第6話
「というわけなので瑠々ちゃん! 早速だけど手作りお弁当で勝負しようよ!」
「おいまだ続くのかこの話!?」
キリも良かったし、前回でいったん区切るかと思ったんだが。
いい加減俺に飯を食わせてくれ……。
「食べてていいですよ?」
「落ち着かねぇよ!」
まぁ食べるけどさ……。
読心術に突っ込むのはもう疲れた。
「大体なんなんだよ、手作りお弁当で勝負って……」
「折角瑠々ちゃんが恋敵になってくれたので! 瑠々ちゃん勝負事大好きですし。私としても自然な流れで佐藤君とお昼をご一緒出来ますから。一石三鳥です!」
「いや、なに一つ自然じゃない上に俺も得するみたいな言い方はやめて欲しいんだが……」
教室の外まで野次馬でいっぱいになってるし。
騒がしいにも程があるぞ!?
「はぁ? 学校で一、二を争う美少女のあたし達と一緒にお昼を食べられるだけでもありがたいってのに、その上手作りのお弁当まで用意して貰えるのよ? 完全に得しかないでしょうが!」
まともな奴が相手ならともかく、お前らみたいなトンチキヒロインと一緒じゃ疲れるだけだ。
俺としては断固辞退したいのだが。
「そうだそうだ!」
「モブ男の癖に羨ましいぞ!」
「せめて見世物になって俺達を楽しませろ!」
外野がそれを許してくれそうにない。
伏木は学校一の美少女にして人気者のマドンナ様だし、頼羽だって美少女である事には違いない。
対する俺は冴えないモブ男だ。
外野がどっちの味方をするかなんて分かり切っている。
どうせ伏木の事だから、そこまで折り込み済みで料理勝負を提案したに違いない。
なんて狡猾な女だ!
頼むからもっとマシな事に頭を使ってくれよ!
「どいつもこいつも勝手な事を言いやがって……」
俺に出来る事と言えば、これ以上事態が拗れない事を祈りながら、誰の耳にも届かないボヤきを入れる事くらいなのだが……。
「お~っほっほっほ! あなた達、面白い事をやっていますわね! その勝負、わたくしも混ぜて下さいましぃ!」
……この世には、神も仏もいないのか?
図らずも5、7、5になってしまったが。
高笑いと共に野次馬共の群れが左右に割れ、金髪縦ロールの絵に描いたようなお嬢様系美少女が『セレブ』と書かれた悪趣味な扇子をヒラヒラさせながら俺達の前にやってきた。
「げ、セレブ……」
「やっほーセレブちゃん。来るんじゃないかと思ってたよ!」
「まぁ、来るよな……。この目立ちたがり屋は……」
伏木でなくともこの展開はなんとなく読めていた。
この女は、そういう奴なのだ……。
「わたくしの事をご存じない? ならば教えて差し上げましょう! わたくしの名は
億万兆舎が扇子を振り上げると、金で雇われた付き人学生が紙吹雪を撒き散らす。
っておい! やめろ! 弁当に入っただろ!?
「いちいち名乗らなくたってお前の事を知らない奴なんてこの学校には存在しねぇよ!」
説明は不要だろう。
見ての通りだ。
こんな奴が居たら目立たないわけがない。
ある意味では、億万兆舎は伏木にも勝る有名人である。
名前通りに億万長者の金持ちで、この馬鹿げた名前も金の力で手に入れたらしいのだが、その上こいつは極度の目立ちたがり屋で、目立てそうな場面があるとどこにでも首を突っ込んでくるお騒がせ女なのだ。
そういう訳だから、当然学校一の美少女として目立っている伏木の事をライバル視していて、事あるごとに張り合っている。
俺としては、頼羽よりもこいつの方が伏木のライバルとしての印象が強いくらいだ。
「お~っほっほっほ! そんな事は当然分かっていますわ! だってわたくし、有名人ですもの! それでもわたくしがわざわざ名乗るのは何故なのか? 気持ち良いからに決まってますわぁ~! お~っほっほっほ!」
「あぁもう! うるさいのよ成金女! ていうか、なに勝手に学校一の美少女を名乗ってんのよ! 確かにあんたは可愛いけど、学校一は奈子! ……じゃなくて、あたしでしょ!」
うるささで言えば頼羽もいい勝負だと思うのだが。
ともあれ頼羽が噛みついた。
「はて、どちら様? 生憎わたくし、あなたみたいな地味でモブい方に知り合いはいないのですけど」
「な!? 誰が冴えない地味モブの貧乳庶民よ!?」
「い、いえ、わたくしもそこまでは言ってませんけど……」
おぉ。あの億万兆舎をたじろがせるとは。
頼羽の奴、結構やるな。
褒めてないけど。
「どうせ心の中では思ってるんでしょ! 成金女! 金粉の詰まった耳の穴をかっぽじってよく聞きなさい! あたしは頼羽瑠々! 学校一の美少女にして、伏木奈子の永遠のライバルよ!」
「いえ、流石のわたくしでも耳の穴に金粉なんか詰まってませんけど……。あなた、面白い方ですわね。セバスチャン」
億万兆舎がスカッと指を鳴らす真似をする。
付き人学生が「はっ」と答えて、金ぴかの財布から一万円を取り出して頼羽に渡した。
「……なによこれ」
「面白い冗談でしたので。ご褒美をさし上げようかと。だってねぇ? あなた程度のモブキャラが卑しくもこのわたくしに向かって学校一の美少女を自称するなんて! ちゃんちゃらおかしくておへそでお紅茶が沸いてしまいますわぁ~! お~っほっほっほ!」
「なっ!? あんた、人をバカにするのもいい加減にしなさいよ!?」
激昂しつつ、頼羽は受け取った札を懐にしまった。
「いや、貰うのかよ……」
「だってぇ!? 一万円よ!? 高校生には大金じゃない!?」
「そりゃそうだが……。それでいいのか?」
「よくないけど……。うぅぅぅ……」
しまいかけた一万円を取り出すと、頼羽の手がブルブル震える。
まぁ、気持ちはわかる。
逆の立場なら俺もちょっと迷うだろう。
だって一万円だぞ!?
「お~っほっほっほ! 世の中金! マネーイズパワーですわ! 無駄な足掻きはやめて、大人しくわたくしの
「キィィィィ! こんな奴に負けるなんて絶対にイヤなのに! お金が手から離れてくれない!? 誰か、助けてええええ!?」
頼羽の奴が涙目になって悲鳴をあげる。
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