヒーン!




 二匹が撫でまわされて笑顔になる。その笑顔はいつもより大きかった。






 翌日、いつものホテルの一室で、りんりんはミコとイベントのタイムを発表しあっていた。




「結果発表!私は最速で一分十九秒だったけど、ミコちゃんは?」


「一分八秒」


「うわぁ!負けた!しかも十秒以上も差がついてる!」




 バーベキューの用意はりんりんがすることに決まった。結構自信あったのになぁ、と呟くりんりんに、ミコが話を続ける。




「早い人は一分かからないみたいよ」


「ひえー。早すぎでしょそれ。どうやってるの?」


「どうって、エレブレドラ猿と皇帝散歩タコを連れてサクサク進むのよ」


「その、何とか猿とタコって何?」


「簡単に言うと、このイベントで強い二匹のプロモンとそのスキルよ。スキル、【エレメントブレイク】と【轟音ドラミング】を覚えている猿のことをエレブレドラ猿って略しているの。タコも似たような感じ」


「なるほど。だからミコちゃんはグシオンとその子を連れてイベントに参加したんだね」




 りんりんが指を差す先には一匹のタコ型プロモンがいた。名前はトゥム。ミコの仲間のプロモンであり、今はミコの右腕に絡みついていた。




「そういうこと。ゲーム内ランキングを見てきたけど、一分三十秒を切っているプレイヤーは全員猿とタコを連れていたわ。一人を除いてね」


「一人を除いて、って私の事?」


「ええ。どうしたのよ、いぬいぬとうまうま。なんか大きくなっているし」


「うーん、私もよく分からない。なんか光に包まれたと思ったら、その光が大きくなって、気づいたら大きくなって強くなってた」


「本当にどういうことなのよ」




 ゴーレム戦で大きくなった二匹の大きさは戻っていなかった。とはいえ特に問題は起きておらず、いつも通りいぬいぬはグシオンとじゃれあって、うまうまはりんりんのポニーテールの先を咥えていた。なので、りんりんは二匹が大きくなったことについて気にする必要はないと思っていた。




「光に包まれて大きくなるなんて現象、聞いたことないわよ。何かきっかけとかなかった?」




 しかし、ミコは違った。その現象について詳しく知りたかった。これが、ただ大きくなるだけならば大して気にならなかっただろう。だが、いぬいぬとうまうまは大きくなったことで強くなり、新しいスキルも覚えた。




 より強くなるために知りたい。そう思ったため、ミコはりんりんに尋ねたのだ。




「うーん、踏みつけられるときに、耐えて!!!って二人に願ったから、それかなぁ?」


「それでいぬいぬとうまうまが耐えようとして大きく強くなったと?」


「そう!二人が頑張ってくれて、それで大きく強く急成長したんだと思う!」




 そんな馬鹿げた話があるわけないだろう、とミコは思った。その理論だとプロモンは”頑張る”という”感情”を持っていることになるからだ。




「まあ、何でもいいよね!それじゃ、私、バーベキューの材料買ってくる!」


「あーうん。いってらっしゃい」




 りんりんがいぬいぬとうまうまを連れて部屋を出ていく。もう少し詳しくその時の状況について聞きたかったが、正直、何故二匹が急成長したのかの原因は話していても突き止められそうにない気がしたため、ミコも引き止めずに見送る。




「プロモン、急成長、で検索」




 同じような現象が他のプロモンの身にも起きていないか、ミコはインターネットに検索をかけてみた。だが、出てきたのはプロモンの高速レベリングについての記事やサイトばかりで、いぬいぬとうまうまの身に起きたような現象について書かれているものはどこにも見当たらなかった。

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