1-3. 4月……付き合お?(3/4)

 ちょっとしたあらすじ。

 俺、金澤かなざわ。高校1年生の春、同学年の女の子、能々市ののいちさんの告白&玉砕シーンに遭遇してしまう。その後、傷心中の彼女をしてみると会話が意外と面白いほどに弾みに弾んだ。

 昼休み、これで潰れるな。思ったより楽しいからいいけど。



「…………」

「…………」


 分析力がすごいと褒められた後、しばしの沈黙が始まってしまった。沈黙は金と言うが、この場合の沈黙は禁のような気もする。


 終わらない。昼休みがかなり削られている。昼休み中に終わるか、これ。


「なんでフラ――」


「さっきの感じだと、OKされる要素ほぼなかっただろ」


 よし、永遠ループに入る前に断ち切った。被せるように食い気味な感じで勢いよく断ち切った。


「え? ほぼってことはOKされそうな要素あるってこと?」


 おっと、ほぼに食いついたか。結構、ポジティブめに解釈された感じだな。まあ、それくらいの方が逆に助かるもな。


 それくらいの方が愛嬌もあるしな。


「ポジティブだな。そうだな、顔かな」


「顔かよ! 失礼でしょ!」


 何か思いきり地雷を踏んでしまったのか、先ほどの少しだけ和やかな雰囲気から一転して、怒髪が天を衝くといった様子で怒りを露わにした。


 たしかに今のは俺が悪い。さっき自分であんなことも言ったしな。だけど、俺は褒めたつもりだったから、ちょっとだけムッとしてしまった。


「褒めてるんだよ! かわいいって!」


 しまった……。まあ、出てしまったものを後悔しても仕方がない。


 正直、初対面の女子って考えた場合、見える範囲しかないからな。能々市は顔が良い方だから、顔はあるよな。後は、身長がかなり小さめだから、小動物的な感じもあるし、そう言えば、仕草もどことなく小動物的な感じと聞いたことがあるな。でも、仕草はあの先輩には分からないか。


 スタイルは……まあ、これからに期待って感じである。人間、本当に失礼なことは言えないものだな。


「えっ……」


 やめてください。その目を丸くして驚いた顔をするの。


 どっち、どっちなんだ。


 嬉しいのか、キモいのか。漫画じゃねえんだから、トゥンク……とか、え“っ”……とか、みたいな分かりやすい表現は俺に見えないんだよ。


「ま、まあ、あと、今日初めて能々市と俺って話したと思うけど、意外と話しやすいし、そういうところをアピールできれば、きっとOKされると思うぞ」


 俺はなんだかいたたまれなくなり、顔以外のアピールポイントを探した結果、意外と話しやすいという毒にも薬にもならないようなポイントを挙げてみた。


 これなら言ってもそんなに変な風には取られないだろう。


 その言葉を告げ終わった瞬間、俺は能々市が目つきを変えたような、そんな気がした。


 今まで俺から見ると、能々市は俺にそんなに興味なさそうな、ただの話し相手という感じだったのに。


 なんか、急に俺に興味を持った感じだ。どういう興味かまではまだ図りかねるけど。


「金澤って、やっぱり、というか、なんか、ガツガツしてないね?」


「ガツガツ?」


 能々市の唐突な言葉に俺は面を喰らった。


 どういうことだ。


 思春期の男子は多少の差異があれど、みんなガツガツした狼、そう、ウルフのはずだ。俺だって、そう、少なくとも、そんな枯れた感じじゃないはずだぞ。


 あと、やっぱりってなんだよ。同じ中学とはいえ、能々市と今までに接点ないぞ。


 いや、待て。俺も中学時代に浮いた話がなかったんだ。俺も能々市のそういう噂を聞いているくらいだから、能々市が男子のそういう話を誰かから聞いていてもおかしくないか。


「えっとね、私、告白はよくされるんだけど」


 いや、自慢かよ。


「いや、自慢かよ」


「自慢じゃないよ!」


 なら、なんだって言うんだ。俺なんか、告白されたことないぞ!


「すまん。また思っていたことが口から出た。話が進まないから気にせずどうぞ」


「えー……まあ、あのね、私、告白はよくされるんだけど、なんか、告白してくる人、みんななんだか怖くて……」


 あー、まあ、俺は告白まではしないな。健全な男子として、そういったことにまったく興味がないわけじゃないけど、俺もなんだかんだでフラれるの怖いし、傷付くのは嫌だしな。


「まあ、彼女が欲しくてアタックする奴らだしな。勢い余るんだろ」


「うん。だから、ガツガツしてなさそうで、頑張っててかっこいいなって思った先輩がなんだか好きになって、それで告白したの。この想いは本物なんじゃないかなって思ってる」


 そう考えると、能々市ってすごいよな。ちゃんと流されずに自分なりに行動できているんだから。


 そこからの自分で作った流れとその結果はまあさて置いて。


「そっか。まあ、でもフラれちゃって、残念だったな」


「うん。でも、それはもうよくて」


 もういいのかよ。どういうこった。本物の想い、なんだよな? ちょっと寂し気な感じの守りたくなる雰囲気は急にどこいったよ。


「それで金澤って話してみると、ガツガツしてないって思って」


 ん? 待て、待て。なんか流れがおかしいぞ。


 いや、待て。本当に待って。これって、もしや?


 待て、待て、俺が傷心中の女の子に付け入った感じになってない?


 おかしくない? 俺から「どしたん? 話聞こうか?」って言ってないからな?


 ってか、たしかに、フラれるのが怖いから自分から告白はしないけど、今、好きなやつも実際いないわけで。だから、ガツガツしていないだけで。


 なんでこう思っているかって、後で、なんだやっぱり、みたいに幻滅されるのがなんだかんだで怖いからだ。


 まあ、でも、能々市が彼女なら、って今妄想しちゃったけど。


「待ってくれ。今はたしかにガツガツしてないけど、人並みにそういう欲はあるから、好きな人が今いないからそう見えるだけ。だから、能々市が思っているようないつでもガツガツしていない人間じゃないぞ」


 俺の言葉に能々市が肯いた。


「うん。でも、今、怖くないから」


「今か。そうか」


 今はそうだな。


「それに」


「それに?」


 ピキーンっと、嫌な予感が頭を高速で走り抜けていった。


 まさか、目の前の俺に、まさか、言うんじゃないだろうな。


「イケメンじゃない」


 お前、それ、失礼すぎだろおおおおおおおおおおおおおおおっ! おおおおおおおおおおおおおおおいっ!


「失礼すぎだろ……おぉい……」


 ごめん、無理、心の中ほど元気に返せない。

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