第2話 自分だけ助けてほしいは虫よすぎ
「ジークロホールディングス…ここで間違えないな」
私は徒歩で1時間かけて田舎の自宅から街に出てさらに電車で1時間の都会に出てきた。
私は受付嬢に面会の旨を申し出た。
「事前アポイントメントはお済みでしょうか?」
「はい、お手紙を差し上げてご返信もいただいています」
「しばらくお待ち下さいませ」
受付嬢は内線で社⾧に連絡を取っている。
こんなクリスマスの日に商談に来るのは私くらいかなと思っていたらエントランスは営業マンとおぼしきスーツの人たちが行き来している。
年末独特のあわただしさの中で先輩であるジークロホールディングス社⾧との面談ができる事に心の落ち着きを感じている。
しばらくして
「それではご案内いたします」
とタイトスカートスーツのロングヘアの女性が現れた。
エレベーターが28階に着いた。
ロングヘアの女性は社⾧の秘書だとエレベーターの中で私に告げた。
女性は社⾧室の扉をノックした。
「どうぞ、お入りください」
聞き覚えのある先輩の声が聞こえた。
「社⾧、お話が終わりましたらご連絡下さい。お客様をお迎えに上がります」
と言って秘書の女性は社⾧室を退出した。
「まあ、かけてくれ」
とジークロホールディングス社⾧は私に着座を促した。
「先輩、御無沙汰しています」
「元気にしてたか」
二人は固く握手した。
私は心の余裕がなく、いきなりニット帽を買って欲しいと言う商談を持ちかけた。
先輩は現物を手にとってしばらく見入っていた。
私の妻が心を込めて作ったものだ、きっと気に入ってくれるに違いないと先輩の顔色をうかがった。
「と言うわけだ、悪く思わないでくれ。このクレーター禍では救ってあげられる状況じゃない。パンデミックは終息に3年はかかると言うからなぁ。その頃にまた、来てくれ。本当に力になれなくてすまん」
先輩の気持ちはわかる。
誰もが自分の事で精一杯のご時世だ、自分だけを助けてくれなんて虫が良すぎる…と私は心の中で反芻した。
街にはクリスマスの装飾がそこかしこに溢れ綺麗だ。
こんなパンデミックの中でも明るさを忘れないでおこうと言う人たちもいるんだなあとホッとする。
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