プログラムモンスター~プログラムは生きていますか?~
黒子明暦
第1話 だって怖かったんだもん
「助けてぇー!!」
金髪のポニーテールを揺らして走りながらそう叫ぶ少女の後ろにはイノシシが迫っていた。
あと3メートル、2メートル、1メートルとちょっとづつその距離は近づいていく。
――追いつかれる!
金髪の少女がそう思ったその時だった。
「グシオン!【爪の襲撃】!」
「ウキー!」
ザシュッ!っと音を立てて1匹の猿がイノシシを爪で切り裂いた。
「うわーん!誰かー!」
「落ち着いて、りんりん。アイツは倒したから」
「え? あ、本当だ。た、助かったぁ。ありがとうミコちゃん。グシオンもありがとう」
金髪の少女――りんりんが後ろを振り返るとそこにはイノシシが光となって消失するところだった。
安心してその場に座り込むりんりんに、銀髪のショートカットの少女――ミコと、グシオンと呼ばれた猿、そして1匹の犬が近づいていく。
「ワン?」
「あ、いぬいぬ!大丈夫だよ、怪我してないよ!」
「ワン!」
「心配してくれてありがとねー。いぬいぬ」
「はぁ、突然逃げ出したのだからびっくりしたわよ。回り込んで追いついたから良いものの、普通、ああいう時はあなたはいぬいぬに指示を出して戦うのよ」
「だって怖かったんだもん」
「別に怪我はしないのだから落ち着いて構えていれば良いのよ」
「でもいぬいぬやグシオンはヒットポイントが減るのでしょ?」
「それは回復させればいいから、逃げなくて良いのよ」
ぺろぺろと頬を舐めてくるいぬいぬを撫でながら、りんりんはミコの話を聞く。
ここはvrmmoゲーム、”プログラムモンスター”の世界。青い空も涼しい風も広がる草原も、さっき光となって消えたイノシシもグシオンもいぬいぬもプログラムの産物である。そして、プレイヤーであるりんりんとミコの体、つまりアバターはプログラムによって保護されているため、怪我はしない。ミコはりんりんにそう説明するが、
「ねぇミコちゃん」
「何?」
「街に戻らない?」
やっぱり怖いものは怖い。そう思ったりんりんは街に戻ろうと提案した。
「えぇ?まだ今の1匹しか戦ってないわよ?」
「でもやっぱり怖いよ。私達はともかく、いぬいぬとグシオンは怪我するんだし。ね?二人とも?」
「ワン」
「ウキー」
「ほら、二人もこう言ってるし」
「……まぁいいか。無理してまで戦う必要はないし。それじゃ、街に戻りましょ」
「わーい!」
「で、あれから1週間経ったんだけど、あなた、あれからフィールドに一回も出てないの?」
「うん」
「ええー、ちょっとはフィールドに出てプロモンと戦ったりテイムしたりしなさいよ。私なんてもう30匹以上テイムしてきたわよ」
「だって怖いんだもん」
イノシシのプログラムに追いかけられてから一週間、りんりんは一度もフィールドに出ず、街に引きこもっていた。今も街中のホテルの一室で、グシオンとじゃれあっているいぬいぬを眺めながらミコと話している。理由は単純で、プロモン――動物型プログラム――にまた襲われるのが怖かったからだ。
最悪、自分だけならば怪我もしないしフィールドに出てもいいかもしれない。だがこのゲームには”フィールドにいる間は仲間のプロモンを連れていなければならない”というルールがあり、どうしてもりんりんの仲間であるいぬいぬを危険にさらすことになる。
「ウキャッ、ウキャッ」
「ワンワン!」
「見てよ、あのいぬいぬの楽しそうな顔。あんなにかわいい子を危ない目に遭わせるの?」
「草原のフィールドなら野生のプロモンたちも弱いし大丈夫よ。ところで、今日から始まったイベントどうするの?」
「何それ?」
「運営からメールで貰ったでしょ、宝の地図とスコップ。フィールドに出て地図の場所を掘ったら、自分の仲間のプロモンそっくりのぬいぐるみと交換できるチケットが入った宝箱が見つかるのよ。」
「そうなの!?」
「しかもそのぬいぐるみ、暗いところで光るし、話しかけると言葉を真似するのよ」
「凄い!ねえミコちゃん、私の代わりに取ってきてくれない?」
「残念ながら、その宝箱は宝の地図の持ち主しか見つけられないの」
「うっ、じ、じゃあ代わりに何かするからミコちゃんの分のチケットを」
「チケットもぬいぐるみも他のプレイヤーに渡せないのよ。つまり、自分で取りに行くしかないわ」
「そ、そんなぁ」
欲しい。凄くそのぬいぐるみが欲しい。けどそのためにはフィールドに出なければいけない。どうしよう。少し考えて、良い作戦を閃いたりんりんはミコの方を向いた。
「ねえミコちゃん」
「言っとくけど、私は手伝わないわよ」
「え」
作戦が崩壊する音がした。
「それじゃ、私は出かけるから。グシオン、行くわよ」
「ウキー」
部屋から出ていくミコとグシオンを見送り、りんりんは茫然とした。
ミコとミコの仲間のグシオンやその他のプロモンに協力してもらって宝箱を掘りに行く作戦だったのだが、これではどうしようもない。
でもそのぬいぐるみは欲しい。凄く欲しい。いぬいぬと並べて写真を撮ったり、いぬいぬとそのぬいぐるみが話しているところを眺めたりしてみたい。
「クゥーン?」
「う、うーん」
「クゥン?」
遊び相手がいなくなり、近づいてきたいぬいぬを撫でながらりんりんは考える。フィールドに出るのは怖い。でもぬいぐるみは欲しい。でも怖い。でも欲しい。しばらく悩んで、りんりんは結論を出した。
「ねえ、いぬいぬ」
「ワン」
「ちょっとだけ付き合ってくれない?」
「ワン!」
怖いけど、やっぱりそれ以上に欲しい。さっと行ってさっと掘ってさっと帰ってこよう。もしもプロモンに襲われたらすぐに逃げよう。そう決めてりんりんはいぬいぬと共に部屋を出た。
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