超常現象は お好きですか
向出博
第1話
昔は、幽霊とか、心霊現象とか、輪廻転生とか、宇宙人といった「超常現象」の話が大好きな人が多かった。
しかし、最近では、宇宙人は別として、幽霊が本当にいると思っている人は、あまりいないのではないか。
コロナや北朝鮮によるミサイル発射、ロシアのウクライナ侵攻や中東でのイスラエルの軍事行動など、日常が超常化しているせいかもしれない。
先ずは、そんな超常現象の話をしよう。
そもそも、幽霊には物理法則が当てはまらない。
だから、その存在を立証しようにも手立てがない。
重力や慣性の法則などとは全く無縁な存在。質量もないだろうから、アインシュタインのE=mc2なんて数式も当てはまらない。
ただ、心配しなくても幽霊のことだから、霊力で、無からエネルギーを創り出せるのかもしれない。
気になるのは、物理法則が当てはまらない幽霊が、どうやってこの宇宙に登場したのかということだ。
宇宙と言ってしまうと、幽霊が場違いな感じになるのが面白い。
137億年前のビッグバンで、宇宙と一緒に幽霊が登場。
ただこれでは、まだ地球も無かったのだから話にならない。
しょうがないので、現在の話にしよう。
それでも、けっこう無理が出る。
なぜ、高速で膨張する宇宙の中で、自転し、太陽の周りを公転する地球上の特定の地点に幽霊がいられるのかということだ。
高性能のGPS的霊力でも持っているのか。
そうでもなければ、下手をすると幽霊は、地球の表面ではなく、深海か、地殻の奥深く、はたまたマグマの中。
果ては地球の動きに追い付けずに、宇宙空間に放り出されてしまう。
宇宙空間を彷徨う幽霊なんて、とてもロマンチックだが、肝心の祟る相手には、永久に近づけない。
これも、霊力でなんとかなるのかもしれないが。
輪廻転生の話も、仮に魂が、全ての生き物の間で輪廻転生するならば、私たちのうちの誰かは、どこかの星の宇宙人の生まれ変わりということになる。
宇宙人の生まれ変わりなんてSF的でワクワクする。
そうではなく、魂は人の間でしか輪廻転生しないということなら、人口が爆発的に増えた現在の80億人の中には、誰の生まれ変わりでもない、魂のない人が結構たくさんいることになる。
魂の在庫には、限りがあるからだ。
そう言えば最近、世の中がおかしくなってきた理由は、もしかしたら魂のない人が増えたからかもしれない。
こちらは、霊力では、どうしようもないということか。
幽霊がいないとなると、21世紀の現在、超常現象の主人公は、宇宙人だけということか。
いや待てよ、強力なライバルがいる。
それはゾンビだ。
ただ、宇宙人の存在を信じる派はいるが、ゾンビの存在を信じる派は皆無だろう。
でも、今日は宇宙人の話ではなく、私の友人サトルのどちらかというと心霊現象的な体験の話をしよう。
サトルは量子物理学の専門家、超常現象とは無縁に見えるバリバリの科学者。
最近では「意識の科学」についての研究を進めていた。
しかし、サトルの研究は、オカルトチックだった。
古代の偉大な指導者たちがどのようにしてその特異な意識を持つことができたのか。
そして、古代の指導者たちの意識は、おそらく輪廻転生を繰り返し、現代に至る歴史を動かしてきたのではないかという仮説を立てた。
世界史を詳細に分析しデータ化し、様々なシュミレーションを繰り返すことから導き出された仮説だった。
ある晩、サトルはシュミレーションに入り、歴史上の何人かの指導者の記憶にアクセスしようと試みた。
アクセスキーを叩いたその瞬間、サトルは異なる時代の彼らの意識に接続されるのだった。
秦の始皇帝は、自らの帝国の統一を夢見、法と秩序を築こうとしていた。
彼の強烈な意志は、歴史の中で脈々と受け継がれていた。
次にアレキサンダー大王の情熱が彼に迫ってきた。
彼は世界を征服するために果敢に戦い、文化を融合させることに情熱を燃やした。
その心には、どこまでも続く探求心があった。
彼の意識は、現代においても多くの人々に影響を与え続けているとサトルは分析していた。
カルタゴのハンニバルの冷静さ、ローマ帝国のカエサルの政治的手腕、チンギス・ハン の圧倒的な戦略眼、ナポレオンの野心とカリスマ性、それぞれの意識はサトルの意識の中に現れ、彼に多くの示唆を与えた。
