第4話 bestia silva《森の獣》(2)

 ウルフェンたちはいくつか言葉を交わしながら歩くうちに森をぬけていた。少し遠くだが確かにいくつかの建物が見える。

「あれがあんたの言う村か?」

「ええ、とてもいい場所ですよ。村人同士が協力しながら生活しているんです」

遠目で見ても分かるような立派な畑が複数、村の外に広がっている。今まさに収穫時期なのだろう、小麦の黄金色に染め上がっていた。 

 「この村は土の質が良く、上質な小麦が取れるんです。だからここの小麦で作ったパンはとても美味しいんです」

 ビリーの見る先には作りの良い風車小屋がいくつかあり、それら全てがゆっくりと休むことなく回っていた。

「パンか、俺も小さい頃暮らしていた町のパン屋が大好きだったな……」

「そういえばウルフェンさんの故郷はどちらなんですか?」

「あー……、そうだな、西の方だ」

「西の方ですか……。確か西には人狼伝説がありましたね。森で狩りをしているとそういった話はつい気になってしまうんですよ」

 ビリーは目の前にいる男がその伝説の続きを生き続けている人物だとは思いもしないだろう。

 それよりも驚いていたのはウルフェンの方だ。

 吸血鬼伝説は今まで何度も聞いてきた。その他にも空を飛び回り火炎を口から吐く家ほどの大きさのトカゲがいるらしい、命尽きても灰から蘇る燃え盛る炎の鳥、雪の妖精に三つ首の犬、しまいには人の尻に手を突っ込みよく分からない玉を抜き取る生物がいるなど様々な話を聞いてきた。

 だがその中に人狼伝説は無かったのだ。

 ウルフェンはあの時代を生きた当事者であり、両親の最後の姿は今でも鮮明に覚えている。しかし、約四百年の時を経て、あの頃のことは全て勝者のみが語られる事になったと思っていた。

 だがそれも違うらしい。そうとなれば人狼伝説について聞いてみるしかない。それがもしかしたら吸血鬼を皆殺しにする一歩になるかもしれない。

「なぁ、その人狼伝説について――」

「お父さん!」

「おぉ、ロビンか。ただいま」

 ビリーに尋ねようとした時、村から少年が飛び出してきた。『お父さん』と言ったことからビリーの息子なのであろう。

「遅かったね、何かあったの?」

「ちょっとな。この方は旅をしているようで、村まで案内していたんだ」

 少年はウルフェンを見るや、ロビンです、としっかりとお辞儀をした。

「ウルフェンさん、すみませんが一度家に帰らなくては……。私の家はあちらですのでウルフェンさんの用事が終わった後にでも宜しければお越しください」

 そう言ってビリーは息子と一緒に家へ歩き出した。

 ウルフェンは自分の前に建てられている村のゲートを見た。そこには『シルバラッツ』と書かれていた。

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