第2話 vsイノシシ型プロモン
こそこそ。さささっ。こそこそ。さささっ。
草原のフィールドを慎重に進む一人と一匹の影があった。
りんりんといぬいぬである。
「ええっと、ここが宝箱が埋まっているところみたいだね」
「ワン」
フィールドに出て数分、りんりんといぬいぬは宝の地図に示された場所にたどり着いた。慎重に進んだおかげで、ここまで一度も野生のプロモンや他のプレイヤーに見つかったり、襲われたりしなかった。
さっさと掘ってさっさと帰ろう。そう決めていたりんりんはスコップを取り出し、宝箱を掘り出し始めた。
「ワン!ワンワン!」
「あ、手伝ってくれるの?ありがとう!」
いぬいぬが足を使って宝箱を掘るのを手伝ってくれたおかげであっというまに掘る作業は進んだ。宝箱の頭が見え、あと少しで宝箱を取り出せる。そこまで掘る作業が進んだ時にソイツは現れた。
「ブヒュー」
声が聞こえ、顔を上げたりんりんは見つけてしまった。こちらを睨みながらイノシシ型プロモンが近づいてきている。距離はもう十メートルもないだろう。いぬいぬも気づいたようで、掘るのをやめてイノシシ型プロモンのほうを見ていた。
「ブヒュー」
「ひっ」
怖い。また追いかけまわされるのではないか。あの鋭い牙で突き刺されるのではないか。怖い。
「逃げるよ!いぬいぬ!」
いぬいぬに指示を出してりんりんは逃げ出した。が、
「いぬいぬ……?」
「ワン!ワン!」
「危ないよ!怪我しちゃうよ!」
いぬいぬは逃げていなかった。宝箱を掘り出すために掘った穴の傍でイノシシ型プロモンに向かって吠え続けていた。
「いぬいぬ!宝箱はまた後で取りに戻ろう!だから――」
今は逃げよう。そう言うつもりだった。だが一瞬ちらりとこちらを向いたいぬいぬの瞳に、大丈夫、と映っていた気がした。
「ワン!ワン!」
吠えながらいぬいぬがまたこちらを向く。その瞳を見てー
「いぬいぬ、やっぱり逃げるのやめ!戦うよ!」
「ワオーン!!」
じりじりとイノシシ型プロモンが近づいてくる。
「ブヒュー」
「ワン!」
距離はあとせいぜい5メートルあるかないか。とても近い。怖い。けどもう逃げない。一週間逃げ続けて、フィールドに出なかった。そして今、イノシシ型プロモンに狙われている。でも逃げない!
「すーーーーっはーーーーっ」
大きく深呼吸をして、ミコが言っていたことを思い出す。プロモン同士が戦う時は、プロモンに指示をして戦わせる、と。そして、プロモン達は強力な技、【スキル】を持っている、と。
「いぬいぬ!先手必勝!【ビーストファング】!」
「ワオーン!!」
いぬいぬが素早く駆けてイノシシ型プロモンに飛び掛かって噛みつく。
「ブヒー!!」
「いいよ!いぬいぬ!!」
「ワン!」
「ブ、ブヒィィー!!」
だがイノシシ型プロモンもおとなしくはしてくれなかった。いぬいぬを振り払うと鋭い牙でいぬいぬを突き飛ばした。
「いぬいぬ!!痛くなかった?大丈夫?」
「ワン!」
「よ、良かったぁ」
見たところ、いぬいぬの体に傷はない。イノシシ型プロモンの方にも傷はない。戦っても特にいぬいぬが怪我はしないことに安心するが、すぐに気を引き締める。これはゲームであり、いぬいぬはプロモン。見た目に怪我がなくてもヒットポイントは減っているし、ヒットポイントがなくなれば光になって消えてしまう。
りんりんの仲間のいぬいぬはヒットポイントがなくなっても街で復活出来る。だが野生のプロモンは復活しない。代わりの同種のプロモン個体がフィールドに現れるだけだ。今目の前にいるイノシシ型プロモンも、倒せば復活しない。
倒してしまうのは可哀そうーその思いを首を振ってりんりんは断ち切る。今、目の前の敵を倒さなければいぬいぬがもっと攻撃されてしまう。それはなにより避けたい。
「ブヒュー」
「ワオーン」
二匹はにらみ合って動かない。お互いを威嚇しあって距離を保っている。その硬直状態を終わらせたのはりんりんだった。
「いぬいぬ!」
「!」
「もう一回【ビーストファング】!!」
「ワオーン!!!」
ひと際大きく吠えていぬいぬがイノシシ型プロモンに飛び掛かる。イノシシ型プロモンも避けようとしたが、間に合わない。
「ブヒュー!!!」
イノシシ型プロモンが光となって消えていく。
「勝った、の?」
「ワン!」
「勝った!勝ったんだ!やったぁぁ!!」
「ワン!ワンワン!!」
「よくやったよー!いぬいぬ!」
「ワン!」
たっぷりといぬいぬを撫でまわす。今までで一番撫でられていぬいぬもしっぽをぶんぶんと振って嬉しそうにしていた。
「あ、そうだ!宝箱!」
たっぷりといぬいぬを撫でた後、りんりんは宝箱の事を思い出した。再度いぬいぬと協力して宝箱を掘り出し、開けてみると、中には一枚のチケットが入っていた。
「ふふふっ、いぬいぬ」
「ワン」
「帰ろう!それで、このチケット使おう!」
「ワン!」
りんりんといぬいぬは街に向かって走り出した。行きとは違って堂々とした足取りだった。
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