-4- 手紙

 木曜日。昨日は部屋に入ったら泥のように眠ってしまった。

 手紙を握りしめて寝ていた。そうだ、読まないと。


 封は頑丈に糊付けをされていたので、手で開けることはできなかった。仕方がないので、ハサミで開ける。中の手紙が傷つかないように、慎重に。


 便箋は赤かった。けれどそれは、元から赤いわけではないようだった。不快な、体の中の匂い。おそらく、血。そのせいか、便箋は少しふやけていた。


 便箋にはこう書かれていた。



い っ し ょ に い よ う ね



 それだけ。それだけのことが、何枚も。

 だから、手紙を連れていくことにした。


 すぐに行ける近場の山を探した。何度かスマホの画面が電話に切り替わったが、切った。

 彼女とともにいる時間を邪魔されたくなかった。調べ終わったらスマホの電源も切った。


 山のふもとに着いた頃には昼だった。軽く腹ごしらえをした。山に登った。彼女のことを考えるあまり、景色の記憶はまるでなかった。

 山頂に着いた頃には日は傾き、人はまばらだった。夕日に彼女からの手紙をかざす。


 ──いっしょにきたよ。


 それが、私にできる返信だった。


 電車に乗り、アパートへ帰る。せっかくだからとスーパーで豪勢なオードブルを買った。


 今日も手紙が来ていた。赤い手紙。次はどこに行こうか。

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