第5話 rumores et fabulas《噂と伝説》(1)
ウルフェンはさっそくこの村、シルバラッツで情報を集めることにした。
――――やはり情報が集まりそうな場所といえば酒場だろう。
そう思い酒場を探し始めた。
辺りには放牧というよりはただ放し飼いにされているだけであろう鶏や牛が自由を謳歌している。彼らを見ていると、やはり己に流れる血のせいか少し美味しそうに見えてしまう。
――――今夜は肉をガッツリ食べたい気分だ。
久しぶりののどかな雰囲気にウルフェンも少し気が休まったように感じた。
子供たちが元気に遊び回る声、活気に溢れた商人たち、まさに平和そのものだった。
しばらく歩くと看板に『シルバーポイント』と書かれた建物が見えた。どうやらここが酒場のようだ。まだ日も落ちきっていないにもかかわらず大変賑わっている。
人が多ければその分情報が得られるかもしれない。しかし今までの経験上、ウルフェンはあまり期待はせずに酒場のドアに手をかけた。
「いらっしゃいませ!」
酒場に入った瞬間、元気な声が飛んできた。
「おひとり様ですか?」
「あぁ」
「お好きな席へどうぞ!」
客を見るに、この村は旅人や外からの商人などがなかなか多いようだ。これなら吸血鬼についてなにか有益な情報が得られるかもしれない。
「こちらお水です!」
だがまずは店の主人に話を聞くことにした。
「マスター、ここら辺で吸血鬼の噂なんて聞いたことがないか?」
「そうだな、本当かは分からないがこの村で二百年程前に吸血鬼との大戦があったらしいが――」
「その話詳しく聞かせて欲しい」
思わぬ収穫だった。この情報は本物であると、そう獣の本能が言っている気がした。
「いいぞ、あんちゃん。この村ではな――」
「ご注文はお決まりですか!?」
とても晴れやかな笑顔だった。
「……マスター、コイツはなんだ?」
「あー……、最近この村に住み着いた元気な小娘だ」
「はい、私は元気です!」
ビシッと頭に手を当て元気に敬礼をする少女はウルフェンの隣に座った。
「私もそういう噂事には少し詳しいんですよ!なんたって私はいつか討伐ギルドの受付嬢になるんですから!」
「おい、こいつ隣に座って夢を語り出したぞ。仕事中じゃないのか?」
「いつも勝手に働いては給料せびってくるから自由にさせてるんだ」
なぜそんなやつを店に入れているのか。
「おっと、自己紹介がまだでしたね!私はリコ・ベネクララっていいます!お兄さんは誰さんですか?」
「……ウルフェンだ。」
「わぁお、見た目通りって感じですね!」
……さっきまで見ていた村の賑やかさは本当に心休まるものだったと改めて思う。
とにかく、この少女の話よりも断然吸血鬼の話だ。
「マスター、さっきの――」
「ウルフェンと聞いて思い出しましたけど人狼伝説がありましたね!」
思いもしなかった言葉だ。人狼伝説。村まで案内してくれたビリーも言っていた。ここまで頻繁に人狼伝説と吸血鬼の話が出るとは思っていなかった。やはりこの村には何かある。ウルフェンは自分の鼓動が高まるのを確かに感じとっていた。
「マスター、悪いがこの子を少し借りるぞ」
「あぁ、喜んで」
リコの悲しそうな目をよそにマスターは他の客の元へと向かった。
ウルフェンナイト 姫崎 @himesaki
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