彼はこれらの歴史的な人々の意識が、実は宇宙の法則の中で永遠の意識として存在し続けているのではないかと考えた。
やがてサトルは、そうした意識が、今を生きる私たちに繋がっている可能性に気づいた。
私たちは、彼ら彼女らが経験を通じて得た知識や感情を、魂の形で引き継いでいるのではないか。
サトルは、彼らの魂が後世の人々に影響を及ぼしているという仮説を立てたのだ。
そこで彼は、魂(意識)を使った実験を行い、これらの歴史的な存在のエネルギーを集約し、現代人の意識と結びつける方法を探ることにした。
彼らの強い意志や情熱を測定し、歴史の流れの中でその変動を追跡し、魂の位置を確認していった。
ある晩、サトルは特に強いエネルギーを感じた。
彼は再びシュミレーションに入ると、ナポレオンの意識が彼の前に現れた。
「私は何を求めていたのか。」ナポレオンの声が耳に響く。
彼は一瞬、力を失ったかのように思えたが、サトルは彼に寄り添うことを決意した。
「あなたの夢は、今でも多くの人に影響を与えています。あなたの戦略や情熱は、今日のリーダーシップにも生きています。」とサトルは言った。
ナポレオンは一瞬の沈黙の後、サトルに感謝の意を示した。
彼は、自らの過去の選択が、次世代にどれほどの影響を与えたかを理解することで、心の重荷が軽くなったように感じた。
この経験を通じて、サトルは歴史の偉人たちが意識の輪廻を経て、今もなお我々に語りかけているのだという確信を得た。
彼は、彼らの教えを引き継ぐため、意識の科学をさらに深めていく決意を固めた。
サトルの研究は、過去の歴史と個々の存在を結びつけ、意識の進化の旅を明らかにすることにつながっていった。
◼️歴史の宴
そろそろ、サトルが私に語った「嘘か本当か分からない話」に入ろう。
ある晩、研究に疲れたサトルが瞑想していると、そこはいつのまにか古代ローマの酒場だった。
目の前には、カエサル、アウグストゥス、さらにはクレオパトラがいて、すでに盛り上がっていた。
「サトル、君も飲まないか」とカエサルが笑顔で呼ぶ。
テーブルには、ワインのグラスが並んでいて、周りにはチーズと果物、さらにケーキが山積みだ。
クレオパトラは、目を輝かせながら「これ最新のデザートなの、ピスタチオのムースよ」と自慢げに差し出した。
「お、これは美味しそうだ、さすが女王だね」サトルは早速ムースを味わい、思わず感激する。
「君もスイーツ好きなんだな」とアウグストゥスが微笑む。
「俺はローマの歴史を語りたいだけだが、スイーツがあるなら話も盛り上がる」。
そんな中、アレキサンダー大王が登場。「俺のために、ミントモヒートを用意してくれ。征服した土地の酒が飲みたい。」と彼は叫び、周囲を盛り上げる。
サトルは、アレキサンダーの情熱に触発され、「お酒は大事だが、やっぱりスイーツも負けず劣らず最高だよ。」と叫んだ。
その瞬間、ハンニバルが「戦争の話より、甘いものをどうにかしろ。」と突っ込んできた。
「このチョコレートタルト、最高だぞ。」と言って自分の好物を見せびらかす。
さらに、ナポレオンも参加し、「俺のためにシャンパンを持って来い。」と叫びながら、チーズケーキを一口食べてニヤリ。サトルはその光景を見て、「ナポレオン、意外に甘党なんですね。」と驚いてみせた。
その後、チンギス・ハンが入ってきて、「俺はバイキングの時代の焼肉と日本酒が恋しい」と呟いた。
周囲は爆笑。「そのリクエストには応えられないが、ウイスキーならあるぞ。」とカエサルが言い、グラスを持ち寄る。
宴は次第にヒートアップし、各国の名物酒やスイーツが次々と登場した。アレクサンダーは「パフェもいいが、肉料理も外せない。」と叫び、サトルは「よしみんな、朝まで歴史的な酒の会をしようぜ。」と興奮気味に応じた。
偉人たちは互いに酒を酌み交わしながら、戦の策略や恋愛、政略の話を楽しんだ。サトルは、彼らが意外にもお茶目で、甘いものを愛する一面を持っていることに気づく。
「もしかして、意識の輪廻転生って、こういう楽しみ方が本当の目的なんじゃないか。」とサトルは思った。
歴史上の偉人たちは、結局のところ仲間と楽しい時間を過ごすために生まれ変わっているのかもしれない。
こうしてサトルは、酒とスイーツに満ちた宴の中で歴史の偉人たちと共に過ごし、彼らの心の奥底に触れることができた。
