第7話
こんな奴を助けるのは癪だが、億万兆舎のやり方は気に入らない。
仕方なく助け舟をだしてやろうと思った矢先。
「ダメだよ、瑠々ちゃん!」
親友を自称するだけの事はあり、伏木が先に声をかけた。
凛とした声は聖女の放つ浄化の呪文のように、億万兆舎の放つ悪しき金の支配力を打ち消した。
「な、奈子ぉ……」
やっぱりあんたはあたしの親友ね。
尊敬と感謝の入り混じった羨望の眼差しが縋るように伏木に絡みつく。
「折角セレブちゃんがくれるって言ってるんだから、貰っとかなきゃ!」
「おい伏木!? そこは止める所だろ!?」
「セレブちゃんがいいなら良くないですか? セレブちゃんはお金持ちアピール出来て気持ち良くなれる、瑠々ちゃんはお小遣いが入ってラッキー! そのお金で瑠々ちゃんがお買い物をすれば地域の経済も潤ってトリプルハッピーです!」
「それはそうかもしれないが……。いいのか、それで?」
「奈子が良いって言ってるんだから良いに決まってるでしょ! このお金で奈子と一緒に遊びに行けばあたしも罪悪感を感じずに済むし! 山本も、土下座してあたしの靴を舐めるなら千円くらいならあげてもいいわよ?」
「言ったよな。次間違えたら二度と口利かないって」
「え、嘘、ちょ、冗談よね?」
プイっとそっぽを向いてシカトする。
「わ、わかった、わかったわよ! さ、さ、さ……佐藤ぉ! ほら呼んだ! ちゃんと呼んだ! ねぇ、ねぇえええええええ!? ごめんなさい! もう間違えないから! 無視しないでえええええ!」
半泣きになった頼羽が縋りつき、ガクガクと俺の身体を揺する。
「えぇい鬱陶しい! 泣くくらいなら最初からちゃんと呼べ!」
「だから言ったでしょ!? 男子と話すのは苦手なの!? 恥ずかしくって照れちゃうのよ!?」
「知るか!」
「皆様~? わたくしの事も無視しないで欲しいのですけど!」
両手をメガホンにして億万兆舎が叫ぶ。
正直完全に忘れていた。
「そうだった! 残念だったわね成金女! 奈子のお陰で目が覚めたわ! あんたに平伏したりなんかしないけど、このお金はありがたく貰っておくわ! ざまー味噌漬けたくわんポリポリよ!」
得意気に頼羽は言うが……。
目が曇ったの間違いじゃないのか?
「お~っほっほ! 別に構いませんわ! 一万円なんてわたくしにとってははした金! 痛くも痒くもありません! むしろ貰って頂けて嬉しいくらいですわ!」
「そんな事言ってお前、いくら金持ちだからってお金を大事にしないといつか痛い目を見るぞ……」
呆れて俺は言うのだが。
「まぁまぁまぁ! これだからド庶民の方は、なにもわかってませんわね」
億万兆舎が逆に呆れる。
「いちいちムカつく奴ね! 負け惜しみ言っちゃって! 佐藤の言う通りでしょ!」
「あなた、本当に奈子さんのライバルですの? 彼女の言った事をぜ~んぜん理解していないじゃない! お金持ちがお金を大事にしてどうするんですの! そんなの宝の持ち腐れ! わたくしのようなお金持ちはじゃんじゃん無駄金をばら撒いて、庶民の皆様にお金を還元するのが役目なんですのよ! 違いまして?」
「うぐぐぐ……。ねぇ、佐藤! なんか言い返してよ!?」
「……悔しいが、正論すぎて何も言えん……」
どうやら俺はこのバカを見誤っていたらしい。
バカはバカでも、自分の立場を弁えたバカだ。
大した奴だ。
「お~ほっほっほ! 論破論破ぁ! クソ雑魚庶民を負かすのは最高に気持ちい~ですわ!」
訂正、大した糞だ。
頼羽のカスが可愛く見えるレベルだろ。
マジでこの学校には碌な女が以下略。
「そういうわけですから、手作りお弁当勝負とやら、わたくしも一枚噛ませて頂きますわ! 日取りは三日後、場所は体育館を貸し切ってド派手に行いましょう!」
「ちょ、なに勝手な事言ってんのよ! あたしと奈子は佐藤の事取り合って勝負してるの! あんたは関係ないでしょうが!?」
「でしたらわたくしもその佐藤とやらを取り合いますわ! それなら文句はないでしょう?」
「いや、大ありだが……」
伏木と頼羽だけでも十二分に持て余していると言うのに、その上億万兆舎とかマジで勘弁してくれ。こいつが参戦したら面倒事のスケールがぶっ飛ぶぞ!?
「私はいいと思うなぁ。佐藤君はまだフリーだし、セレブちゃんにだって好きになる権利はあるんだもん!」
「ちょ、奈子ぉ!?」
「そういう問題じゃないだろ!? そもそもこいつは目立ちたいだけで、俺の事を好きでもなんでもないんだぞ!?」
それどころか、俺が誰か認識しているのかも怪しい所だ。
「それなら余計に除け者にしちゃ可哀想だと思うんです。セレブちゃんはただ、私達と一緒に遊びたいだけだと思うので。だよね?」
「ですわぁ~! 流石は奈子さん、わたくしの認めたご友人! 学校一のおもしれー女ですわ!」
嬉しそうに億万兆舎がはしゃぎだす。
こうなるともう駄目だ。
外野も全員向こうの味方に付き、どうあがいてもひっくり返せる気がしない。
ダメ押しに。
「それとも瑠々さん、わたくしに負けるのが怖いのかしら? わたくしとしては、先程無様に論破された事に対する、リベンジの機会をさし上げたつもりなのですけど?」
「はぁぁぁぁああああああああ!? 奈子にならともかく、だぁああああれがあんたなんかに負けるもんですか! ぎったんぎったんのバッコンバッコンにやっつけて吠え面かかせてやるわよ!」
「お~っほっほ! そうこなくては面白くありませんわ! それではごきげんよう。三日後の勝負を楽しみにしてましてよ~! お~っほっほっほ!」
紙吹雪を散らす付き人学生に先導され、お騒がせ女が去っていく。
「せめてこの紙吹雪はどうにかしてくれ……」
俺に出来るのは、精々そんな負け惜しみを吐く事だけだ。
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