第3話 余計です!お地蔵さんのニット帽
以前の私だったら、”こんなに落ち込んでるのに何がクリスマスだよ“とふてくされたと思うが、田舎暮らしでそれほど心がささくれ立っていない事に安堵感を覚える。
星が一つ流れた。
吐く息が白い。
ふと空を見上げると雪が降ってきた。
また、電車で一時間、徒歩で一時間の道のりを帰る。
先輩と固く握手できた時、これは行けると思ったが残念ながら世の中そう思い通りには行かない。
その手のぬくもりが今となってはむなしい。
帰路で峠を越える時はいつもウキウキするのに今日は足取りが重い。
こんな気持ちは初めてだ。
都会より雪がたくさん降ってきた。
少しでもニット帽を引き取ってもらえるかと思い持参したがそのままで持ち帰ってきた。
ひとつも売れませんでした…かさこ地蔵の話そのままだと思った。
叩きつけてくる吹雪がより落ち込んだ気持ちを増幅させる。
風もきつく足元を確認するのが精一杯の帰り道で、いつも気にも止めていなかった風景が目に入った。
六体のお地蔵様に気づいた。
真っ白に雪をかぶって寒そうにたたずんでいる。
「こんなに雪をかぶってさぞ寒いでしょうに。このニット帽をかぶってください」
と私は雪を払って売るはずだったニット帽をお地蔵様の頭にかぶせた。
「おっと最後のお地蔵様の分が一つ足りない。これで代用しよう」
と首からマフラーを外してターバンのようにお地蔵様の頭に巻いた。
「インドのお地蔵様ですか?」
と訊ねたが返事はなかった。
さあ、あとひと頑張りして家に帰ろう…と私は腰を上げた。
小さい頃に読んでもらった「かさこ地蔵」を思い出した。
売るはずだった笠をお地蔵様にかぶせたとおじいさんが言ったらおばあさんは、それは良いことをしなすったと褒めてくれるんだったよなあ…と思うと私は一人で微笑んだ。
帰ったら妻はニッコリと私をねぎらってくれると思うと足取りが軽くなった。
それは良い事をしたわね…と言う言葉欲しさに私は
「お地蔵様が寒そうだったんで君の作ったニット帽を被せてきたよ」
と言った。
「いったいなんて事してくれたの?売るはずのニット帽でしょ。お地蔵様が寒そうなのはわかるけど私達の財布の中身も寒いのよ」
「それはわかるけどあの雪がかぶった頭はあま
りにも可愛そうだよ」
「お地蔵様の心配するより私の心配をしてよ。収入がなさすぎて鬱になりそうなのよ」
鬱になりそうと言われると私は何も言えなかった。
自分達の食べ物を先に考えるべきだったかなと思う。
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