第5話  うまうま

「あ、危なかったぁ」

「ワオー」


 もう一度戦闘したとしても、ボロドウ団に勝てるとは思えなかった。それくらい彼我の実力差はあった。それでも今回勝てたのは、馬型プロモンが加勢してくれたおかげであった。


「私達が助けるつもりが、助けられちゃったね」

「ヒヒーン」

「さっき相手のプロモンが二人とも動けなくなったのってキミのおかげだよね?何のスキルだったのか分からないけど、ありがとね」

「ワン!」

「ヒヒーン」


 馬型プロモンがりんりんといぬいぬをぺろりと一回づつ舐める。まるで、こちらこそありがとう、と伝える様であった。


「もしかして、キミ一人でも勝てたのかな?あんなに強いスキルもあるし、鶏の方を一撃で倒していたし」

「ヒヒン」

「まあいいか。いぬいぬもお疲れ様、大変な戦いに巻き込んじゃってごめんね」

「ワン」


 中腰になっていぬいぬを撫でて労いながら、りんりんは馬型プロモンのことを考える。ひょっとしたらこのプロモンは昨日の自分のように、勝てる戦いであっても恐怖で逃げ出していたのではないか。それが何かきっかけがあって恐怖を克服し、戦えたのではないか。


「でもこれ、全部想像でしかないんだよね」

「ワン?」

「ああ、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」


 最後に激しくいぬいぬを撫でてからりんりんは立ち上がり、馬型プロモンの方を見る。


「ねえキミ、またボロドウ団に見つかってもちゃんとさっきみたいに戦える?」

「ヒヒーン!」

「良かったぁ。また見つかったら大変だって思ってたんだよ。でもそれなら心配ないね」


 元気な返事を聞いてりんりんは胸をなでおろす。もしこれで自信がなさそうに答えられたらどうしようかとは思っていたが、杞憂に終わった。


 ホッとしたところで改めて、馬型プロモンを見る。真っ白な毛並みに、すらりとした四本の足に、つぶらな瞳。しかも強いスキルが使える。


 テイムしたい!という思いが湧き出たが、ぐっと堪えた。ついさっきまでテイムされそうになって怯えていたプロモンにやることではないと思ったのだ。


 手を伸ばして顎の下を撫でると、馬型プロモンは気持ちよさそうな顔をした。この顔が見れただけで充分だ。


「それじゃあ、元気でね」


 別れの言葉を告げ、りんりんは街の方に向かって歩きだす。別れは惜しいけど仕方がない。他のプロモンをテイムしよう。そう考えたところで頭を後ろ向きに引っ張られた。


「え?」


 立ち止まって振り向くと、白馬型プロモンがりんりんの長いポニーテールの先を咥えていた。その目はじっとりんりんを見つめていた。


 何も言われなかったが、りんりんはこの白馬型プロモンがどうして欲しいのかすぐに分かった。


「良いの?」


 白馬型プロモンが頷いた。


「そっか。それじゃあ、これからよろしくね」


 手を伸ばす。今度は撫でるためではない。


「【テイム】」




「で、仲間になった、と」

「そうだよー。名前はうまうまに決めたんだ!」


 うまうまがりんりんの仲間になった次の日、いつものホテルの一室で、りんりんはミコと話していた。


「とりあえず、初テイムおめでとうと言っておくわ」

「ありがとう、ミコちゃん!」

「ところで、その、それ、邪魔だったりしないの?」


 ミコが指をさす。その先ではうまうまがりんりんのポニーテールの先を咥えていた。


「ああこれ?全然平気だよ。痛くもないし、私が動くときは一緒に動いてくれるし」

「そうなのね。それにしても、なんで咥えているのかしらね」

「現実の馬は噛むことで愛情表現をするって言われているし、きっと私が好きだから私の髪を噛んでるんだよ」


 たまにいぬいぬも噛まれているしね、と言ってりんりんはいぬいぬの方を向く。いぬいぬはボールのおもちゃを転がして、グシオンと遊んでいた。


「そういえば、テイムのコツを教えて欲しいんだっけ?」

「あ、そうそう!どうすればいいの!?」


 ミコの方に向き直ってりんりんが尋ねる。


「うーん、今の話を聞いた後だと話しにくいんだけど」

「けど?」

「簡単に言うとプロモンを攻撃したり状態異常にしたりして弱らせて、その後にテイムするのがコツよ」

「ええっ!?そんなことして仲間になってくれるの!?攻撃なんてしたら嫌われて失敗しない!?」

「大丈夫よ。力を見せつけて仲間にする。戦国時代とかこんな感じだったでしょ。負けた戦国武将が勝った戦国武将の仲間になるの。だから、うまうまのテイムの話を聞いて変に思ったのよ」

「何が?」

「あなたがうまうまをテイムした時、全くうまうまは弱ってなかったんでしょう?」

「そういえばそうだったね」

「でも一発で仲間になった。なーんか気になるのよねー」


 んー、と声を漏らしながらミコは腕を組んで悩む。


「うまうまが私の仲間になりたいって思ってくれて、それで上手くいったんだと思うんだけど」

「その可能性は考えたんだけど、それって変じゃない?」

「そう?」

「もしその通りだとしたら、プロモン、つまりプログラムが感情を持っているってことになるわよ?」

「確かに変かも。でもそれなら、今こうやって私の髪をうまうまが咥えているのは何で?」

「さっきあなたが言っていたけど、馬は噛むことで愛情表現するんでしょ?その行動がプログラムに組み込まれていて、プログラムが馬っぽく見せるように演算した結果、そうしているだけなんじゃない?」

「つまり、うまうまが私のことが好きだから嚙んでいるんじゃなくて、ただ単にゲームシステムがうまうまに馬っぽい行動をさせているだけで、噛まれた私がうまうまに好かれていると勝手に考えているってこと?」

「理解が早いわね。そういうことよ」

「そ、そんなことないよね?うまうまは私のこと好きだよね!?」

「ヒヒン」


 肯定するようにうまうまが鼻を擦りつけてきたのでりんりんはうまうまを撫でる。やっぱり感情を持っていて、うまうまは自分のことが好きなのだとりんりんは思った。しかしミコは、よく出来たプログラムだなという感想を抱いた。


 結局、なぜ弱っていないうまうまが一発でテイム出来たのかについての議論は結論が出ずに終わった。


 ミコはそれを偶然にテイムで低確率を引き当てた結果であると考え、りんりんは逆にうまうまの感情によって引き起こされた必然の結果だと考えた。


「ヒヒーン」


 感情があるのかないのか。うまうまは、りんりんに撫でられて幸せそうにしながら、相変わらずりんりんの髪を咥えていた。

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