次の瞬間、彼は意識を戻した。
そこは研究室だった。
だが、彼の心には確かに、偉人たちとの楽しいひとときが残っていた。
次は誰と乾杯しようかと考えながら、サトルは研究の道を歩み続けていると言って、お茶目に笑った。
数日後、再びローマの酒場に戻ると、宴はますますヒートアップしていた、
サトルはさらに数を増した歴史上の偉人たちとの交流に夢中になった。
彼らの好物や酒が次々と登場するたびに、酒場は賑やかさを増していった。
「おい、サトル。次は何を飲むんだ。」とカエサルがグラスを持ち上げる。
彼はワインを一気に飲み干し、「もっと強い酒が欲しい。」と叫んだ。
すると、ナポレオンがブランデーのボトルを手にし、「これ、フランスの最高級だ。ただし、これが一番の酒だと納得できるまで、みんな飲むのをやめるな。」と挑戦的に宣言した。
「それなら、オレは負けられないな。」アレキサンダーが挑発し、モヒートを一口飲み干す。
「俺の征服した土地では、酒の種類も多かったが、こんなに楽しい宴は初めてだ。」
クレオパトラは、ふわふわのレモンケーキを差し出し、「このスイーツ、戦争のストレスを吹き飛ばしてくれるわ。」と言った。
サトルは、「確かに、甘いものはストレス解消に最高だよ。」と同意しながら、みんなでレモンケーキを楽しんだ。
その時、チンギス・ハンが「俺はやっぱり肉だ。最高の肉を用意しろ。」と叫ぶ。
周囲の偉人たちは笑いながら、「それなら、BBQを始めるか。」と盛り上がり、テーブルは一瞬で焼肉パーティーに様変わりした。
みんなが肉を焼きながら、次々と酒を注ぎ合う。
「これぞ、真の戦士たちの宴だ。」とハンニバルが言い、肉の煙が漂う中、彼もビールを手にして参加する。
サトルは、ここまで来ると本当に歴史上の英雄たちが一堂に会しているかのような錯覚に陥った。
「そういえば、歴史にはスイーツ好きな偉人もいたよね」とサトルが言うと、クレオパトラが「もちろん。例えば、マリー・アントワネットよ。彼女は『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』って言ったのよ」と教えてくれた。
クレオパトラは酔っているな。
宴は続き、サトルはさまざまな話題で盛り上がりながら、偉人たちの意外な一面を知ることができた。
ナポレオンが「俺は特製のマカロンを作るのが得意だ」と言い出すと、全員が興味津々で彼に作り方を教えてもらうことになった。
「では、まずはこのクッキー生地を作る…」ナポレオンが説明する間に、サトルは彼の指示通りに材料を混ぜ始めた。すると、チンギス・ハンが「待て。俺も手伝う。肉の合間に甘いものが必要だろ。」とやってきた。
この予期せぬ共同作業は、サトルにとって夢のような光景だった。偉人たちが一緒にスイーツを作る姿なんて、歴史の教科書には載っていないからだ。
その後、焼き上がったマカロンがテーブルに並び、みんなで試食。「これ、めちゃくちゃ美味しい。」とクレオパトラが絶賛し、他の偉人たちも次々と頷く。
「やはり、歴史は味でも継承されるべきだな」とカエサルが言うと、サトルは「そうそう、歴史的な宴がこうして、酒とスイーツで繋がっているのが素晴らしい。」と答えた。
宴は次第に深夜へと移行し、サトルはふと考えた。「この歴史的な集まりが、未来へも影響を与えることができるなら、俺の研究にも役立つはずだ。みんなの意識が繋がり、受け継がれていくんだ。」
最後に、チンギス・ハンが「次はどの時代に行くか、みんなで話し合おうぜ。」と提案。
サトルは心の中で次の冒険を思い描きながら、偉人たちとの絆を深めていった。
こうして、サトルの「超常現象」探求は、酒とスイーツ、そして歴史的偉人たちとの楽しい宴に彩られながら、新たな章へと進んでいくらしい。
次の宴では、どんな面白いことが起こるのか、かえって私の方がワクワクしてきた。
超常現象は お好きですか 向出博 @HiroshiMukaide
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。超常現象は お好きですかの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます