第4話
「はぁ!? なんで断るのよ!?」
「断るだろ! 俺は高橋じゃなくて佐藤だ! ていうかお前はそもそも誰なんだよ!?」
「このあたしを知らないなんて、あんたどこのドイツ人?」
「髪の毛から爪先まで百パーセント純粋な日本人だ!」
「まぁいいわ。知らないのなら教えてあげる! あたしは二年三組の
「あぁ、お前があの。一方的に伏木の事をライバル認定して美少女を自称しているとか言う頼羽瑠々か」
薄ぼんやりと噂くらいは聞いた事がある。
それ以上でも以下でもないので詳しい事は知らないが。
興味もないし。
「ちょっとぉ!? 自称してるのは学校一の方! 美少女である事は間違いないでしょ!?」
「確かにそうだが、自分で言うか?」
伏木と比べたら霞んでしまうが、確かに頼羽も美少女ではあった。ツインテールに猫っぽい目、胸は平らで身体は痩せ気味。全体的に貧相というか、どことなく不憫なオーラが漂う残念系美少女と言った感じだ。
「うるさいわねぇ! 中学の頃は本当に学校一の美少女だったのよ! みんなあたしをチヤホヤして! モテまくりの人気者だったんだから! それなのになによ! 高校に入ったらみんな奈子! 奈子! 奈子って! あの女のせいであたしの存在感なんか全然なくなっちゃんだから! ムカつく! 絶対許さない! なによ! ちょっと胸がデカくて小顔で可愛くて頭も良くてスポーツ万能で性格も良くて良い匂いがするからって!」
「お前実は伏木の事大好きだろ」
「は、はぁ!? ち、違うわよ! 全然違うし! 誰があんな女! 尊敬なんかしてないし! 憧れてなんかいないわよ! むしろ逆よ! 大大大嫌いなんだから! 言ったでしょ? 永遠のライバルだって!」
「それを自称してる時点で永遠に勝てそうもないけどな」
「うるさい! 揚げ足取らないで! とにかくよ! あたしは奈子に勝ちたいの! そこであんたよ! 田中一郎!」
「佐藤だって。何回言えば覚えるんだ?」
「も、モブの名前なんか一々覚えられるわけないでしょ! 話の腰を折らないで!」
シンプルにバカなんだろうな。
そう思う事にして、俺は黙って肩をすくめる。
「奈子を振ったあんたを寝取れば、あたしの方が上って事になる。あたしの勝ち、学校一の美少女に返り咲けるわ!」
「いやそうはならんだろ……」
寝取りの使い方間違ってるし。
絶対こいつ意味分かってないで使ってるだろ。
「なんでよ! なるでしょ! 好きな人を横取りされたらどんなにすごい奴だって負けじゃない! ていうかあたしが奈子に勝つにはもうそれくらいしか方法ないし!」
「それが分かってるなら潔く負けを認めて普通に生きろよ……」
「絶対にイヤ! あたしは負けず嫌いなの! そういう訳だから伊藤!」
「佐藤!」
かなり惜しかったが。
ていうかこいつ、わざと間違えてないか?
「う、うるさいわね! とにかく、あたしの彼氏になりなさい!」
「イヤだって」
「なんでよ!? あんたみたいなモブ男にはあたしだって勿体ないくらいでしょ!」
「見た目はともかく性格が気に入らない」
「あたしだってあんたなんかタイプじゃないわよ!」
「ならこの話はこれでおしまいだな」
会話を打ち切り弁当を食べようとするのだが。
「やぁだぁ! 一生のお願い! ようやく巡ってきた奈子に勝てるチャンスなの! そ、そうだ! 付き合ってくれるならなんでも言う事聞いてあげる!」
「なんでもって……。いきなり値段が下がりすぎだろ」
激安スーパーの総菜だってもうちょっと段階を踏むぞ?
「奈子に勝てるならプライドなんか捨ててやるわよ! ねぇいいでしょ? お願いお願い! あたしの事助けると思って! 神様渡辺様! この通り!」
「次名前間違えたら二度と口利かないからな」
「だってぇ!? 男子と話すの得意じゃないし! 普通に呼ぶのってなんか恥ずかしいじゃない!?」
「一応覚えてはいるんだな」
「当然でしょ! 人の名前間違えるとか失礼じゃない!」
そう思うならここ数分のやり取りを思い返して欲しい所だが。
「なんでもいいが。頼羽には悪いが、そんな理由じゃ余計に付き合えない。俺は勿論、お前の為にもならないだろ」
伏木に固執しすぎだし。
俺と付き合った所で伏木に対するコンプレックスが解消するとは思えないからな。
「なによそれ! ケチケチケチケチ! このあたしがこんなに頼んであげてるのに! モブ男の癖に生意気よ! いいわよいいわよ! こうなったら意地でもあんたを落としてみせるんだから! ていうか、最初からそうすればよかったんだわ! 真の学校一の美少女であるこのあたしが本気になれば、あんた程度のモブ男を落とすなんて楽勝なんだから! そうすれば普通に奈子に勝った事になるし! あたしって天才ね!」
「勘弁してくれ……」
どうして俺の周りには頭のおかしい女ばかり寄って来るんだ?
モテ期はモテ期でも嬉しくないモテ期な~んだ?
答えはデスモテ期。
そんな気分だ。
リアルに頭を抱えていると。
「おじゃましま~す。佐藤君いますか~?」
元凶である伏木までやってきやがった。
俺の昼休み、完全に終わっただろ……。
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