第4話 vsボロドウ団

「……どちら様でしょうか」


 突然現れた怪しい二人組に、りんりんはそう問いかける。


「オデ達は泣く子も黙るボロドウ団でごわす」


 太った短躯の男がそう答えた。


「あっしらはボスの命令でその馬を捕まえようとしていたんでやんすよ」


 痩せたのっぽの男が続いてそう答えた。


 ちらりとりんりんが後ろを見ると、りんりんの陰に隠れようとしている白馬型プロモンが、二人を見て震えていることに気が付いた。


「あの、ボロドウ団のおじさん達」

「「まだお兄さんでごわす(やんす)」

「あっ、はい。ええと、お兄さん達」

「どうしたでやんすか?」

「この子、お兄さん達を見て怯えているみたいですし、他の子にしてはどうでしょうか?」

「それは出来ないでごわすね。ボスはそのプロモンをとても欲しがっているでごわすから」

「そうでやんす。ここまで美しいプロモンは、滅多に見つからないでやんすからね」


 もう一度りんりんがちらりと後ろを見ると、やはり白馬型プロモンは震えていた。


「そういうわけでお嬢ちゃん、あっしらにその馬をテイムさせてくれないでやんすか?」

「ごめんなさい。嫌です」

「そんなこと言わないで欲しいでごわす。オデ達にはそのプロモンが必要なのでごわすよ」

「そうだ!渡してくれたら、100万ゴールドあげるでやんすよ。どうでやんす?」

「それでもごめんなさい。この子が可哀そうなのでやっぱり嫌です」


 りんりんの言葉にボロドウ団の二人は困惑し、顔を見合わせた。


「可哀そうって言っても、お嬢ちゃん、そいつはプロモンでやんすよ?」

「そうでごわす。可哀そうとか何とか言っていたら、オデ達プレイヤーはまともに遊べないでごわすよ」

「それに、その馬はお嬢ちゃんのプロモンというわけではないでやんすよね?」

「それでも、やっぱりごめんなさい」


 ボロドウ団の二人の言っていることは正しい。けれどもりんりんは、このプロモンを二人に引き渡したくなかった。


「この子が、怖がっているみたいなので」


 そうりんりんが言うと、ボロドウ団の二人はうーんと唸ってまた顔を見合わせた。これで諦めてくれないかな。りんりんはそう思った。


「しかたないでやんすねぇ」

「!」


 良かった。諦めてくれた。そう思ったりんりんであったが、その期待は裏切られた。


「こうなったら力づくで奪うしかなさそうでやんす」

「そうでごわすな。いくでごわす!スモウトリ!」

「ガリガリス、いくでやんす!」

「コケーッ!」

「ジュー!」


 ボロドウ団の二人の後ろから鶏型のプロモンと、リス型のプロモンが飛び出してくる。力づくで奪う、

 と言われたが、奪わせるつもりはりんりんにはなかった。


「いぬいぬ!準備はいい!?」

「ワン!」

「よし!いくよ!」




「スモウトリ、【突撃】でごわす!」

「コケーッ!」

「いぬいぬ!避けて!」

「ワン!」


 りんりんの指示に合わせていぬいぬはひらりとスモウトリの攻撃を避ける。だが、


「ガリガリス!【ビーストファング】でやんす!」

「ジュー!」


 その隙を見逃さずに飛び込んできたガリガリスの攻撃までは避けきれなかった。


「お嬢ちゃん、そろそろ降参した方が良いと思うでやんすよ」

「そうでごわす。二対一でオデ達に勝とうとするなんて無理でごわす」


 戦闘は少しづつボロドウ団が押していた。戦闘経験が乏しいりんりんといぬいぬに、二対一の戦闘は厳しすぎた。一対一ならまだ戦えたかもしれなかったが、今は完全にボロドウ団のチームワークに翻弄されていた。


 このままじゃ負ける、とりんりんは思った。緊張で汗をかく。思わず力が入り、手がグーの形になる。負けるわけにはいかない。でもどうすればー。


 悩むりんりんのうなじに温かい息がかかる。振り向くと、白馬型プロモンがりんりんを見ていた。その体はまだ少し震えていた。


「ブルル……?」


 不安そうに白馬型プロモンが鳴く。


「心配しないで」


 正直、勝つビジョンは思いつかない。それでも、降参の選択肢はなかった。


「絶対守るから」


 りんりんはそう呟きながら戦場の方を振り返った。


「……」


 白馬型プロモンはりんりんの後ろ姿を黙って見ていた。その体から震えはいつの間にか消えていた。


「ガリガリス!【ビーストファング】でやんす!」

「スモウトリ!【突撃】でごわす!」

「いぬいぬ!避けて!」


 二匹に挟まれたいぬいぬに指示を飛ばす。しかし左右からの同時攻撃に対処しきれず、ガリガリスの攻

 撃は躱せたものの、スモウトリの攻撃を喰らってしまう。


「とどめでやんす!ガリガリス、【テールハンマー】でやんす!」

「スモウトリ、【乱れくちばし】でごわす!」


 スモウトリの攻撃を喰らったばかりのいぬいぬは体勢を崩していた。とても攻撃を躱せるような状態ではない。


「お願い!なんとか避けて!」


 りんりんがそう願うが、いぬいぬはまだ立ち上がれない。ボロドウ団の二人が勝ちを確信し、笑みを浮かべたその時だった。



「ヒヒィィーン!!!!」



 その声はりんりんのすぐ後ろから聞こえた。その鳴き声のあまりの大きさにりんりんは驚いたが、さらに驚くべきことが目の前で起きていた。


「えっ!?えっ!?相手のプロモンが二匹とも動けなくなってる!?」


 いったいどうして、と思ったが今はそれどころではない。こんな絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。


「いぬいぬ!リスの方に【ビーストファング】!!」

「ワオーン!!」


 体勢を持ち直したいぬいぬの攻撃が直撃し、ガリガリスが光となって消えていく。


「そのまま鶏の方にもー」


 追撃の指示を出そうとしてまた驚いた。いつの間にか白馬型プロモンが前に出て、前足でスモウトリを踏みつけて倒していたからだ。当然、スモウトリも光となって消えていった。


「そ、そんな!これは何かの間違いでごわす!」

「ここまで追い詰めたのに!こんなことありえないでやんす!」


 ボロドウ団の二人も光となって消えていく。プログラムモンスターの世界ではプレイヤーはフィールドにいるとき、必ずプロモンを連れていなければならない。ガリガリスとスモウトリ以外にプロモンを連れていなかった二人は街に転送されたのだ。


 後に残されたのは、りんりん一人と、いぬいぬと白馬型プロモンの二匹だけだった。

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