1-2. 4月……付き合お?(2/4)

 ちょっとしたあらすじ。

 俺、金澤かなざわ。高校1年生の春、同学年の女の子、能々市ののいちさんの告白&玉砕シーンに遭遇してしまい、傷心中の彼女と会話中。

 いや、どういうあらすじだよ、これ。



「……すん……ぐすっ……」


「まあ、能々市さん、落ち着きなよ」


「能々市でいいよ」


 俺の隣で、能々市がorz状態からスカートの裾を膝や尻で挟みつつちょこんと座り始め、まだ落ち着ききっていないすんすんとすすり泣く状態が終わるまで待つ。俺は俺で「いちごなオ・レ」を飲みつつもタイミングを見計らってゆっくりとした感じで声を掛けている。


 さっきはちょっと面倒だとか思ってしまったけど、ブレザー姿のかわいい女子を見るのは中々に良いものだ。

滅多にない非常に眼福である。


 でも、見るなら、泣き顔より笑顔の方がもっといいんだけどな。


 能々市、かわいいし。


「分かった。なら、俺も金澤でいいよ」


「うん、金澤ね……なんでフラれたんだろ……」


 能々市が話を聞いてほしそうになんとなく視線をこちらに寄越してきた、と思ったので、俺は昼休みの時間を気にしつつも話を聞くことにした。


「なんでだろうな……ちなみに、聞いていいか分からないけどさ、先輩とはどういった感じなんだ」


「え?」


 聞き取れなかったのか、能々市がきょとんとした表情で素っ頓狂な声を上げる。


 ちょっと待て、俺、思い出せ。さっきの告白シーン……初対面っぽい感じじゃなかったか。


 そう思ったので、少し質問を変えて、かつ、ゆっくりと喋ることにした。


「えっと、今までに、さっきの先輩と話したことはあるのか?」


「ないけど」


 まさかの告白が最初の会話だったんかい!


 待て待て、もしかして、一目惚れってやつか。


 それにしたって、初手告白はないだろ。こう、知り合って、少し仲良くなって、とか、もっと、こう、あるだろ。


「そうなのか、初めて喋ったのか? えーっとだな。これも聞いていいか分からないけど、なんで上手くいくと思ったんだ」


 これはまた面倒くさそうな話だな、とか思いつつ、顔にまでは出さないように気を付けて、とりあえず、優しく話しかけることにした。


「友達から、先輩は穏やかで押しに弱いって聞いて」


 攻めポイントそこかよ。


「攻めポイントそこかよ!」


 思わず口からツッコミというか本音がそのまま出てしまっていた。能々市は俺の言葉を聞いて早速口を開き始める。


 会話のテンポはまずまず良さそうだ。


「だって、いいじゃん! 先輩と付き合いたいと思ったんだもん!」


 まあ、たしかに理由がなんであれ、能々市の告白する理由になったなら、それを否定しちゃいけないな。


 それと、あまり深掘りしても時間も足らないし、そこまで興味もないし、適当に会話をすれば、能々市の気もまぎれるだろうから、ここは無難な感じで聞いてくしかないか。


「ごめん、ごめん、分かった、分かった。ちなみに、その先輩のこと、どんだけ知ってんだよ」


 そう思って、無難な質問を展開していこうと考えた。


「サッカー部」


「で?」


「で?」


 なんで疑問形に疑問形で戻ってくるんだよ。俺、そんな難しいこと聞いてないと思うんだけどなあ。


「えっと、サッカー部だとして、ポジションとか、あとは、知らないけど、サッカー部以外のそういった、なんだ、そう、プロフィールみたいなものだよ」


「……2年生」


 俺は心の中で駄々滑りヘッドスライディングを華麗に決めた。能々市との会話が一問一答インタビューのように感じてくる。というか会話をする気がないんだったら、俺に構わず教室に戻ってくれていいんだけど。


 って、能々市ってクラス何組だ。少なくとも俺と同じクラスじゃないな。


「なんで単語で返ってくるんだよ。もっとないのか」


「かっこいい」


 顔かよ!


「顔かよ!」


「失礼な! がんばっている姿がだよ! 顔はそんなにかっこよくないよ!」


 お前が失礼だよ!


「お前が失礼だよ!」


 さっきから本音がダダ洩れツッコミしっ放しだ。それに、思わず能々市のことをお前呼ばわりしてしまった。


 しかし、どう考えてもツッコミ待ちの返しだろ、それ。俺は先輩の顔を見たことないけど、先輩が可哀想すぎるわ。


「うっ……失礼はそっちが先だよ! 顔で選んでないもん! 金澤から誘導尋問を受けたみたいなもんだよ!」


 能々市が苦しくなって、とりあえず、どちらが先か問題になったので、これへの論破は無駄だし印象も悪くなると感じ、素直に謝ることにした。


 別に印象を良くする必要もないけど、無駄に悪くする必要もないからな。


「まあ、そうだよな。すまん。つい思っていたことが口から出た」


「思ってたってことじゃん!」


 鋭いな。


「そうなんだけどさ。普通、かっこいいって言ったら、見た目を想像するだろ?」


 理解してくれたのか、能々市の雰囲気が再び落ち着き始めた感じになってくる。


「あー、まー、うーん。イケメンってなんか怖い。遊ばれそうで」


 へぇ……嘘くさ。


「ふーん」


「その反応、信じてないでしょ!」


「そんなことはないけど」


「顔が、目つきが、言ってるからね!? 金澤、そんなにポーカーフェイスじゃないからね!?」


 あれ? 俺、よく表情から分からないって言われるけど、女子から見るとそうでもないのか?


 って、まずい。こんなテンポで話していたら時間がくるまで終わらねえ。とりあえず、一旦落ち着こう。


「悪かった。まあ、待て。俺は能々市と漫才をする気なんかないんだ」


「漫才をしているつもりないんだけど……」


「まあまあ、えっと、それじゃ、あれか? 能々市はよく分からないけど、サッカー部の練習か何かを見て、がんばっている姿がかっこいいと思って、思い切ってアタックしたと?」


「うん。金澤って、分析力、すごいね」


 こういう時の女子の短めで放ってくる褒めって、ものすごく淡々としているんだけど、これ本当に褒められているのか。


 もしかして、若干、バカにされているのだろうか。


 結局、分かるわけもないので、考えるのをやめた。

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