第4話



 「…しお…り…?」



 嘘だろ…?



 …なんで?




 戸惑う俺を横目に、「逃げて!」と、彼女は叫んだ。


 甲高い声が、田園の風景の中に響いた。


 その拍子に、森の中にいた鳥が飛び立つ。



 乾いた音とは程遠かった。


 かといって、水のようなしめやかさはなかった。



 俺は動けなかった。


 動こうと思えば、動けたのかもしれない。


 でも、そういう状況じゃなかった。


 不審者が目の前にいて、そのすぐそばで、しおりが立ってる。



 彼女は幼馴染だった。


 保育園の頃から一緒で、小学生の頃はずっと同じクラスだった。


 幼馴染で、友達だった。


 いつも一緒だった。


 最近じゃ、会うこともあんまりなかったが…



 「早く逃げて…!」


 「…は!?」


 「早くここから離れた方がいい。時間を稼ぐから」



 離れるったって…



 そんなの、置いていけるわけないだろ??


 しおり1人で対処できるような状況じゃなかった。


 っていうか、そんなこと言ってる場合じゃなかった。


 時間を稼ぐのは俺のほうだ。


 しおりの方こそ早く…ッ!

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