-5- 人形

 金曜日。今日も彼女と出かけようと思った。けれどその前に、昨日の手紙を読んでしまうことにした。


 より厚く、重くなった手紙。昨日と同じようにハサミで封を開ける。



ア イ マ シ ョ ウ



 それだけ。彼女は、ここに会いに来てくれているのか!

 急いで、玄関の扉を開いた。ゴツンという音がした。音に驚いて、足元を見る。


 そこには、おかっぱ頭の市松人形が、赤い着物を着て座っていた。おもわず、抱き上げて部屋に入れる。

 大したものは無いが、昨日食べ損ねたオードブルが残っていた。彼女を机の前に座らせる。


 なんとなく、彼女がこの家にいることが不釣り合いな気がしてきて、そわそわしてしまう。黒い瞳がこちらをじっと見つめている。ついに居ても立っても居られなくて、言い訳じみた大声で言った。


「散歩しようか」


 近所の堤防の上を彼女を抱えて歩いた。周囲には犬の散歩なのか、犬を連れている老人と主婦らしき人。すれ違いざまに、こちらを驚いたように見ていた。


 たぶん、彼女の美しさに驚いたのだろう。すれ違い切るまでその視線はこちらに釘付けだった。


 ついでに、スーパーにも寄った。昨日は肉料理だったから、今日は魚かな、そう思って刺身を手に取る。

 ここでも、彼女は周囲の視線をくぎ付けにしていた。


 家に帰る。今日は手紙は無かった。

 少し寂しいが、今日は一日中一緒だったのだからと自分を納得させる。


 彼女とともに食卓を囲んだ。緊張からか、味はしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る