他人事

走る。ただ走る。無心に、前を向いて。少年は走り続けている。一瞬たりとも止まることなく。我武者羅に。

ふと、友人の存在を確認する。並走するように速度を落とす。少年は声をかける。

一体どうして、先ほどまでいなかった友人がいるのだろうか?風景も変わらない。

それでも彼らは談笑しながらただ走る。今何をしゃべっているのだろうか?

その瞬間、世界が背後のある地点から急激にモノクロへと変わっていくのを認識する。深海に居るかの如く体が重い。そしてブラックホールのようなものが急拡大して少年らを、地球を、宇宙を飲み込もうとしているのがわかる。

少年たちは走り出す。彼らは少しでも離れるために。しかし、動けない。時間が急激に遅くなっている。その時、少年は認識する。ここは夢の世界だと。彼は友人に向かって叫ぼうとする。


「大丈夫だ。なぜならここは夢の世界なのだから。」


しかし、声が出ない。まるでその言葉を発することを世界が拒絶しているかのようだ。それでも、彼は声を振り絞って伝える。友人は怪訝そうな面持ちでこちらを見る。世迷言をいう暇があったら足を動かせとでも思っているのだろうか。彼は諦めて走る。しかし、逃げることは許されない。少年は心のどこかで自分のみが安全であることを理解している。しかし、飲み込まれ、意識が遠のくその時、彼が思ったのは、夢から目覚められる解放感なんぞではなく、これが夢ではないかもしれないという確証に近い恐怖のみであった。

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