シミュレーション仮説

男は校内を歩く。この後彼は補修に参加しなければならない。退屈な自習の時間を終え、少々惰眠を貪っていたが、目的の教室へと向かう。とうに授業は終わり、部活も終わる時刻となった今、教室に残っている生徒などいない。数少ない学校に残っている者も友と語り合いながら家を目指している。そんな廊下を一人流れに逆らいながら歩く。

ふと男は横の教室を見る。当たり前だが教室の電気はついていない。だが、男は教室の中へと視線が自然と流れた。偶然か、必然か、そのようなことはどうでも良い。しかし男は確かに見てしまったのだ。まるでゲームの画面が異常を起こしているような電子的な光景を。

あり得ないと、男は思う。いかにしてこの世にそのようなことが起こりうるのだろうか?男は瞬きをして見返す。当たり前だがそんな不具合が発生している光景はもはや見えない。幻覚だったのだろうか?きっとそうだろう。寝ぼけていたのだから。

男はそう思う。だが喉に刺さった小骨のように釈然としない違和感が残り続ける。

男は確かに見たはずなのだ。あり得ない光景を。常識的に考えれば。

だが。男にそのようなことを考えている時間はなかった。補習の時間が迫っている。男は思考を止め歩き始める。その後に彼がそのことを思い出すことはなかった。

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明晰夢 ジゴク @Seacret1

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