罰ゲームで付き合ったカノジョは命令を望む
れっこちゃん
プロローグ あの日
どこか遠い場所にいたような気がする。
身体がふわふわとしていて、心ここにあらずといった感覚を覚えていた。
……ここはどこだろう。
ぼんやりとした思考のまま歩いていく。
すると、一軒家の庭に辿り着いた。
他人の家に迷い込んでしまったのだと後戻りするが、その心地良さに思わず足を止めてしまう。
サラサラと風が草木をなびかせ、小鳥が空を駆け回るのを誰も邪魔しない、とても平和な世界。
そこに彼女はいたんだ。
『おかえりなさい』
知らない人だけど、俺を迎えてくれる。
だけど、顔が見えないのはどうしてか。
まさか、俺は泣いている? 涙で前が霞んでしまっているのだろうか。
そんな俺を抱きしめるように、柔らかな声で言うのだ。
『ふふ、今日は何を食べる? 紅茶……はまだ苦いかな? スコーンを焼いてみたけど君は好きかな?』
子ども扱いしないでくれと頼むが、俺を無視してテーブルにそれらを並べるのだ。
けれど、俺の意思とは無関係にどんどん物語が進行する。
不思議な出来事に巻き込まれている俺が、勝手に口にした言葉。
『ずっと、一緒にいられる?』
彼女は苦笑していた。
その態度に俺は腹を立てて顔を背けるが、頬に手を添えられ諭される。
今言われたばかりなのに、なんて言われたのかもう記憶にない。
『あっ、待って……行かないでくれ……!』
だけど、その手はすごく温かかったことを覚えている——。
……いつの事だったか、時が止まれば良いと思った。
人生で何が一番最高の瞬間だったか、死ぬ時に全てを振り返ってみなければ分からない。
けれど、誰だって一度は思った事があるはずだ。
楽しい時間を持続させたい、その瞬間を繰り返したい。
飽きるまで、疲れ果てるまで……満ち足りた一瞬を繋ぎ留めておきたい。
それを失うのが怖い。その先にある未知が怖いのだと思うようになっている。
この手の不安は、誰にだって一度は経験した事があるはずだ。
例えば、中学最後の夏、部活における最後の試合。
この一点の得点は、命を削り削られるような重みを感じる。
また、初めて出来た恋人と過ごす時間。
悪魔に時間を握られているのかと思えるほどに、短く感じられるというそうだ。
人にはいくつもの戻りたい場所があるものだ。
いわゆるセーブポイント。
大事な場面に配置してくれれば、何度でも繰り返せるのに……と、俺みたいな学生にとって、そういった悩みからは逃れられないだろう。
だけど、勘違いされるようだから言うが、やり直しとは違うんだ。
俺は繰り返したいんだ。
その一瞬、一瞬を。大事だった何かを思い出したいんだ。
だってやり直したところで、〝俺が変わらなければ〟何も変わらないのだから……。
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