第3話  プロモンが指示を無視した?

 猪型プロモンとの戦闘から一日。いぬいぬと、いぬいぬによく似た少し小さなぬいぐるみの会話をりんりんはホテルの一室で眺めていた。


「あーーカワイイーー」


 いぬいぬが鳴き、ぬいぐるみがそれを真似する。ただそれだけなのにどうしてこんなに可愛いのか。


「ワオーン」

「ワオーン」

「ワンワン」

「ワンワン」

「ワンッワンッ」

「ワンッワンッ」


 ああ、可愛い。とにかく可愛い。あの時フィールドに出る判断をして良かったとりんりんは心の底から思っていた。


「りんりん?おーい、りんりん?聞いてる?」

「え?ああ、ごめん。なんだっけ、ミコちゃん」

「さっきの言ってた話だけど、本当にいぬいぬが宝箱を守るように吠えていたの?」

「本当だよ!いぬいぬは勇敢だよねー!」

「いや、勇敢っていうか、私が気になるのは」


 りんりんと一緒に、いぬいぬから少し離れたところで見守るミコがりんりんに尋ねる。


「逃げるよ!って指示したんだよね?」

「うん。でも大丈夫っていぬいぬはこっちを見てきたの」

「……そう。それは確かに勇敢ね」

「でしょー!」


 やがておしゃべり?も飽きたのか、いぬいぬはミコのグシオンと遊び始める。その様子を見てかわいいかわいいとはしゃぐりんりんを横目にミコは考える。



 ――プロモンが指示を無視した?



 いぬいぬはりんりんの仲間のプロモンだ。それは間違いない。ならば、逃げるよ!と指示した時にいぬいぬはその指示に従って一緒に逃げ出すはずなのだ。だが、いぬいぬは宝箱を守るように吠えていたらしい。


 その前も気になる。いぬいぬは何も指示を受けていないのに宝箱を掘るのを手伝ったというのだ。


 いぬいぬが自分で考えて動いた?プログラムが自分で?


 ……いや、冷静に考えてみれば、自分の仲間のグシオンや他のプロモン達も、特に指示せずとも歩いたりしている。そうだ。プロモンは自分で考えて動くことが出来る。むしろそうでないといちいち指示を出す必要があって、大変だ。指示を無視したのもきっといぬいぬが自分で考えて、その結果無視したんだろう。


 そこまで考えて、ふとミコは恐ろしいことを考えてしまった。


「……」

「ミコちゃん?おーいミコちゃん、聞いてる?」

「ん?ああ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた」

「二人とも可愛いからねー。みとれちゃうよねー」

「……そうね。それで、何の話してたの?」

「あのね、私、これから仲間を増やそうと思うの!」

「おお!いいじゃない!」

「だからさ、ミコちゃんも一緒に草原フィールドに来てくれない?」

「あーごめん、あと5分でログアウトしないといけないから」

「そっかあ。じゃあ私といぬいぬだけで行ってくるね!」

「いってらっしゃい」


 ぬいぐるみを片付けて、りんりんといぬいぬは部屋を出る。残されたミコは、同じく残されたグシオンの方を見る。


「……」

「ウキッ?」

「……まさかね」


 プロモン達プログラムが自分で考える。そこまではまだいい。だが、プレイヤー、言い換えれば人間の指示を無視する。それはまるで、昔読んだ小説に出てきた人類に反逆するAIのようだとミコは思ったのだ。その小説では最後、人類はAI達に滅ぼされてしまう。


「ウキー?」

「なんでもないわ。ちょっと考えすぎただけ」


 そう。考えすぎだ。きっといぬいぬの件も、偶然いぬいぬが指示を聞き逃しただけに違いない。




「こんにちは。テイムしてもいいですか?」

「ワン?」

「チュー?」


 草原フィールドに出たりんりんといぬいぬはテイムを繰り返していた。テイムとはこのゲームで仲間を増やす方法であり、プレイヤーが手をプロモンに近づけて【テイム】と唱えると確率でそのプロモンを仲間に出来る。そして今、りんりんは目の前にいるネズミ型プロモンにテイムしようとしていた。


「いきますよー。【テイ」

「チュー」

「あ、待って、逃げないで、ああー」


 ネズミ型プロモンが逃げていくのをりんりんといぬいぬは見ていることしか出来なかった。テイムしようとしたプロモンに逃げられるのはこれでもう六回目である。


「はぁ。なかなかうまくいかないね」

「クゥーン」


 これまで、テイムの前に逃げられたり、テイムしても失敗したりで一匹も仲間になっていない。


 どうやってミコちゃんは三十匹以上テイムしたのだろうか。明日コツを聞こう。そう思ったその時、その声は聞こえた。



「ヒヒーン!!」



 何気なくその声がした方を見て、りんりんはほぅと声を漏らした。なぜなら目を見張るほど美しい白馬型プロモンが走っていたからだ。


「綺麗……」


 その白馬型プロモンを目で追っていると、白馬型プロモンもこちらに気づいたらしく、りんりんの方へと走ってきた。


「ヒヒーン!」

「え?ええっと?どうしたの?」

「ヒヒーン!」


 りんりんに近づいた白馬型プロモンは、何かに怯えており、りんりんの背中に隠れようとしていた。


 いったい何故――りんりんがそう思った時、


「やっとおいついたでごわす」

「お嬢ちゃん、悪いことは言わないでやんす。その馬をよこすでやんす」


 太った短躯の男と痩せたのっぽの男の怪しい二人組がやってきて、りんりんに声をかけた。

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