第5話
急いで立ち上がり、不審者の体を掴もうと思った。
なんとかしなきゃと思った。
相手は俺よりも身長が高い男だった。
しおりと男の体格差は、火を見るより明らかだった。
時間の問題だと思った。
早く助けなきゃ——
ザッ
地面を蹴る音がして、途端にスカーフが揺れる。
紺色の上着と、白い運動靴。
空気が弾むような伸びやかな波長が、視界の中心を通り過ぎた。
何かがぶつかったような重い振動が、手に触れられる間際まで近づいていた。
浮き上がるような輪郭がせり立つ。
ナイフが、視界のそばを横切る——
「——え」
空気が、切り裂かれる。
千切れた風の繋ぎ目が、わずかなほつれもなく転がり落ちた。
「音」はなかった。
「そこ」に。
あるのはゆらめくスカートだけで、静かな吐息でさえはためかない。
男は覆い被さっていた。
長い足と腕を使って、しおりの体を押し倒そうとしてた。
力ずくで振り解こうとしていた。
掴まれた手首を手前に引き、体勢を持ち直そうとしてた。
明らかに不利な状況だった。
——しおりが。
彼女にできることなんて何もないと思った。
ほんのわずかな、抵抗でさえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます