第8話 おじゃましまーす

 由紀乃の訪問から二週間ほどがすぎた頃。

 ふたりはひとつの布団の中にいた。幸雄が動いて遊希が応える。遊希が求め幸雄は優しく与えた。やがて高みを目指して身を震わせながら互いの名を呼びあい――

「遊希……」

「幸雄さん……」

「遊希!」

「幸雄さーん!

「おじゃましまーす」

 突然、声が聞こえた。ふたりは凍りついた。

「ていうか、ほんとにおじゃまみたいだけど」

 遊希は声のした方へ視線を向けた。

美幸みゆきお姉ちゃん?」

「あら、覚えててくれたのね。家出と同時に私のことも忘れちゃったんじゃないかと心配したわ」

「そんなわけないじゃない」

 布団の上で遊希が身を起こした。

「妹がお世話になってます。次女の美幸です」

 たしか、S級認定を受けている下のお姉さんだ。

「あ、どうも、初めまして」

「初めまして、がその恰好だなんて、なかなか刺激的ね」

 幸雄は慌てて掛け布団を引いた。体を隠す。

「無駄よ。もう見ちゃった。どうせなら元気なときにお会いしたかったけど」

「お姉ちゃん、なにか用事なの?」

 警戒するように、遊希が問いかけた。

「用がなきゃ妹に会いに来ちゃいけないのかな」

「そうじゃないけど。先に知らせてくれれば……」

「なんてね。用事はあるの。村に帰りましょ」

 遊希は美幸から視線をはずした。

「やっぱりそのことなのね。嫌よ、帰りたくない」

「男ができたから? 残念、その人とはこれでお別れよ。来なさい」

 美幸は遊希の手を強く引いた。

「痛いよ、お姉ちゃん」

「待ってください、嫌がってるじゃないですか」

 幸雄は掛け布団を体に巻いた状態で立ち上がった。

「あんたには関係ないの。家庭の事情だから。そこで死んでなさい」

 恐ろしい形相で吐きだされた美幸の冷気は、幸雄になんの変化ももたらさなかった。

「うわ、ほんとなんだ。S級の私でも無理か。由紀乃姉さんに聞いたときは半信半疑だったんだけど。というわけで、雪女の武器は通じない。でも、これはどうかな」

 ドアと窓が一斉に開き、戦闘服を身に着けた男たちが幸雄と遊希を取り囲んだ。腰に下げているのは、拳銃?

「帰るわよ、遊希」

「待て」

 追おうとした幸雄は男たちに取り囲まれた。そして、一方的な暴行を受けて意識を失った。

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